ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章16話『────』

 上はどこなのか、下はどちらなのか、ここはどこなのか。

 (わず)かな光さえ存在しない無窮(むきゅう)の闇のただ中に浮いている。

 時間さえ不確かで、ここが広いのかどうかも分からない暗黒の空間に“リュウ”は存在していた。

 辺りを見渡しても代わり映えの無い純然(じゅんぜん)たる漆黒。世界を覆う闇に自分が目を閉じているのか疑うほどだ。

 ……目。そういえばと身体を確認しようと胸に手を当てるも、そこに胸はなくあるべき身体も無かった。

 

 ───そして、リュウはこの場所を知っていた。

 

 ナナと初めてLinkをした際に訪れた精神世界のような空間。暗然(あんぜん)たる黒が満たす(とばり)の只中。そういえばこの後ナナが座っている場所に行くんだよな、とリュウは口の無い状態──揺らめくデータのままそんなことを思う。

 そして、ふと至った。

 

 だとしたら、ここは何処(どこ)だ? 

 

 ナナが居た白の世界を仮にナナの精神世界と仮定するなら、ここはリュウ自身の精神世界ということなのだろうか。

 だとするなら、──()()()()()()()()()

 思い()せる(きら)びやかな記憶も、思い出すのが億劫(おっくう)な記憶も、それらの欠片さえ見えないこの世界をリュウ自身が作っているのなら()()()()()()()()()()()()()()

 その証拠に、前回来たときは幼い頃の記憶が辛うじて(のぞ)けたが今では正真正銘見る影も無い。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………? ……あ、れ? 覚えてる……、覚えてるぞ? 俺……」

 

 幼少の頃エイジと出会って次にコトハと知り合って、ガンプラで仲良くなるうちにコトハが萌煌(ほうこう)学園に受験しようなんて馬鹿な事言い出して……!! 

 全部、全部覚えている……!? 

 あれだけ意識に(もや)が掛かったように思い出せなかった情景(じょうけい)の数々がつい先日の出来事のように思い出せる。

 

『どうか、彼女の事を責めないで欲しい』

 

「────ッッ!!? 誰だッ!!」

 

 転瞬、背後から聞こえた声に振り返る。

 

『久し振り、とだけ伝えておこう。……大きくなったな、リュウ』

 

 見渡していた黒の世界がいつの間にか白の世界へと変わっていた。

 白の世界と言ってもナナが居た場所ではなく、広大な円状の世界の背景に様々な映像が映し出されている。草原で戦闘をするガンプラや模型を組み立てている子供、それら膨大な映像の切り取りの中に幼い頃のリュウを見付けた。

 その、空間の中心。

 

「アン……タ、は?」

 

 男が立っていた。

 白のフードを深々と被った、長身の男が。

 

『フードコートでコトハちゃんに言われただろ? “ヒーロー”って。それでピンと来ないのなら俺の事は思い出せない』

 

 声は知っている。知っているが思い出せない。

 全てを包み込んでくれる優しい声も、後ろを付いていきたくなる大きな姿も、全て知っている筈なのに思い出す事が出来ない。

 

『時間が無いから手短に行くぞ。リュウ、お前の肉体は今確実に死んでいる』

 

「そ、────そうだッ!! Link中に撃墜されたんだ、意識がロストして死ぬって言われたのに!」

 

『それを、俺のおまじないでどうにかする。あと、あれだ。今は記憶が全部戻っているけど意識が返ったらまた忘れてる状態になる。だからここでの事は記憶に残らない』

 

「は──────?」

 

『記憶も1つだけ返してやる。そうだな……、多分これが一番()()()だろう』

 

 (まく)し立てる男性の言葉に言葉が続かない。

 Linkの制約である死を取り除いて、それでここでの記憶は残らない──? 

 加えて何らかの記憶は戻るらしいが、何よりも気になるのがこの粗暴(そぼう)とも思える男の振る舞い。リュウにとって酷く懐かしい感情が胸を()くが先程から正体の尾すら掴むことが出来ない。

 

『んじゃま、状況も理解出来ていないと思うがそろそろ時間だ。────ここで言っても仕方の無い事だが、良いか? リュウ』

 

 (さと)すような声音の男の姿はやはりぼんやりとした輪郭(りんかく)で。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『今のお前が精神的に酷い状況なのは、あの娘が()()()()()()()()だからだ。それはどうしようも無い事であの娘もお前も悪くない。だから、自分を責めるのはやめろ…………なんて言わない。だがまぁ、ほどほどにしとけ』

 

 声が遠ざかる。

 男を中心として世界が収束していくように線となり、白の世界が色を強める。

 轟音が耳をつんざき耳を抑える中、男の声だけはリュウの頭に響き続けた。

 

『リュウっ! ──────あの娘を、……ナナを頼んだぞ!!』

 

 その声を最後に、まるで映像が終わるを告げる際一瞬画面に白が一閃(いっせん)するように世界が閉じて。

 再び暗黒がリュウの意識を覆い尽くした。

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