ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章20話『ガンダムシュトラール』

 Hiーガンダム。

 アイズガンダムをベースに設計されたこの機体は元機に装備されていた大型のGNシールドを破棄し新たに複合兵装であるGNタチを装備、改修された背部バインダーはオーライザーユニットを参考にした粒子制御用のシステムを加えた物に変更してある。

 更に各部へ搭載(とうさい)された装備によってレギュレーション600ながらに扱える火器の数は群を抜いて多く、戦況を見極めればあらゆる事を実行出来る機体性能(ポテンシャル)を秘めている機体だ。

 

 しかし皮肉にもリュウはこの手のような多くの装備を持つ機体の扱いは苦手で、リュウが得意とするスタイルは『基本性能が高い機体で取り回しの良い少数の装備を使う』事であり、その理由も膨大(ぼうだい)な装備に振り回されて目の前の敵に集中出来ないという本末転倒(ほんまつてんとう)な事にはしたくなかったからである。

 装備が増えれば機体重量が増える。間接の負荷も計算し機体バランスも考えなければならない。コンマ1秒の遅れが致命的な近接戦闘において近接武装が複数あることはリュウにとってストレス以外の何物でもない。

 

 自信の頭の回転が遅いことを自覚しているリュウは故にHiーガンダムのような機体を扱うのが苦手だった。

 なら、何故この機体を製作したのか──? 

 

「Hiーガンダム起動確認(アクティベート)機体性能万全(システムオールグリーン)

 

 理由は白髪の少女、ナナがどういった戦法を好むのかを試験するための機体だからだ。

 初めてのLinkの際、萌煌学園の生徒のリュウをして異常とも言える機動(マニューバ)で敵機を屠ったナナの為に作った実験機、それがこのHiーガンダムだ。否──だった。

 

 先程ガンプラバトルは好きかと問われた。

 ふざけるな。

 Hiーガンダムを思う度、Hiーガンダムを操作する度、覚えるのは増していく頭痛と裏切られたという憎しみだけだ。

 

「だけどそれも」

 

 このバトルで、リュウの。

 ────自分にとって最後のガンプラバトルなんだから。

 ()め果てた瞳に光は微塵(みじん)も見えず、少年は無造作に操縦桿を押し倒す。

 

※※※※※※※※

 

 雲間に隠れた三日月がぼう、と空を淡く照らす。

 まばらに散った雲と、地平の境界から伸びる平野にはステージエフェクトとして榴弾跡(りゅうだんこん)穿(うが)たれた地面が無数に空いており、更に続くフィールドに突如として立ち並ぶ欧州風の建築物の数々。巨大な時計塔を中心とした都市には一切の明かりが見当たらず、噴水の水も枯れ果てたのか今では()び朽ちたままかつての造形を(かぜ)に削られている。

 

 バトルフィールド、夜間市街地。

 

 時計塔上空へ出撃ゲートが開き、そのままHiーガンダムを時計塔麓に忍ばせる。降下の際に得た戦域データを正面モニタ右上に映されたレーダーへと反映させた。

 大通り(メインストリート)、その中心。

 敵性を示す赤のレーダーフリップが時計塔を挟んでHiーガンダムと相対していた。

 

「武装スロットEX。アルヴァアロンキャノン・レグナントブレイカー展開、GN粒子制御安定」

 

 粛々(しゅくしゅく)と。

 次々と(またた)画面(ウィンドウ)を操縦桿で操作しながらリュウは作業を進める。

 動かないのは余程自分に自信があるからか、それとも別の何かか。

 理由なんてものはどうでもいい、ただ早くバトルを終わらせる為にリュウは無表情に冷えた面持ちで最後の入力を終える。

 腰後部GNスマートガンが前面に展開され粒子の稲妻(いなづま)が砲身を走ると同時、フリーダムガンダムがバラエーナを展開するが如く背部バインダー2基も正面に展開し、煌々(こうこう)と輝くエネルギーの球体が金色と赤をない交ぜにした色で解放の時を待つ。

 

「アルヴァアロン……」

 

 球体型の操縦桿で照準を微調整する手の動きの(よど)みの無さ。

 自動補正及び偏差補正の照準線(レティクル)が完全に重なり必中を示す緑の点滅をリュウに伝えたと同時、()めた相眸(そうぼう)を一瞬(すが)める。

 撃発(トリガ)

 

「──キャノン」

 

 抑制(よくせい)されていた力場が解き放たれ真紅の粒子が時計塔の根本へ突き刺さる。根幹(こんかん)を貫かれた長大の塔は見る見るうちに(かたむ)きが大きくなり、吹き荒れる粒子砲は近辺の建築物を溶かして、あるいは衝撃波で吹き飛ばしていく。

