ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章18話『result』

 開けた視界へ溶け入るよう夜闇(よやみ)に去らされた天井の薄白(はくひょう)が、未だ現実との境界(きょうかい)曖昧(あいまい)な意識にぼんやりと映る。

 ()ける夜に射し込む冷ややかな光。学園都市は人類の叡知(えいち)の結晶が惜しみ無く注ぎ込まれた技術のユートピアだと聞いたことがあるが、深夜ともなれば環境保全の為に密集したビルや施設から灯りが殆ど消え、元の山岳地帯の自然を思い出させる満天の星空が人の営みの代わりとなって学園都市を照らす。

 そんな感慨(かんがい)を思いつつ、(きし)みを上げるソファから倦怠感(けんたいかん)が残る上体を起こすと、目に入るのは病院のベッドで瞳を閉じる少女。

 遥か遠くの宇宙(そら)耀(かがや)おとめ座(スピカ)が目の前で眠る少女を優しく星光で抱き、眠り姫の寝顔も今だけは少し和らいでいる気がした。

 壊れぬよう指先をそっと少女の頬へ触れ、(ほの)かに感じる体温と微|(かす)かに脈動する心臓に。

 ────次の瞬間、水を打ったよう背後を振り返る。

 

「やはり君の身体と君のエリゴス、僕に良く馴染む素晴らしい代物だね」

 

「……、妹はこれで解放されるのよね?」

 

「そう焦らなくでくれよ。君に知らせたくって(たまら)らない素敵な知らせがあるんだ」

 

 影で顔が半分隠れた少年が愉快そうに笑みを貼り付けながらその──深紅(しんく)双眸(そうぼう)を暗闇に光らせる。

 ()れ言に付き合うつもりはない、が。それがベッドで眠る少女、妹の事ならば話は別だ。

 

「ついさっき()が戦ったファイターのデータだ」

 

 そう言ってタブレット型の端末を投げ渡して、手にして見れば成人していない少年の写真、それと使用ガンプラや年齢等が表示されていた。

 特筆する事の無い平凡な少年。

 これが何だと目を細めると、喉の奥で(わら)う声が病室へ耳障りに響いた。

 

「……嫌がらせのつもりなら意味は無い。妹を救うためなら私は何だってする。お前に身体を明け渡して、電脳世界でファイターを狩ることに今更罪悪感なんて────えっ?」

 

 言いながら、女性の声が詰まる。

 リュウ・タチバナと表示された画面の右上、資料を撮影したであろう画像のそこに赤々と判子が押されている事に気付いた。

 ──────死亡。

 そう、押された資料。

 

「ごめんごめん、そういえば話してなかったね。今回のLinkで相手をしたのは僕らと()()接続者(コネクター)だったんだ。接続者(コネクター)同士の戦闘は負けた方が死ぬって話、したっけ?」

 

「────ッッ!! そんな話ッ、一言も聞いていないっ! え、あ。……じゃあ、この少年は……?」

 

 いつの間にか耳元へ口を寄せていた少年から逃れるよう後退(あとずさ)り、言い渡された言葉を脳内で反芻(はんすう)する。

 ……そもそも電脳世界で負けて現実世界で死ぬという話が荒唐無稽(こうとうむけい)な冗談だ、そう笑い飛ばしたい気持ちが目の前の悪魔を見て消え溶けた。

 コイツの、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「リュウ・タチバナ……、僕の()が効かない人間だったから期待していたけど、いやはや残念だ。────君が殺す人間はあと2()()。これからもよろしく頼むよ」

 

「話が違うッッ! あのLinkが最後だと、お前はそう私に言った筈だ!! 妹を治せッッ! 今、ここでっっ!!」

 

 女性が少年へ飛び掛かる形で詰め寄り、激情に任せたまま小柄(こがら)体躯(たいく)の背を壁へ叩き付ける。(えり)を締め上げて睨み付ける瞳が、対して冷酷(れいこく)にどこまでも()めた眼と相対した。

 口の形だけが別の生き物のよう、ぐにゃりと曲がり。

 

「君は僕にすがるしか無かった。その君を僕は利用したんだ────10年以上も言うことを聞いてくれてありがとう」

 

 少年の瞳が、大きく見開かれた。

 直後、(うつろ)ろげな表情へ変わる女性の頬へ手の甲を当て。

 

「妹が起きる……? 改めて告げよう────アレは嘘だよ。目覚める訳ないじゃないか、そこの肉塊は僕とLinkしたんだから。まったく、最後まで抵抗した面倒な人間だったよ」

 

 振りかぶり、女性の(ほほ)へと裏拳を繰り出す。

 抵抗も無い肌に突き刺さる拳のまま女性は倒れ、鼻から垂れた血が病室の床に一筋と伸びた。

 

愉快(ゆかい)な反応だったけど僕に触れるのはいけないなぁ。……さてさて、余興(よきょう)は終わりだ。────何より今日は2()()()()()()()()()()()()()

 

 横目で今しがた倒れた女性を流し、少年の瞳が月を見る。

 片耳に────丁度アウターギアが掛かる位置へ手をあてがい呟くように、念じるように小さく言葉を紡いだ。

 月夜しか見ていない室内へ、そっと(ささや)くような声のまま。

 

「起きろ──────、Nitoro:Nanoparticle」

 

 内に存在する()()へ向けて。

 数秒。しかし言葉は返ってこず、少年のその深紅の瞳を1度(またたか)かせる。

 

「反応が無い…………? おかしいな、確かにコクピットを貫いて殺した筈だが」

 

 思考するのは一瞬。

 それから床に転がるタブレットを乱暴な手付きで操作し、画面が切り替わる。

 ノイズが薄く走り、やがて深紫(しんし)の髪を揺らして、鋭利(えいり)な刃にも見える理智(りち)的な目が少年と対峙(たいじ)する。

 

『何の用かしら』

 

「僕の中にNitoro:Nanoparticleの反応が無い、すぐに調べて報告しろ」

 

『調べるまでもないわ。実験は終了、貴方はリュウ・タチバナから吸収したはずよ。…………貴方こそちゃんと上手く起動できていないんじゃないかしら?』

 

「余り思い上がらない方が良いよ、僕がキミに眼を使わないのは温情に過ぎない。鳥籠(とりかご)の中で安寧(あんねい)と過ごすだけの生物が主人へ対等に口を聞くとは、これはまた()()が必要かな? リホ・サツキ」

 

『………………』

 

 刺すような空気が部屋に満ちる。

 しばらくして愉悦(ゆえつ)(はら)む目をリホへ向け少年は一つ溜め息を吐いた。

 

「僕はキミには感謝しているんだ。どうかこの()()を無下にはしてほしく無いね」

 

 未だ少年を睨むリホの、憎悪(ぞうお)とも悔恨(かいこん)とも取れる表情を微笑みのまま見詰める目が。

 突如、暗転する画面からの異変によって僅かに歪む。

 

「何が起きた」

 

『さっきの実験へ電力を使いすぎたようね。主電力が一瞬だけ落ちただけよ、すぐに回復するわ」

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