『アデル、どうしてあのお兄さんの事逃がしたの? 途中で来た“アイツ”、あれ絶対
大小2つの影が学園都市の闇を駆け抜ける。
入り組んだ小道に路地裏。ゴミ箱の上で寝そべる猫がその影を見送る。
“学園都市第1学区”の
「奴はいつでも潰せる、泳がしたところで
「へぇ~~」
駆ける少女の金髪が揺れて顔に掛かり、その奥の瞳がにやりと光る。
「初撃、危なかったね?」
「何が言いたい」
男の、アデルの刺すような横目に肩をすくませて少女は含んだ笑みのままに続けた。
「あのビームは
「……機体にファイターが付いてこれていなかった。ガンプラが不憫だな」
「めずらしっ! アデルが誉めた! …………あ~ちょっと! 速度を早めるな! 少女だよ女の子だよっ!? 少しは気遣いを覚えてよ!」
「次の道はどっちだ」
「
曲がった角の向こう、見える景色は突き当たりでおおよそ道と呼べるものは存在していない。
袋小路はコンクリートの壁で囲われており、しかしアデルは走る速度を
その背中にぴょん、と少女がしがみつきアデルの肩から再び壁を
「これ、行けるの?」
「背中の重りが無いなら行けるな」
「重くないですけどっ!!?」
「少し黙って、──ろッ!」
激突もかくやという速度で壁へ向かって走り、
三日月に晒される顔の、変わらぬ冷たい面持ち。
夜風が吹き抜けると同時、少女を置いてアデルが下へと降りる。その距離もまた5メートル程か。
「早くしろ」
「絶対見えるじゃんこれ……」
「先に行くぞ」
「鬼畜かッッ!! ……あぁもう~。ちゃんと下で支えて──ねっ!」
両手でぎゅっとスカートの
身体の内容物が裏返っているかのような錯覚に目も思いきり
「ぐぇっ!!?」
「このまま真っ直ぐか?」
「何だろ、お姫様抱っことか少しでも期待したあたしが馬鹿だったよ」
落下中に体勢が崩れた少女はうつ伏せの状態で地面に迫り、それを脇に抱え込む形で強引に衝撃を殺す。そして急に腕から解放された少女はコンクリートの地面にそのまま落ちて軽く腹を打ち、涙目でアデルを睨んだ。
「……
その視線を。
釣られるように少女もまた視線を虚空へと投げて1歩アデルに寄り添う。
「ここが
※※※※※※
一際高い、
春に建設された学園都市は建てられた建築物のどれもが未だ新品の輝きを放っているが、そのビルは段違いな程の
庭師が毎日手入れしているのであろう切り揃えられた木々に、
学園都市内では自然環境保護を
────“学園都市中央ビル”。
その階段前、少年と少女はじっと入り口を
『────いやはや、長旅ご苦労様。遠い異国から良く来てくれた』
乾いた拍手が静まり返った夜に響き、その中性的な声がやけに耳に付いた。
『そして、良く生き延びて僕の元へ来てくれた。“エルオーネ”』
見下ろすように。
見上げた階段の先、少女とさして変わらない身長の少年が
「聞くまでも無いけど、どうしてあたしを呼び続けたの」
「失敗作だろうとその健気さに免じて答えてあげるよ。────君の因子が欲しいんだ、エルオーネ。いや、“エルオーネ機関”の生き残り、名も無き可愛い妹よ」
くつくつと、喉の奥で笑う少年は道化じみた口調と動きで階段を下りながら続ける。
「
「……ふ~~ん、大体分かった。あたしはもういいや。アデルも何かアイツに聞きたいことあるんでしょ? 聞いちゃいなよ」
突然話の流れを切られた少年が一瞬動きを止める。
視線で促されたアデルが
「──1つ、聞きたいことがある」
「何だお前。邪魔だよ、兄妹の会話に入ってくるなよ」
「────ガンプラ……、ガンプラバトルは好きか?」
「………………は?」
「ガンプラバトルを、愛しているか?」
少年は足を下の段に掛けたままの姿勢で止まり、吹き出しが1つ口から漏れた。