 その、奔流(ほんりゅう)が狙う先。

 正面モニタに映されたレーダーが爆発的に放たれたGN粒子によってノイズで荒れる。

 振動で揺らぐ操縦桿を決して離さず、チャージした粒子の一片まで対象目掛け粒子を放ち続けるその(かたわ)ら。遂にバランスを崩した時計塔が敵機が立っていたであろう地点へ倒れ始める。

 ごおぉぉん、と頂上に吊るされた大鐘が断末魔のよう静まり返った市街地に響きながら、地響きと共に粒子の直線上へとその身を倒した。

 同時、チャージしていて粒子が切れ、Hiーガンダムの粒子口から赤熱した蒸気が音を立てて吐き出される。

 戦域そのものが振動に揺れるような衝撃が視界を上下させ、土煙と土砂が巻き上がり周辺一切が黄土(おうど)の闇に覆われた。

 GNフィールドを展開せず土砂降りそのものを機体で受ける中、徐々に静まりゆく市街地の中心を見詰める少年の目。

 

 夜風が1つ平野から吹き抜ける。

 

 北風を思わせる強く鋭い風の波が立ち込める土煙をぶわりと揺らがせ、次の瞬間には彼方へと流れ行く砂の斜幕(しゃまく)

 晒された時計塔の巨体の、敵機が立っていた景色が不意に()()()

 

「なん、だ……?」

 

 夏の日の炎天下に良く見かける、遠い景色が陽炎(かげろう)で揺らぐように、敵機が立っていた時計塔の横たわっている空間が、緩やかな風で()がれている木の葉の如く形を微細(びさい)に変える。

 錯覚では無いことはHiーガンダムを通してモニタに映る映像が雄弁(ゆうべん)に語っており、その直後。時計塔が赤熱の色に染まったと思えば、ボジュン! と水音を立てて溶けた時計塔の横腹が()ぜて飛び散った。蟻地獄が掘った狩り場さながらに時計塔が大地に沈んでゆき、まるでマグマに融解(ゆうかい)した建造物が呑まれていく光景を、リュウは思考する事を忘れ目の前の光景にただ見入る。

 アルヴァアロンキャノンによって焼かれた地表を上塗って溶かす煉獄(れんごく)の様相。

 溶岩地帯の一角と変わり果てた戦域に、警告音が突如として意識を切り裂く。

 

「攻撃ッッ!!?」

 

 咄嗟(とっさ)にHiーガンダムのバインダーを側面に展開し──ディフェンスモード、2基の粒子発生器が高純度のGN粒子の壁を形成し機体を隠す。

 同時に赫灼(かくしゃく)と燃える地面一帯の輝きが太陽のそれと同じに成り、閃光が一筋煌めいた。

 

「ぐ、ううぅう……! 何が起きて……!?」

 

 先程Hiーガンダムが放ったアルヴァアロンキャノンと同等の光線が天に向かい真直線へ伸び、炎が螺旋(らせん)として炎柱の周りを描くその根本。

 不規則に光柱へ斜線が走ったと思えば、何かに寸断されたかのよう熱の柱が揺らめいて再び地面へと(かえ)っていく。

 

()()が、灼熱(しゃくねつ)の塔を斬った事をリュウは本能で理解した。

 

 4枚1対の剣の翼と、紅蓮(ぐれん)に彩られた装甲から覗いたマグマの如く輝いた内部装甲。

 漏れ出した光芒(こうぼう)を一身に受け妖しく光る長剣。

 羅刹(らせる)荒神(あらがみ)か、(たたず)むだけで足元の岩は当てられた熱でその身を崩し赫熱(かくねつ)の影が出来上がり、足元から照らされた周囲を威圧(いあつ)するその機影。

 

 ────レギュレーション800。ガンダム・シュトラール。

 

 熱と衝撃に耐えた中、正面モニタへ映された敵機の情報にリュウは愕然(がくぜん)と目を見開いた。

 敵機──シュトラールの外観から見て取れる近接格闘機の意匠(いしょう)、レギュレーション800における近接格闘機体の危険性が頭痛と共に思い出される。

 レギュレーション800はガンプラバトルの野試合において使用できるレギュレーションの中で最高の帯であり、搭載(とうさい)出来る装備は全て最高性能に近い物だ。Exーsガンダムならば高機動から放たれるリフレクターインコムとビームスマートガンによる狙撃、ユニコーンガンダムならば圧倒的な火力を持つビームマグナム、ダブルオーライザーであれば高水準に(まと)まった機体性能から繰り出される豊富な射撃と近接択。そしてレギュレーション800に属する機体の多くが保有している特殊システムの存在であり、システムを一度発動すればどんな劣性な戦局も覆すことが可能な性能を引き出すことが出来る。

 

 目の前のこの機体は、それらレギュレーション800に属する最高性能の近接機体。

 加えて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実がリュウの思考に警鐘(けいしょう)を鳴らした。

 横目でモニタに表示された機体ステータスを見れば、アルヴァアロンキャノンによって消費した粒子も戦闘可能レベルまで回復しつつあり、もう1度アルヴァアロンキャノンを使わなければトランザムも使えるだろう。

