ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章24話『アンダー・イン・ダーク』

 ぽつりぽつりと(したた)る水の音は遠く(かす)かな木霊(こだま)となって響く。

 排水が静かに水路を流れ、息を殺した筈の呼吸さえここでは際立(きわだ)ち、しきりに後ろを気にする少女がややあって2人の元に駆け付けた。

 

「うん多分()いた。っていうか寒くない? ここで一晩過ごすのはちょ~~~っと年頃の女の子にはキツいかな~」

 

「我慢しろ」

 

「はいはい我慢します、しますぅ~。…………いつもの事だけどさ、アデルはそんな軽装だけど寒くないの?」

 

「……多少は冷えるな」

 

「やっぱ寒いんだね!? はいっ、ぎゅ~~~」

 

 アデルの鳩尾(みぞおち)程の背丈が腰に抱きつくが、無視を決め込んだまま暗い水路を歩いていく。

 その様子を数歩離れた場所から見守るヴィルフリートが軍服と、Tシャツを脱いで2人に渡す。黒のアンダーウェアに張り付いた筋肉は寒さなどお構い無しと言うように誇示され、受け取った少女の顔が引き()りヴィルフリートとTシャツを交互に見た。

 

「え、あの。おじさん寒くないの? いや寒くないんだろうけどさ、聞かなきゃいけないじゃんこれ」

 

「鍛えているから問題無いさ」

 

「問題ないか~そっか~。……スンスン、あ! 凄い良い匂い! これならあたしも喜んで着る~っ!!」

 

 破顔させた少女がシャツを羽織(はお)り、身丈に合わない大きなシャツへ袖を通す。

 対してコートを見詰め押し黙るアデルにヴィルフリートの表情が和らぎ、語る声音は優しい。

 

「アデル君も着ると良い。防寒性もあるコートだ、身体が冷えたままでは治るべき傷も治らないぞ」

 

「ヴィルフリート、お前は……」

 

「ヴィルで良いさ」

 

()()()()()()()。さっきの戦闘は礼を言う。……だが、俺達をどこへ連れていくつもりだ。返答によってはお前を」

 

 問い掛ける声に(とげ)はない、しかし真意を見極めようとする青瞳は鋭く、正面から対峙する銀髪が緩く揺れた。

 

(しか)るべき機関だ」

 

 その返事に。

 獣の如く俊敏(しゅんびん)さでバックステップし、投げ捨てられたコートがぶわりと舞ってヴィルフリートの手元へ落ちてくる。

 受け取った鉄面皮(てつめんび)がコートを丸め、低く告げた。

 

「然るべき機関。────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何を勘違いしてるかは分からないが学園都市に突き出すような真似はしないさ。身の安全は保証しよう」

 

 顔に優しく投げつけられたコートが落ちてアデルの無表情な顔が、──否。()()()()()()()()()()()にヴィルフリートは小さく笑みを溢す。

 

「…………」

 

「そんな顔をしないでくれるかな。焦って違う答えを持っていたのは君だろう?」

 

「そ~うなの! アデルは考えてるようで思考は単純で、その癖他の答えを持とうとしないの…………わぷっ!?」

 

 突然コートが被さって視界を塞がれた少女がその場でもがく。

 不機嫌そうに口を閉ざすアデルを追い越してヴィルフリートが笑みを走らせたまま先を行く最中。

 彼らが視界から外れ、その笑みも徐々に元の冷酷さえ感じる表情へと変わり、思い出されたのは中央ビルでの出来事だ。

 

(2045年の意思か。これは、不味い事になったな)

(そして妙に引っかかる()()()…………これは?)

 

 ざわめく胸中の、嫌な予感。

 自分が学園都市へ()()()()()考えが杞憂(きゆう)であれば良かったのにと、近付いてくる小さな足音を聞きながら片隅(かたすみ)に思う。

 

「ヴィルっち難しい顔してる! お腹でも空いたの?」

 

「これはまた可愛い渾名(あだな)を付けてくれたね。……そうだな、確かに身体を動かしたせいもあって腹も空いた。朝までまだ長い、ここで食事でも取ろうか」

 

「ご飯あるの!!? ヴィルっち流石~! ほらほらアデルも騙されたからって不貞腐れてないで一緒に食べよ! ちなみに何があるの!?」

 

「ドイツの軍用携帯食料(コンバットレーション)は食べ飽きたからね、最近は趣向を変えてMRE(米軍戦闘糧食)を持ち歩いている。ほら、ミートボールもあるさ」

 

「エル、俺の分はお前にやる」

 

「ほんとにっ!!? アデルありがとう~大好きっ!」

 

 大きな橙色(だいだいいろ)の瞳を爛々(らんらん)と輝かせて少女が、次々と取り出される無機質色の袋を興味深げに眺める。

 この数分後に、深夜の地下水道で少女の悲鳴が響いたことを知るものはこの場の人間以外誰も居なかった。

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