「ぷっ、あはははははっ!! も、もしかしてアレかお前! ガンプラビルダーか!?? 何? 本当にガンプラが好きなタイプの人間か!? あはははっ! エルオーネも面白い人間を
破顔し、そのままよろけるように体勢を崩して立ち留まる。
ひとしきり笑い終えた後、
「笑い殺す気かよっ、ははっ。何だっけ? 僕がガンプラバトルを好きかどうかだっけ?」
「そうだ」
「ハッ、だぁい好きだよ。僕を“完全“へと至らしてくれるガンプラバトルには感謝しているに決まっているじゃないか! ……けどね、それと、フヒッ……、それと……」
「…………」
「────負けた時のさァ!! 人間達の顔ッッ!! あれが
「……もう1つ聞きたい。お前は、この学園都市においてどういう存在だ」
「
「そうか」
短く切ったアデルの言葉に少年が目を
しゃら、とチェーンで繋がれた
「……お前が求めた物は、どうやら日本にすら無さそうだ」
自らに言い聞かせるような声音で呟いて両手が中空へ
アデルが認識したファイターは少年1人。その間に緑光に煌めく粒子が地面からふわりと湧いて満ちていく。
「お前は、ここで倒す」
「────あのさァ、さっきから生意気なんだよ、お前」
少年が片手を上に揚げた瞬間、ビルの入り口付近で
「アデルっっ!!?」
「暴徒鎮圧用のライオット弾さ。威力は成人男性の拳1発分程度はあるらしいけど、何。命に別状は無いさ」
ツカツカと少年の階段を下りる音も少女には聞こえていない。
倒れたアデルに駆け寄る様子を見、
「殺す訳じゃないから安心してよ。──ただまァ?
「アデルっ!? 大丈夫アデル!!?」
「この程度、問題ない」
「まっ、もう遅いんだけどね」
立ち上がろうとしたアデルの
2転3転と地面を転がり、それでもアデルは膝に手をついて少年を睨んだ。
当たり方が悪かったのか、被弾した箇所の皮膚が割れ一筋の血が伝うその光景に少年は愉快そうな表情と拍手を
「凄いなァ! まだ立ち上がるんだ! いいね、そこらへんにいるガンプラファイターはもう根をあげて僕に降伏するんだけど、まだそんな目で睨めるのか!」
「……れと、…………うの……い、のか」
「どうしたァ! 何言ってるのか分ッかんないなァ! ハッハハァ!」
乾いた炸裂音が少年の動作と共に響いて、立ち上がったアデルの胸部をライオット弾が捉えた。
衝撃を声1つ上げずに耐えてその場で踏み留まり、少年がにやりと口角を吊り上げ手を下げる。
ライオット弾のよる狙撃は痛みで気絶すら有り得る代物だ。それを数発浴びてもまだ耐え、その上
「分かった分かった。ほら、言いたいことがあるんだろう? 言ってみろって、僕に」
「俺と、……戦うのが、怖いのか?」
「今ならまだその生意気な物言いを許してあげるよ。無条件で僕に降伏すると言え。そうすれば痛み無く君から因子を抜き取ってあげよう」
「…………お前は感謝した方が良い」
「何を? 何にさ」
傍らの少女を支えにしてよろめきのなか何とか立ち、アデルは胸の
無表情じみたその表情に、初めて不敵を
「……ガンプラやガンプラバトルってのは、お前みたいなクズでも受け入れてくれるって事実にだ」
「もういい。────いたぶった末に恐怖暗示を掛けて
少年が片手を大きく挙げる動作にビルの入り口で
その数は10で収まる物ではなく、アレを喰らえばアデルはもう立ち上がることは無いと少女は
「アデルっ!!」
「っ?」
自分に出来る事は。
そう考える前に身体をアデルの前へ
無数の炸裂音が響く。
そんな音も耳に入らない程、少女──エルはアデルの驚いた顔を見て少しだけ満足した。
……案外。
「へぇ~、なんだ。そんな顔もするんだね」
「……お前は」
スローモーションで流れる世界。
不吉な風切り音が意識に入り、
