ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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5章1話『魔物の産声』

 戦場(バトルフィールド)トリントン基地は数多くのガンダム作品で激闘の舞台であったことから世界中のファイターから高い人気を誇っている。

 トリントン基地だけでも複数の戦場パターンが存在し、とりわけ宇宙世紀0096年設定は群を抜いて選ばれる比率が高い。機動戦士ガンダムUC内では、当時型落ちとされていた1年戦争のMSが入り乱れての戦闘があり、連邦軍が劣勢に追い込まれている状況で颯爽と空を駆けてくるバイアラン・カスタムの勇姿は数多くのガンダムファンを虜にした。

 自らの出生(ティターンズ)を他人に疎まれながらも気高くそして雄々しく飛遊し、あの場で唯一の単独飛翔能力を以て連邦軍の窮地(きゅうち)を救う麒麟(きりん)の姿は今尚ガンダムファンの語り草となっている。

 

 ──そして、今。

 忌々しげに空を見上げるバイアラン・カスタムのツインアイが高倍率となって対象を補足する。

 

 大出力熱核ジェット・エンジンによる規格外の滞空能力をしてもあの高度に至ることは不可能だ。

 高度差にして最高出力ならば届くか届かないかの上空に、深紫の太陽が燦然(さんぜん)と戦場を睥睨(へいげい)する。

 

「ガンプラバトルにおいて単独飛行能力の有無は決定的な差となり得る。太陽炉搭載機と宇宙世紀半ばの機体ではそれは顕著(けんちょ)よ。レギュレーション800に00(ダブルオー)シリーズの機体が多いのもこれが要因の1つ。レギュレーション800とレギュレーション下位はそもそもの性能が違い、文字通り“戦う舞台”が違うのよ。それが分からない貴方じゃないでしょう? ──ねぇ、エイジさん」

 

 正面モニタからの音声に、しかし少年の目に諦念(ていねん)の色は見えない。

 

「先生の意見に対しては否定しません。けれど過去繰り広げられてきた先人達の戦闘ではそんな常識は些細なものです。世界大会でそんな奇跡、──いや。彼らにとっては性能差など相手との心理戦を行うピースの1つでしか無い。レギュレーションの差異が戦力の決定的な差では無いことを教えてくれたのも先生です」

 

「……優秀な生徒ね。全く」

 

 ゾンネゲルデの翼爪がバイアラン・カスタムへと向く。

 6つの切っ先全てがファングであり、宇宙世紀においてファング程の大気圏下における空間戦闘能力を持つファンネル系武装は稀有だ。少なくともバイアラン・カスタムの建造当時存在していないタイプの武装、それらが一斉に放たれた。

 GN粒子から発せられる独特の発射音は縦横無尽に空を(はし)りバイアラン・カスタムを全方位から囲む。次の瞬間警告音(アラート)と共に操縦桿を押し倒し、麒麟の軌跡を紙一重で紫の粒子光が閃いた。

 8の字で徐々にゾンネゲルデとの距離を詰めるバイアラン・カスタム。その軌道上で待機されてあったファングの粒子を対ビームコーティングが施されてある肩部バインダーで受け止めてエイジは操縦桿に入力を叩き込む。

 

「──はぁッッ!!」

 

 腕部クローアームが白と金に彩られたファングを掴み、GN粒子によるコーティングの上からへし折った。

 爆散した煙が周囲の視認性を下げ、続いて2基のファングが滑る影のようバイアラン・カスタムの死角を突く。

 同時に警告音が脚部後方からの攻撃を知らせるが、耳に入ってからではもう遅い。それはエイジが磨いてきたバトルの経験が雄弁に叫ぶ。

 故に少年は既に入力を終えていた。

 

 脚部クローアームがそれぞれ迫るファングを振り向くことなく掴み上げファングの先端を自機から逸らす。

 軋む悲鳴を上げる大爪を回し蹴りの要領でゾンネゲルデへと放り、迫るファングを自ら動くこと無く別のファングがそれを撃墜した。

 

「上手いものね。流石はコトハさんの幼馴染みという事はあるわ」

 

「……先生とのバトルはもう54回目になります。これくらい出来ないようでは落第でしょう」

 

 54回。

 先日から始めているトウドウ・サキとのガンプラバトルの回数であり53戦全てエイジは敗北を喫していた。

 慢心の見えない少年の声にトウドウは満足げに唇を濡らし、しかし同時に疑問が浮かぶ。

 

「そこまでタチバナさんの事が気になるのかしら?」

 

「はい、気になります。…………オレがバトルに勝てば詳細を教えてくれると言った約束、果たさせて貰いますよ」

 

