ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章15話『魔槍の毒』

 Hiーガンダムに搭載されたライザーソードは、厳密にはオリジナルであるダブルオーライザーに装備されたものとは異なる。

 全長1万㎞までのビームサーベルを発振する事が出来るオリジナルに対してHiーガンダムの物は射程50m程の極めて限定的な距離でしか振るえず、言ってしまえば威力の高いビームサーベルの域を出ない。しかし射程を引き換えに1度発振してしまえば斬りつける角度の変更や緩急など細かな調整が出来る為、ビーム主体と(あなど)った対ビーム装備を持つ相手を対策の上から潰すためのいわゆる隠し兵装の役割を持つ。

 範囲はアルヴァアロンキャノンに(おと)るが、継続時間及び威力はこちらの方が上だ。

 

 ────だからだろう。

 

 眼前(がんぜん)深紫(しんし)に染まる悪鬼(あっき)が、ライザーソードを防いでいる姿を見て、白昼夢でも見てるかのような錯覚(さっかく)(おちい)る。

 長槍とテールブレードで粒子の奔流(ほんりゅう)を側面に耐えて、そのまま前方へ滑り込む形でエリゴスが眼前に迫った。

 

「がぁッッ……!!?」

 

『リュウさんっ!? ──くぅっ!!』

 

 所謂(いわゆる)体当たりを受け後方へ吹き飛び、背後に迫るデブリへの激突をすんでのところで急制動をかけて回避。めまぐるしく変わる景色の中で正面モニタ、エリゴスの状況を確認する。

 武装、半融解(ゆうかい)。テールブレード大破(たいは)

 ────本体、軽微(けいび)

 

「このッ、化け……ッッ物がぁ!!」

 

 リュウの叫びと同時、エリゴスが長槍を構える。(てのひら)を見せるよう左手をこちらに(かか)げ、右手に握られた長槍の先端がHiーガンダムへと向くそれは武人(ぶじん)様相(ようそう)に思え、少女が危機を察してその場から回避を試みる。

 転瞬(てんしゅん)紅蓮(ぐれん)(まと)っていたHiーガンダムが元の蒼白色に戻り、全身から粒子が漏れだした。

 

 トランザムが、ここで切れた……! 

 

 リュウの身体を扱う少女が即座に操作を切り替えてGNフィールドでの防御を選択、残る1基のバインダーをディフェンスモードへ変更し高密度の粒子の壁が形成される。

 やがてエリゴスの携えた槍が指先で1回転し、槍投げを行う選手の予備動作のよう挙動した。

 突き刺すような刺突、しかしその手の中に長槍はリュウの目では確認できない。

 

「────ッッ!? 槍が、消えっ」

 

 直後、爆撃に晒されたと思える衝撃がコクピットを襲う。

 恐怖で片目を(つむ)ったままモニタを見やれば、長槍がバインダーを貫き、そのまま頭部を穿(うが)っていた。常識外の速度で穿たれた長槍をリュウの動体視力では把握出来ていなかったと理解したのは、後方に吹き飛び無数のデブリ帯へ飛ばされた最中だった。

 

※※※※※※

 

 荒い息を吐く声がコクピットに反響して、肩が不規則に大きく上下を続ける。耳につく呼吸の音が自分から発せられてる物だと気付いたのはつい今しがたで、抑えようと口に手を当てるも電脳世界では意味を成さない。

 電脳世界(アウター)で極度のストレスに(おちい)った場合、強制的にログアウトされるシステムがアウターギアに組み込まれてあるがそれが作動しないあたりリホが何らかの細工を(ほどこ)したのだろうと、ぼんやりと視界が狭まる中リュウはそんな事を思う。

 

 死ぬのか。

 死ぬって、なんだ? 

 

 顔を(おお)う掌が髪を巻き込んで握られ、押し寄せる恐怖が思考する能力を削ぎ取っていく。

 どうしてこんな事になったのか。涙で(にじ)む視界の中、後悔にも近い感情が湧き立ち、記憶を辿ろうにも(もや)がかかったように記憶の詳細が掴めない。

 ────先程槍の一撃を貰いHiーガンダムはデブリ帯の中で主機を落として隠れていた。

 熱源探知に掛かることもなく、レーダーによる索敵もこのデブリの数では見分けるのは不可能だろう。そう言った少女の言葉を二の次もなく呑み込み、事の行き先も見えず息を潜めていた。

 

『…………ごめんなさい』

 

 焦燥(しょうそう)する思考の最中にあっても()んだ水面を思わせる声音が響く。ハッと顔を上げると、しかし正面モニタにはリュウ自身の酷く憔悴(しょうすい)した顔しか映っていない。

 

『私の、…………わた、しのっ……』

 

 声だけが意識に響く。

 (しぼ)り出した声の嗚咽(おえつ)を、聞いていて痛々しい少女の懺悔(ざんげ)が。

 1つ深く息を吐いた気配を感じ、意を決したような声がか細くも通る。

 

『今まで、私はリュウさん────をッッ!? かはっ……!? ぁあ…………?』

 

 しかし、切り出した声は驚愕(きょうがく)激痛(げきつう)の色に染まった。

 

『こんな事も、言わせて貰えないのですかっ…………! ごめんなさい。ごめんなさいっ、リュウさん…………!』

 

 悲痛を圧し殺し、それでも()れる声もリュウにはただただ理解が出来なかった。

 胸に覚えた感情は一抹(いちまつ)の後悔。それも黒く、()みと思える最低な思考。

 最期の時までリュウ・タチバナという人間は()()()()()()なんだなと、知れず口角が引き()って上がった。

 ──こんな。

 ────こんな思いをするのなら。

 

『多くは話せないですがっ、私は、わたしはリュウさんの事を…………!』

 

 ──────ナナの事なんて助けるんじゃなかった。

 

『ほんとうにっ……! 大切な人だと思っていましたっ…………!!』

 

 突如、正面モニタがぶつりと切れた。

 モニタだけではない、リュウが視認している世界が急激な速度で黒に閉ざされつつある。何故と思う前に()()がリュウの目の前に現れた。

 

 ────黄金色の槍、その先端。

 

 リュウの身体を真後ろから突き刺しているこの槍はHiーガンダムの背後にある小隕石ごと貫いていた。

 どうして場所がバレたのか、このまま目を閉じたらどうなるのか。それらの困惑が眠りに落ちる前の微睡(まどろ)みに良く似ているな、と。

 呑気(のんき)にそんな事を考えながら、リュウ・タチバナはゆっくりと目を閉じた。

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