ぼんやりと虚空を見詰めてどれ程の時間が経ったのだろう。
彼が出ていってから記憶が
そも、連絡したとして誰にするというのか。
「リュウさん…………」
言葉が無意識に口から出る。
悔しかった。
本当は彼に全てを伝えたかった、逃げてと叫びたかった。
それでもこの口がそれを
「ちゃんと、謝りたいです」
許されたいなんて決して思わない。
去る時に見せた
彼が胸にこさえた物を全てを出すまで、何をされる事になろうとも相対したい。
────私を、断罪して欲しい。
しかしそれももう叶わないと
その時だった。
「────っ?」
視界が一瞬で真っ黒に染まり、すぐさま照明が
耳を済ませば
「これなら、……外に出られます」
今更彼に合わす顔なんて無い。別れ際、彼から告げられた言葉は今だって痛いほどに頭の中を回っている。
────それでも。
立ち上がる足に先程までの迷いはない。服のなかに忍ばせたアイズガンダムを握って、私は扉へ掌を翳した。
※※※※※※
足取りはおぼつかず、自身が何処を目指して歩いているのかさえ分からない。
深夜ということもあってか学園周辺は人が少なく、
エイジと喧嘩をした、あの公園。賑わう人々が去った後の、自然豊富な山岳特有の心地よい緑の香り。
明日になればここもまた萌煌学園の生徒や周辺に暮らす子供達で溢れ、他愛のない日常を過ごす為の場となるのだろう。
不愉快だった。
詳細の知れない実験に振り回されて、2度と自分には手に入らないその日常を
視界が
浅はかだった。短絡的だった。
そも、思い返せば気にかかる点は
素性の知れぬ少女、口外を義務付けられた生死を掛けたガンプラバトル、意識を他の人間に明け渡して操作技術を何倍にも高めるLink。それらを気にすることすら──否、少女を助けるというお題目で見て見ぬ振りを続け、少女を助けるという行為で過去に自分の犯した行為を紛らわせる自己満足。
当然の仕打ちと考えればそれも仕方無いか。
薄く
帰ろうにもリュウの持つガンプラに関しての記憶は全て最悪の物であり、誰かに頼ろうにも学園都市内で親しくなった人間は全てガンプラでしか繋がっていない。その記憶が消えた今、リュウは心からの友人達を除いて誰からも必要とされず、エイジとも昨日喧嘩したばかりで関係の修復は見込めていない。コトハやユナにも、今の自分じゃ迷惑を掛けるだけだということをリュウは知っている。
────ならば、行く場所は1つだけ。
『こんばんわお兄さん』
意識の外側からの声にリュウが
腰まで伸びた長髪は整えられ、彩る金色は白を帯び。
小悪魔めいた
『ガンプラバトル、しない?』
演技めいた動きに合わせて短いスカートがふわりと揺れ、少女の年齢とはちぐはぐの
「今は、気分じゃない」
「学園都市に在住する全ての人間はガンプラファイター。誰もがガンプラバトルを楽しんでいる人。そう聞いたんだけど、お兄さんは違うのかな?」
1歩2歩と近づいてくる少女から、微かに甘い香りが
的外れの
「────近くに女の子が見えないのは、お兄さんもしかして喧嘩でもしたの?」
「っっ!!?」
心臓を握られた錯覚にリュウの視界がぶれる。
……ナナを、知っている?
いつの間にか手の届く距離まで近付いた少女は挑発にも見える笑みのままリュウを見下ろし、底知れぬ感情が渦巻く瞳と相対した。
薄い橙色の瞳は、やはり記憶の少女を連想させて。
「……ま、だよ」
「えっ何? 良く聞こえなかったなぁ~?」
「邪魔だよお前。何処の誰か知らねぇけど、いいさ。ガンプラバトルしてやる。その代わりバトルが終わったら2度と顔を見せるな」
相手がこちらの事情を知っていようがもう関係ないし、あの実験の事は考えたくも無かった。
リュウが発した怒りをどこ吹く風と言わんばかりに
そのままくるりと反転し、夜風が1つ少女とリュウの間を横切る。
木の葉の擦れのざわめきの中、少女の唄うような声が夜闇に小さく口ずさまれた。
『────だってさ、アデル』
少女が横へ1歩ずれて、開けた公園の闇に人影をリュウは認めた。
男だ。
歩いてくるその影はやがて冷たい外灯によって徐々に晒され、刺すような
深紫の髪は夜風に合わせてたなびいて、どこまでも冷えた声音で男は告げた。
「お前は、────ガンプラバトルは好きか?」
その言葉はリュウにとってどうしようもなく運命的だった。
どこまでも目の前の2人は自分を
「
アウターギアから発せられた信号を公園地中の装置が受け取り、淡く光る粒子がリュウを含む3人の足元を緑に輝かせる。
合わせて両手を構えた男は顔色1つ変えずにリュウを鋭利に見詰め、2人が言葉を紡いだのはほぼ同時だった。
『バウトシステム……、スタンバイッ!』