「私には理解出来ないのだけれど」

 

 バイアラン・カスタムを囲むファングがゾンネゲルデへと返り背部に収まる。

 身に纏うGN粒子が勢いを弱らせ、最低限の滞空状態へ移行したことを確認しエイジも構えを解くとトウドウの声が正面モニタから聞こえた。

 哀れみを帯びたそれは何度も聞いた声音だ。

 

「萌煌学園に入学して中退する生徒は年間100人を越えるわ。理由は様々だけれど最も大きな要因は挫折。当たり前と言えば当たり前ね、萌煌学園をプロのガンプラファイターへの安全なエスカレーターだと思っている生徒が多いもの、タチバナさんはその中の1人だっただけ。……しかも彼は進学組ではなく編入組、高校受験相当で萌煌学園に入学した生徒だから挫折するのは珍しくないわ」

 

「いいや違います。──“それでは時期が被りすぎている”」

 

 確信を持つ言い放ちにトウドウは言葉を止める。

 

「春からリュウと共に行動していた少女と、先生とのガンプラバトル。思えばあの辺りからリュウの様子はおかしくなっていました。…………先生の過去の戦績を拝見させて頂きました、随分リュウのHiーガンダムを練習相手に選んでいましたね。難易度は最高レベルのニュータイプ、随分とリュウを警戒されているようで」

 

「本当優秀な生徒ね。でもね、(やぶ)から蛇が出る事もあるわ。発言には気を付けた方が良いわよ」

 

「────先生、Hiーガンダムを練習相手にする前日に閲覧不能となっているバトルの成績がありますね。……まさかリュウに負けたんですか?」

 

「……あぁ、そう。…………辿り着いてしまったのね貴方」

 

 声の終わり。止めどなく溢れる奔流のようゾンネゲルデからGN粒子が散布される。

 これまでの戦闘で見たことのない量の粒子に、今まで手を抜かれていたとエイジは瞬間的に察した。同時にこれが『萌煌学園における最優の教員』の本気だということも。

 ぞくりと悪寒めいた寒気に少年の頬へ汗が伝う。

 

「1つ人生の先輩として忠告するわエイジさん。────行きすぎた好奇心は藪から鬼を出すこともあるの」

 

 トウドウから聞いたことの無い妖艶(ようえん)な物言いに少年の本能が警鐘を鳴らした。

 熱核ロケットエンジン、熱核ジェットエンジンから成る大出力の推力によって後退を図り腕部ビーム・ガンを続けざまに発射。それらの射撃を突貫したファングが全て受け止め、猛追するファングが牙を晒す獣の如く先端を左右に開いた。

 初めて見せたファングの挙動に、しかしエイジは迷い無く操縦桿を倒しバイアラン・カスタムが搭乗者の意をリアルタイムで汲み取る。

 クローアームがファングを掴んだ刹那、腹を食い破る化け物のようファングが身を捩り(あぎと)をバイアラン・カスタムへ標準を合わせ、

 

「なッッ!!? ────ぐぅッッ!!」

 

 少年の目の前に展開されていた計器が全て暗転(ダウン)した。

 続いて機体を揺らした衝撃に操縦桿を支えとして何とか踏ん張り、しかし想定外の事態にエイジの顔が緊迫を帯びる。

 機体が落下しているのだ。バーニアを噴かそうにもガンプラが入力を受け付けない。

 

「私は()()()()()()()()()()()()()()()。そこだけは勘違いして欲しく無いわね」

 

「最優の教員がいち生徒相手に随分と感情を露にしますねッ……。先生のそんな顔を聞き出せたことがオレにとって収穫ですよ……!」

 

「途中退学する生徒の最たる原因は挫折、そう言ったわよね? ──貴方に今それを味あわせてあげても良いのだけれど」

 

「生憎と()()()()で挫折するほどオレは弱くないつもりです。先生こそ先に音を上げないでくださいねッッ……!!」

 

「エイジさん、貴方予想以上に面白いわね……! 良いわ、特別補習授業といきましょうかッッ!!」

 

 接触回線による舌戦が終わり、外部音声を拾う計器のみが迫る刃を知らせる。

 警告音もなく襲う攻撃にいよいよエイジは観念した。

 今回のバトルは捨てよう。次にまた対策を考えれば良い。

 

 ────好きなガンプラ作って好きなガンプラで戦う事の何が悪いんだよ。諦めてんじゃねぇよテメェ!! 

