ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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1章10話『虚ろな眼』

「かっ、階段!?一本道の通路で下に続く階段とか……下りるしかねぇじゃねぇかこんなの……!」

 

 足下に気を付けながら注意深く暗い通路を走り、たどり着いたのは下にしか続いていない階段。

 外から見た時は他に部屋や上の階があってもおかしくない大きさの建物だったが思い返すと窓がない、窓もなければエレベーターではなくわざわざ階段で地下へ下りるしかない研究棟の作りにただただ困惑する。

 

 進むしかない。

 

 早くこの施設の関係者に入り口のドアを解除してもらって、一言二言この建物の造りに文句を言ってやろうかと思い浮かべ、走ってばかりで疲労が見え始めた膝に鞭を打つ。

 暗い階段を一段飛ばしで下り、踊り場で休むことなく一息で下る、下る。

 ようやく見えた次のフロアをライトで照らして観察する余裕はなく、足音の反響から中々広い空間に出たことを確認し、大きく息を吸う。

 

「すぅ……、ごめんくださああぁぁあああい!!」

 

 かなり大きな空間のようだ、声は遠くまで飛び未だ止まない。

 それでも返事が聞こえないのはもしやこの施設には人がもう居ないのかと疑う、もしそうなら俺は明日の朝までここで過ごしアウターを堪能した研究生と研究員をハンカチを噛み締めながら迎えることになる。

 それだけは必ず避けたい、自慢ではないがこのリュウ・タチバナ、話題に乗り遅れることは今までの人生では極力避け、新しいガンプラが発売されると知ったら予約サイトではなく近所の模型屋に頼み込み発売日に必ず確保してきた。

 唯一過去に金銭的に手に入れる事が出来なかったMG(マスターグレード)ディープストライカーをエイジが自慢気に見せてきたときは嫉妬と金を用意しなかった自分への憤りで1週間口を聞かなかった程だ。

 

「あと5分切った!くそッ!」

 

 走った、突き当たりが見えない空間をライトで照らしながら。

 どれくらい走ったのだろう、短い音と共に隣の壁がスライドして開き、ライトを照らすと白色の壁と同じ色のドアだった。

 

「早く入りなさい」

 

 ドアの向こうから溢れる久しい照明に思わず目を瞑る。

 50~60歳ほどの白衣を纏った……いわゆる研究者然とした男が俺に呼び掛けた。

 

「いや、あの俺ここに間違って入っちゃったと言いますか悪戯に付き合わされたと言いますか───

「皆君を待ってたんだ……全く、遅れたらどう責任を取るつもりだ」

「俺を?……っていやいやいやいや」

 

 手を引かれ室内へ強引に入らされドアが閉まる、振り返るとドアはロックを意味する赤色の点滅をしていた。

 男に説明しようにも俺を部屋に入れるや否やブツブツ何かを言いながら離れていき、学園の教室より多少広い空間をひっきりなしに先程の男と同じような格好の人間が行き交う。

 声をかけこちらに意識を向けさせようにも男達は真剣な眼差しで機材や何に使うか分からない装置を運んでおり、中には汗を浮かべている人もいて躊躇われた。

 一室の人だかり、研究者達に囲まれた空間が部屋の奥にあり、そこをぼんやりと様子を眺める。もはやログインに遅刻するのは確定だ、このおっさん達が一息ついたら文句を垂れてやろうと小声で悪態を吐いた。

 

「え?」

 

 思わず口に出た疑問の言葉、疑問なのか驚いたのか自分でも分からず口に手を当てる。

 研究者達に囲まれたスペースその中央、一瞬見えたそこに居たのは。

 

 ───ベッドに横たわり、拘束服で固定された物言わぬ少女。

 

「ぅうおッッ!?」

 

 虚空を見つめる瞳だった。初めて見た風貌と衝撃で尻餅をつき、俺の叫び声にこの場の全員が振り返る。男達は皆怪訝な顔をしており驚いてる俺が不自然だと言わんばかりだ。もしかして作り物か、ともう一度視線を移すがとてもそうは見えず、隣に置かれた一定の間隔で上下する心電図が現実だと脳に叩きつける。

 だとしたら一体この状況は何だ、一つずつ状況を整理しようと試みる。一般人の思考ながらにあんな小さな女の子を実験動物のように扱って警察が黙っている訳がない、これがマスコミから世界へ発信されたらアウターのβテストどころか萌煌学園の解体になりかねないか、それらの疑問が幾つも浮かんでくる。その疑問とは対比に少女を構う素振りすら見せない研究員達が不気味で仕形がない。

 

 俺から距離を置いた研究者達の顔が少しずつ曇っていき口々に「あれは誰だ」だの「彼じゃないのか?」など訳の分からない事を呟いている。後ろポケットのスマートフォンを悟られないよう慎重に起動し通話を選択、いくら学園都市に在住する人間全員がログインすると言っても学園の警備員には繋がるハズだ。

 

「───騒がしいわね、何が起きたか説明して」

 

 それは良く通る女性の声だった。

 部屋の奥の自動ドアがスライドし、ヒールの音を鳴らしながら女性が周囲を一瞥する。

 女性の登場に研究者達が一斉に詰めよりこちらを指差したり、聞き慣れない単語を口にし、暫くすると女性がこちらへ向き男達はさざ波が引くように分かれる。気付けば向かい合っている状況だ。

 

「今からアンタに選択の余地を与えるわ」

 

 俺の目を見て真っ直ぐにあくまで事務的に、冷徹さえ思えるような声音で女性は告げた。


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