ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章23話『共同戦線』

「おじさんは、あたし達が何者か聞かないの?」

 

「何。私があの場に出くわしたのは事故に等しいさ。……それとも聞いて欲しいのかな? お嬢さん」

 

「あ、いや……」

 

 銀髪の青瞳(せきとう)に、エルがその(ほの)かに光る橙色(だいだいいろ)の瞳を(うつむ)かせ、先程まで繰り広げられていた出来事を思い返す。

 文字通り絶体絶命だった。

 少女は旅の間ずっと2人きりで、特定の他者と関わりを持ち続けていた事は無かったが、長きに渡る旅の最中で人間同士が醜悪(しゅうあく)に衝突をする様を何度も見ている。そして、それらを傍観(ぼうかん)する人間の多さも。

 (ゆえ)に少女は目の前の男の真意を(はか)りかねていた。

 彼は、何者なのか。

 

 3つの影が街灯(がいとう)以外の灯りが無いビル街を疾駆(しっく)し、星明かりだけが彼らの視界を補助する唯一の道標だ。

 

「済まない、自己紹介がまだだった。私の名前はヴィルフリート・アナーシュタイン。ドイツ軍特殊広報部所属で、しがないガンプラファイターだ。質問には何でも答えよう」

 

「……っ」

 

 今度こそ絶句した。

 悪意を感じさせない、純粋な善意。

 微笑みと共に、少女へ配慮した柔和(にゅうわ)な眼差しに、しかし疑問をぶつけたのは少女ではない。

 

「何故俺達を助けた」

 

「お人好し、という答えでは駄目かな」

 

「俺達を助けて、この後はどうするつもりだ」

 

「見たところ君達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。可能であれば(しか)るべき場所へ届けたいのが私の考えだ」

 

「──そうか」

 

 駆けていた脚を踏み留め、一瞬にしてアデルとエル2人が距離を離す。

 ヴィルフリートをきつく睨むその眼は迷いがない。

 踏み込むための右脚を浅く後ろへ置き中空に拳が構えられ、両者の間に冷めた夜風が舞い込む。

 暴徒鎮圧用銃(ライオットガン)を浴び、敵意ではなく意思を秘めた瞳は手負いの獣のそれを彷彿(ほうふつ)とさせた。

 

 しん、と下りた静寂(せいじゃく)に不意とヴィルフリートが視線を外す。

 静まり返った夜。夜風とは違う、癖のある高音。転瞬(てんしゅん)遅れて2人も気が付いた。

 

「俺達を付けているな」

 

 アウターギアへ投影(とうえい)された情報を見、3人は中空へと手を構える。

 隣のヴィルフリートもバウトシステムを起動したことに少女は目を丸くし疑問を口にした。

 

「おじさんも戦うの?」

 

「何、お節介の続きさ。君達に合わせるよ」

 

「………………」

 

 ヴィルフリートを見極めようと青瞳が横目でじっ、と見据えるがやはり真意は捉えられない。

 優先順位を天秤(てんびん)に掛け、アデルの肩がヴィルフリートと並ぶ。

 

「……妙な真似だけはするな」

 

「するつもりも無いさ。……さて、来るぞ」

 

 視線の先。通りすぎた路地の角から小さな影が複数殺到(さっとう)する。

 同時、(かか)げた3人の掌にゆらりと舞い上がる粒子の緑光。

 

『『『────バウトシステムッ、スタンバイッ!』』』

 

※※※※※※※

 

 バウトシステムによるガンプラバトルでは、ステージ形成は全てプラフスキー粒子が高密度に反応することで自由自在なステージを作っている。中にはステージを構築(こうちく)せず、元の地形表面にプラフスキー粒子を膜のよう形取り、あるがままの景色でガンプラバトルを行える設定も存在する。

 

『アルファ1より各機。前方の通路角に高プラフスキー粒子反応有り。フォーメーションB』

 

『『了解』』

 

 粒子を検知する特殊なカメラを搭載(とうさい)した機体から送られてきた情報に、プラフスキー粒子で構築された操縦空間(コンソール)のなか男は感情を殺した声で淡々と告げる。