回避は不可能。
2人の身体に着弾する、その刹那。
『────ガンプラバトルの匂いに釣られて来てみれば、どうやら私の出番らしいな。…………はぁッ!!』
がうん! と暴風じみた風圧がエルとアデル2人の前で吹き
大きな背だった。
手にする
収まりつつある風圧に特徴的な銀髪が揺れて、その奥に見える
「また会ったな少年達。後は私に任せろ」
「お前、あの時の軍人……」
「駐車場に居たおじさん!」
エルの言葉を受けて
「その節はバトルを断って済まなかった。……さて」
強めた視線の先、ヴィルフリートと少年の視線が静かにぶつかる。
……知らない顔だが、
青瞳で睨んだ瞬間、少年がこちらへ向けたのは明らかな敵意と執着だった。
少年の手が勢い良く掲げられる。
「撃てェ! 奴を撃てェッ!! 2度も僕の前に現れやがって……! 奴を倒した奴には
怒号と共に空気の破裂する音が無数に重なり、人の動体視力ではまず視認が出来ない弾丸の雨がヴィルフリート目掛けて放たれる。
その弾丸の土砂降りに軍服を握る手がギチリ、と
「はァ────ッッ!!」
がうん! がうん! と二合三号に振り抜かれた軍服がゴム製であるライオット弾を絡めとっては弾いて、その
やがてリロードの為か銃声は止み、それでも変わらず直立する
「防弾製のコートか、
「私の物は防刃製も高い。……これも愛する国民の血税による物だ、何度感謝しようとも足りないな全く。────む?」
炸裂音がヴィルフリートの意識の隙間に遅れて聞こえる。
どうやら既に
致命的に遅れた反応。コートを振り抜いてその無防備な半身に吸い込まれる弾丸に、少年の顔が
…………だが。
「────この程度の弾速、ダインスレイヴより
「なッ……!? 手で掴みとって……!?」
「余りガンプラファイターを舐めない方が良い。常日頃ヤスリ掛けで鍛えた握力を
青瞳が後ろの2人へ向き、未だ膝に手をつくアデルと傍らで支えているエルへ視線が交わる。
その意図を察したエルが浅く
10は優に越えるその影。光を反射しない黒の装備に身を包み、手にするのは長身の銃。その全てがヴィルフリートへと照準を定めており、少年の嘲笑が一層響く。
「ハッ! だったらこれでどうだァ! ライフルによる一斉掃射、アサルトライフルの威力とはワケが違うぞッ! その
「武力の誇示の為に控えさせていた分隊を前に出すか。どうやら指揮を
対して聞こえたのは
射撃許可の下りていない隊員がスコープを覗けば、ヴィルフリートの手には先程まで指で弄んでいたゴム弾が見当たらず、代わりに見えたのは無防備に
こちらに気取られまいと無力を演出し反撃を狙うその知略、噂通りの化け物だ。
ドイツの軍神、元特殊部隊所属……!
「ヴィル、フリート・アナーシュタイン…………!」
思わず
その
「逃げるぞ少年達ッッ!」
「ほいさっ! アデル、走れる!?」
「お前が背中に乗りさえしなければいける」
「待って!? そのあたしが重い設定なんなのっ!?」
ビル正面のフェンスを乗り越えた影は角を曲がり、既にライフルでは手が届かない。
少年が1つ、長く息を吐く。
「おい、そこのお前。初めに声を上げたお前だ」
「はっ」
呼ばれ、隊員が少年の前に膝を付ける。
肩に掛けられたアサルトライフルを
その行為を眺めていた隊員達が息を飲み、少年がアサルトライフルを無造作に投げ捨てる。
「なんだ。こいつの威力が低いワケじゃないんだ。……アデルか。あの眼、覚えたよ。…………何を呆けているんだ? ────早く追え。奴等をガンプラバトルで拘束しろ」
『『はっ!!』』
命令に次々と両手をかざし、ガンプラバトルシステムのナノチップが埋め込まれた地面が
「ガンプラで追跡し位置情報から逆算して先回りしろ。
そう命ずる意識の