 地面を踏みしめ支えにし、GNバスターライフルの標準をシュトラールへ。

 撃発(トリガ)

 夜の闇を裂く真紅の矢に晒され、シュトラールは増加装甲の施された右腕を正面へ(かざ)す。

 ズドン! と増加装甲から爆炎があがったと思えば熱の衝撃波がバスターライフルの射撃を打ち消し、空いた左腕を機体後方へ構えているのをリュウは認めた。

 警告音(アラート)

 

《──敵機接近中──》

 

「なッッ!!? この距離をっ!!?」

 

 増加装甲による起爆を瞬間的な加速とし、脚部追加スラスターからオレンジ色で煌めく粒子を噴き上がらせてシュトラールが眼前へ迫る。

 即座に2基のバインダーを前方に展開し、後退と同時にバスターライフルを射撃。

 1射2射と、立て続けに放たれたビームを舞踏さながらの動きで増加装甲の炸裂を用いて打ち消しながら肉薄するシュトラールにリュウは慄然(りつぜん)(うめ)きを口内で発した。

 

(コイツっ! 止まらねぇ……!!)

 

 バインダーを前方に展開し高速で後退出来るのはHiーガンダムの長所の1つだが、初めから『接近して敵機を撃滅(げきめつ)する』事が主題である近接格闘機体のシュトラールは難なくHiーガンダムの(ふところ)へ間合いを詰める。

 シュトラールが手にする長剣が閃くのと、HiーガンダムがGNタチを抜くのはほぼ同時。

 

 ────だが。

 

 月夜(つきよ)緑光(りょっこう)に輝く刀身が音を立てて(おど)る。

 Hiーガンダムが手にしていたGNタチは半身を斬り飛ばされ、(むな)しい風切り音が操縦席(コンソール)に響いた。

 その場で振るっただけの剣と、加速と体幹(たいかん)を最大限使用した斬撃の威力の差。

 1合で理解出来た、シュトラールを()るあの男の近接センス。振り上げられた斬撃のスローモーションの中、訪れるであろう敗北の未来が容易に想像できた。

 

『多くは話せないですがっ、私は、わたしはリュウさんの事を…………!』

『ほんとうにっ……! 大切な人だと思っていましたっ…………!!』

 

 少女の声が頭で響く。

 途端(とたん)に沸き上がった怒りが無意識に敗北を享受(きょうじゅ)していた身体を突き動かし、頭痛を奥歯で耐えながらもリュウは半身を失ったGNタチの(つか)()()へと向ける。

 シュトラールの刃は空を斬り、Hiーガンダムのバインダー先端を欠けさせるだけに留まった。

 GNタチの柄に備わるワイヤーアンカー、それを建物に打ち込んでの強引な回避で何とかやり過ごし、(わず)かな安心が胸に(よぎ)った刹那、不穏な風切り音と共に機体バランスが大きく揺らいだ。

 

 事態に困惑しながら地面へ激突する直前でバーニアを(たけ)らせて体勢を立て直すその最中、激しい衝撃が操縦桿を揺らしシュトラールへ意識を向ける。

 シュトラールの背中に備わる4枚1対の剣翼、その1本を無造作に射出し()()()()を入れる一見すれば大道芸のような光景がモニタに映された。

 

 ────あれは、()()()……! 

 

 直感が告げる。

 事実GNタチのワイヤーは半ばで切断されており、Hiーガンダムの後方には徹甲弾で穿たれたような大きな弾痕が建物を幾重にも貫いていた。──あれが、もう一発来る。

 回し蹴りが剣翼を捉えたその瞬間に、指を滑らせて武装スロットのカーソルを一番右へと合わせる。

 

「トランザムッッ!!」

 

 剣翼はリュウの読み通りHiーガンダムが存在していた場所を的確に射抜いており、鋭利な刀身はバターにナイフを入れるよう建物を抵抗無く突き進んでいった。

 思考が、回転(まわ)る。

 電脳世界(アウター)内でエリゴスと戦闘した際よりも、暗礁地帯でカレンと戦った時よりも。

 あの時は観測していただけにも関わらず死という実感が思考を引っ張っていたのか、今はどうしてか冷静だ。戦局を分析できる。

 その事実の(かたわ)ら、際限(さいげん)無く増していく頭痛に視界が僅かに揺らいだ。

 

 警告音。

《──敵機、接近中──》

 

 それは表示される筈の無い画面メッセージだった。

 トランザムによる高速移動、それも少女に合わせた速度を極端に上げたリュウでは扱いきれない純然(じゅんぜん)なトランザムの最中に。

 正面モニタ中央、今まさに掌へ光球を輝かせるシュトラールが片腕を振り上げていた。

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