 フォーメーションBとは、待ち伏せをしている敵機を専行部隊が(あぶ)り出し、その後後衛を務める部隊が集中砲火を浴びせる戦術だ。

 指示を受けた隊員達が機体の──バウンド・ドックを巡航速度で勝るMA形態から不測の事態に対応しやすいMS形態へと変形させバーニアを噴かす。

 夜の闇の、ステージではなく現実の景色そのままに見える角へ左腕ビーム・ライフルを構えながら数機のバウンド・ドックが先行。

 (あらかじ)めこちらがガンプラバトルの設定を重力のみ宇宙空間へ変えた影響もあり、バウンド・ドックの機体が軽い。

 この重力環境ならばバウンド・ドックの性能を活かしきれる、と先行した隊員が内心で笑う。

 

 警告音(アラート)

 

 角に差し掛かるバウンド・ドックはバーニアを逆に噴かし即座にビーム・ライフルを射撃。

 予想通り現れた影に対して随伴(ずいはん)した2機も即応し射撃、()()()()()()()()()()隊員は今度こそ口角を上げる。

 ガッ、と短いノイズの後僚機から通信が入った。

 

『何も倒す必要はなかったが、こんなあっさり無抵抗だとつい撃ち落としたくなるよな。後衛部隊の援護射撃も必要なかった』

 

『倒すなとも言われていない。──対象をガンプラバトルにより制圧。交戦位置を突入隊へ送信する、このポイントを先回りしてくれ』

 

『ちょっと待て、あの影、……でかくないか? もしかしてMAか』

 

 感じた違和感のまま男が操縦桿を操作。

 カメラの倍率を上げ、影に紛れて暗い先程撃ち抜いた()()を詳細に映す。……映して、絶句した。

 

『なっ…………!? あっ、空き缶ッ!!?』

 

『陣形を組み直せ! 敵機はまだ倒していない!』

 

「────全ての動作が遅い。日本の特殊部隊所属のガンプラファイターはこんなものか」

 

 ビル街の路地裏その闇に()()(ひらめ)く。

 突如として、浮遊する空き缶の裏から接近する敵機に慌ててビーム・ライフルの標準を合わせ、撃発(トリガ)

 寸毫(すんごう)違わずに対象を捉えた高出力の粒子は敵機へと今度こそ命中し、()()()()()()()()

 

『ナノラミネートアーマー…………ッッ!!』

 

「その通りだ。次は対策して挑んで来るといい」

 

 先行した部隊から送られて来た映像がブツリと途絶(とだ)える。

 その様子に後衛部隊から眺めていた男──部隊長の表情が一層張り詰めた。

 送られて来た映像の最後に見えた(にび)色の青銅色、手にするグレイズ・ライフルと日本刀の(たたず)まい。

 気付いて、声を張り上げる。

 

『ニヴルヘイムだとッッ!!? ────各機距離を取れ!! 奴の間合いに入るな、一瞬で切り捨てられるぞッッ!!』

 

 ()とした味方機の残骸を盾に次々と標的を斬っていく様は異名名高い軍神の武勇(ぶゆう)そのものだ。

 成る程、と部隊へ通信を送る男が配置を変更し、ジャイアント・バズを装備したバウンド・ドックがニヴルヘイムを半円状に囲む。

 包囲を察知した挙動で最端のバウンド・ドックへグレイズ・ライフルの射撃が突き刺さるが、対弾性能が強化された左腕部シールドが衝撃を逃がし損傷はない。

 ジリ、とニヴルヘイムが足場の無い空間で後ずさる。

 

(いく)ら生きる伝説といっても1対多数では、それもレギュレーション600ならば状況など簡単に変わる。その首、我らが部隊が貰い受けよう』

 

 ジャイアント・バズ装備バウンド・ドック計12機、照準合わせ。

 ニヴルヘイムへの直撃コース及び回避先に標準を合わせた砲身が弾頭の射出を待つ。

 刹那、囲む部隊の中腹に剣閃が(はし)った。

 正体は暗闇に(ひるがえ)る長剣。部隊の中央で(おど)るそれを1目で無線誘導兵装と悟ったバウンド・ドックが切り落とされた右腕を構わずに左腕ビーム・ライフルで射撃、しかしひらりとビームを避ける動作に通信が(たけ)る。

 

