Hiーガンダム。
アイズガンダムをベースに設計されたこの機体は元機に装備されていた大型のGNシールドを破棄し新たに複合兵装であるGNタチを装備、改修された背部バインダーはオーライザーユニットを参考にした粒子制御用のシステムを加えた物に変更してある。
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しかし皮肉にもリュウはこの手のような多くの装備を持つ機体の扱いは苦手で、リュウが得意とするスタイルは『基本性能が高い機体で取り回しの良い少数の装備を使う』事であり、その理由も
装備が増えれば機体重量が増える。間接の負荷も計算し機体バランスも考えなければならない。コンマ1秒の遅れが致命的な近接戦闘において近接武装が複数あることはリュウにとってストレス以外の何物でもない。
自信の頭の回転が遅いことを自覚しているリュウは故にHiーガンダムのような機体を扱うのが苦手だった。
なら、何故この機体を製作したのか──?
「Hiーガンダム
理由は白髪の少女、ナナがどういった戦法を好むのかを試験するための機体だからだ。
初めてのLinkの際、萌煌学園の生徒のリュウをして異常とも言える
先程ガンプラバトルは好きかと問われた。
ふざけるな。
Hiーガンダムを思う度、Hiーガンダムを操作する度、覚えるのは増していく頭痛と裏切られたという憎しみだけだ。
「だけどそれも」
このバトルで、リュウの。
────自分にとって最後のガンプラバトルなんだから。
※※※※※※※※
雲間に隠れた三日月がぼう、と空を淡く照らす。
まばらに散った雲と、地平の境界から伸びる平野にはステージエフェクトとして
バトルフィールド、夜間市街地。
時計塔上空へ出撃ゲートが開き、そのままHiーガンダムを時計塔麓に忍ばせる。降下の際に得た戦域データを正面モニタ右上に映されたレーダーへと反映させた。
敵性を示す赤のレーダーフリップが時計塔を挟んでHiーガンダムと相対していた。
「武装スロットEX。アルヴァアロンキャノン・レグナントブレイカー展開、GN粒子制御安定」
次々と
動かないのは余程自分に自信があるからか、それとも別の何かか。
理由なんてものはどうでもいい、ただ早くバトルを終わらせる為にリュウは無表情に冷えた面持ちで最後の入力を終える。
腰後部GNスマートガンが前面に展開され粒子の
「アルヴァアロン……」
球体型の操縦桿で照準を微調整する手の動きの
自動補正及び偏差補正の
「──キャノン」
その、
正面モニタに映されたレーダーが爆発的に放たれたGN粒子によってノイズで荒れる。
振動で揺らぐ操縦桿を決して離さず、チャージした粒子の一片まで対象目掛け粒子を放ち続けるその
ごおぉぉん、と頂上に吊るされた大鐘が断末魔のよう静まり返った市街地に響きながら、地響きと共に粒子の直線上へとその身を倒した。
同時、チャージしていて粒子が切れ、Hiーガンダムの粒子口から赤熱した蒸気が音を立てて吐き出される。
戦域そのものが振動に揺れるような衝撃が視界を上下させ、土煙と土砂が巻き上がり周辺一切が
GNフィールドを展開せず土砂降りそのものを機体で受ける中、徐々に静まりゆく市街地の中心を見詰める少年の目。
夜風が1つ平野から吹き抜ける。
北風を思わせる強く鋭い風の波が立ち込める土煙をぶわりと揺らがせ、次の瞬間には彼方へと流れ行く砂の
晒された時計塔の巨体の、敵機が立っていた景色が不意に
「なん、だ……?」
夏の日の炎天下に良く見かける、遠い景色が
錯覚では無いことはHiーガンダムを通してモニタに映る映像が
アルヴァアロンキャノンによって焼かれた地表を上塗って溶かす
溶岩地帯の一角と変わり果てた戦域に、警告音が突如として意識を切り裂く。
「攻撃ッッ!!?」