『こちらアルファ4ッ! ファンネル系の武装を使用する敵機が居る! ファンネルの回避行動から、端末操作に重点を置いた機体と推定!』

 

『アルファ1了解。アルファ3から8に通達、ニヴルヘイムからは弾幕を張って距離を取れ。ガンマ小隊はファンネルの処理、ベータ小隊は翼をもがれた敵機を撃墜しろ』

 

『ガンマ1了解』『ベータ1了解しました』

 

 通信を終えたアルファ1──部隊最奥で指示を飛ばす猟犬部隊長が正面モニタに拡大された戦況を見、(かす)かに感嘆(かんたん)の念を帯びた(うな)りを短く上げる。

 敵の狙いは路地角での強襲によりこちらの出鼻を(くじ)く算段だったのだろうが、古来より戦闘において最も必要なのは戦力の数だ。

 敬愛するドズル・ザビの言葉通り、普段投入される戦力の倍を(もっ)て出撃したことが功を奏したのだろう。

 間も無く制圧、もしくは遅延戦闘に切り変えて敵の進路先へ別動隊が仕掛けるこの状況を、僅かに落胆(らくたん)する自身の気持ちが操縦桿が握る手を強めた。

 

 ────特務隊隊長仕様・ビルドバウンド・ドック。

 

 従来のバウンド・ドック頭部に外装パーツとしてザク強行偵察型のカメラを取り付け、左腕にはビーム・ライフルではなくドラムマガジンを採用したマシンガン、そして機体各部に増設されたバーニアと姿勢制御用アポジモータにより従来機と比べ引き出せる限界値の高い機体へと仕上がった愛機の出番は今回も無いのかと、移り変わる戦況を見て静かに思う。

 

『──お前が指揮官機か』

 

「ッッ!!?」

 

 声と同時、衝撃が操縦席(コンソール)を揺るがす。

 警告音を聞き咄嗟(とっさ)に左腕シールドを構え、直上より繰り出された雷撃の如く(かかと)落としが激突し火花が咲いた。

 

「ほぅ、ビルドカスタムされたガンプラか。それも近接特化機体と見える、面白い」

 

 増設されたバーニアが炎を噴き上げて、目の前の敵機を押し返す。

 その力の流れに逆らわず宙返りで距離を空けた敵機は、近接慣れしたガンプラファイターであることを男は悟り、笑みを溢した。

 

「こちらとしては足止めしておくだけで任務が遂行(すいこう)されるのだが、……礼を言おう。この機体を振るわせてくれる事に」

 

『お前が指揮官か』

 

「? ……あぁ、そうだ。指示を出しているのは私だ」

 

『そうか。……エル』

 

「──ぬぅっ!?」

 

 短く切られた言葉を待たずして、彼方から一直線に閃刃(せんじん)が迫る。

 1合、2合とシールドで弾き、3本目は横から放たれた弾幕によって軌道を変えそのまま目の前の敵機の背部に収納された。

 通信が鳴る。

 

『こちらガンマ1。ファンネルを操る機体はそちらの機体で間違いない』

 

『こちらベータ1。助太刀に入らせて頂きます』

 

「……だそうだ。許せ、名も知らぬファイター。数で単機を飲み込むというのは戦略の常だ。悪く思ってくれるな」

 

 ずらりと並ぶ機体は優に20を越え、深紅(しんく)で彩られた敵機を球状に囲う。

 片翼の機体はしかし堂々と佇み、部隊長のバウンド・ドックをその鋭いツインアイで睨んで離さない。

 

『構わない。その方が“都合が良い”』

 

「なんだと?」

 

 次の瞬間、ビルドバウンド・ドックの強化センサが異常値を計測した温度を正面モニタへ警告音(アラート)と共に映した。

 敵機の紅蓮(ぐれん)の装甲がRX-0のデストロイモードのよう展開し、火の粉を思わせる燐光(りんこう)が漏れて路地裏を照らす。覗いた装甲の内部はさながら太陽の様相そのもので、空間が徐々に陽炎(かげろう)で揺らいでいく様子はレギュレーション800の威風(いふう)に違いが無い。

 

「特殊なギミックか、面白い。────全機、戦いは数だッ! 奴を()り潰せェッッ!!」

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