同時に
「ぐ、ううぅう……! 何が起きて……!?」
先程Hiーガンダムが放ったアルヴァアロンキャノンと同等の光線が天に向かい真直線へ伸び、炎が
不規則に光柱へ斜線が走ったと思えば、何かに寸断されたかのよう熱の柱が揺らめいて再び地面へと
4枚1対の剣の翼と、
漏れ出した
────レギュレーション800。ガンダム・シュトラール。
熱と衝撃に耐えた中、正面モニタへ映された敵機の情報にリュウは
敵機──シュトラールの外観から見て取れる近接格闘機の
レギュレーション800はガンプラバトルの野試合において使用できるレギュレーションの中で最高の帯であり、
目の前のこの機体は、それらレギュレーション800に属する最高性能の近接機体。
加えて
横目でモニタに表示された機体ステータスを見れば、アルヴァアロンキャノンによって消費した粒子も戦闘可能レベルまで回復しつつあり、もう1度アルヴァアロンキャノンを使わなければトランザムも使えるだろう。
地面を踏みしめ支えにし、GNバスターライフルの標準をシュトラールへ。
夜の闇を裂く真紅の矢に晒され、シュトラールは増加装甲の施された右腕を正面へ
ズドン! と増加装甲から爆炎があがったと思えば熱の衝撃波がバスターライフルの射撃を打ち消し、空いた左腕を機体後方へ構えているのをリュウは認めた。
《──敵機接近中──》
「なッッ!!? この距離をっ!!?」
増加装甲による起爆を瞬間的な加速とし、脚部追加スラスターからオレンジ色で煌めく粒子を噴き上がらせてシュトラールが眼前へ迫る。
即座に2基のバインダーを前方に展開し、後退と同時にバスターライフルを射撃。
1射2射と、立て続けに放たれたビームを舞踏さながらの動きで増加装甲の炸裂を用いて打ち消しながら肉薄するシュトラールにリュウは
(コイツっ! 止まらねぇ……!!)
バインダーを前方に展開し高速で後退出来るのはHiーガンダムの長所の1つだが、初めから『接近して敵機を
シュトラールが手にする長剣が閃くのと、HiーガンダムがGNタチを抜くのはほぼ同時。
────だが。
Hiーガンダムが手にしていたGNタチは半身を斬り飛ばされ、
その場で振るっただけの剣と、加速と
1合で理解出来た、シュトラールを
『多くは話せないですがっ、私は、わたしはリュウさんの事を…………!』
『ほんとうにっ……! 大切な人だと思っていましたっ…………!!』
少女の声が頭で響く。
シュトラールの刃は空を斬り、Hiーガンダムのバインダー先端を欠けさせるだけに留まった。
GNタチの柄に備わるワイヤーアンカー、それを建物に打ち込んでの強引な回避で何とかやり過ごし、
事態に困惑しながら地面へ激突する直前でバーニアを
シュトラールの背中に備わる4枚1対の剣翼、その1本を無造作に射出し
────あれは、
直感が告げる。
事実GNタチのワイヤーは半ばで切断されており、Hiーガンダムの後方には徹甲弾で穿たれたような大きな弾痕が建物を幾重にも貫いていた。──あれが、もう一発来る。
回し蹴りが剣翼を捉えたその瞬間に、指を滑らせて武装スロットのカーソルを一番右へと合わせる。
「トランザムッッ!!」
剣翼はリュウの読み通りHiーガンダムが存在していた場所を的確に射抜いており、鋭利な刀身はバターにナイフを入れるよう建物を抵抗無く突き進んでいった。
思考が、
あの時は観測していただけにも関わらず死という実感が思考を引っ張っていたのか、今はどうしてか冷静だ。戦局を分析できる。
その事実の
警告音。
《──敵機、接近中──》
それは表示される筈の無い画面メッセージだった。
トランザムによる高速移動、それも少女に合わせた速度を極端に上げたリュウでは扱いきれない
正面モニタ中央、今まさに掌へ光球を輝かせるシュトラールが片腕を振り上げていた。