 

「ッッ!!」

 

 記憶の声にエイジは目を見開く。

 そうだ、諦めるな。オレを助けたお前はいつだって諦めずに立ち向かった。

 お前が居たからオレは……、()()()()()()()()()()

 

 少年の意地に、しかし機体は挙動しない。それでも奇跡を願ってエイジは操縦桿を前へ倒し続ける。

 徐々に拡大される刃の風切り音。一瞬が永く引き延ばされる感覚に身を委ねた最中に、

 

『────今の話、本当ですか?』

 

 外部への発信に切り替えられた音声がトリントン基地上空へ響き渡った。

 続いて複合マシンガン4門による高レートの実弾射撃が暴雨となって空間を切り裂き、バイアラン・カスタムに突き刺さるファングを次々に墜とす。

 計器が復帰しあわや地上へ激突のところでスラスターを全開に入力し、しかし減退しきれなかった機体が格納庫の一角に仰向けで墜落した。

 

 見上げた空には蒼窮と白亜のカラーリングのガンプラが鎮座し、特徴的な4つ腕と鋭角なシルエットは嫌が応にも誰が乗っているか少年へ理解させた。

 

「コトハッッ!? お前、なんでここにっ」

 

「多分エイジ君とおんなじ考え。私もトウドウ先生に用事が出来ちゃった」

 

「おんなじって…………。だったら分かるだろ! 相当危険な事情なんだぞこれはッッ!」

 

「じゃあ言わせて貰うけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()さっきから見ててたけど弄ばれてるだけ。そんなんじゃ一生勝てないから」

 

「…………くそッ」

 

 幼馴染みの剣幕にエイジはニの次が出ない。

 どうしようも無い事実だった。エイジはこれまで54回トウドウと戦闘してきたが、1度だって機体を自分から触らせて貰えなかった。

 意識を空に向ければ未だ相対している1機と1機。

 再びゾンネゲルデのファングがバックパックに収納される。

 

「コトハさんにエイジさん、2人が居るのなら折角だし丁度良いわ。……貴女達夏休み明けから開かれる特進クラスへの編入試験を受けないかしら? 担当教員は私。特進クラスは今まで貴女達が属していた普通科とはガンプラバトルのレベルが文字通り桁違いなの。…………そして今残っている3年生の中で中学生からの編入試験を受け萌煌学園へ入った生徒はほんの僅か。貴女達はそういった生徒達の先駆けとして入って欲しいのよ。どう? 決して悪い話じゃ────

 

「受けます」

 

「あら本当!? コトハさんが入ってくれるなら私嬉しいわ、貴女もエイジさんも普通科で燻って良いガンプラファイターじゃないわ。それを私が証明してあげる」

 

「受けますが……、リュウ君も一緒です。それが条件です」

 

 トウドウが笑みを深めたのも束の間、コトハの言葉に一拍置いて大きな溜め息がスピーカーから外部に漏れ聞こえる。

 

「理解が出来ないわ。仮にタチバナさんが入ったとしても周囲との腕の差で自壊するのが目に見えている。コトハさん貴女タチバナさんの心をそんなに砕きたいのかしら?」

 

「……リュウ君は今、きっとガンプラファイターが()()()()()()()()()であるために避けては通れない壁に当たっているんだと思います。…………私もエイジ君もっ、リュウ君がそれを乗り越えて隣に立つのを待ちます!」

 

「夢物語ね。友達と一緒にプロになると言うの? ……プロの場がそんな甘い場所じゃない事を私は断言するわ。ガンプラバトルを舐めないで頂戴」

 

 トウドウの声音が狂気が覗く妖艶から教師のそれへと変わり、少女と少年は口を閉ざす。

 ……プロのガンプラファイターを目指す人間達の中でプロへとなれるのは全体の2割。この学園に入って真っ先に教えて貰った現実だ。

 

「先生も舐めないで下さい。……リュウ君は、迷いの無いリュウ君は強いです」

 

 それでも言い退ける少女の剣幕にトウドウは苛立ちよりも前にまたしても疑問が浮かぶ。

 どうして彼女彼らがリュウ・タチバナという存在をそこまで重視するのか。友情や絆は勿論だが、()()()()()()()()()の影を感じてトウドウは操縦桿を握る手を強める。

 

「そこまで言うのなら、コトハさん貴女この場で私と戦うのでしょう? なら条件を決めましょう。──私が勝ったら貴女とエイジさんは特進クラスの試験を受ける。私が負けたら、そうね」

 

「────先生が負けたらリュウ君に謝ってください。そして、特進クラスへの試験は私とエイジ君とリュウ君を受けさせること、それと。……私の言うことを1つ聞いてください」

 

「強欲ね。でも良いわ、その条件飲ませて貰うわね。……強欲なのはガンプラファイターの最も大事な欲求よ。────でも良いのかしら? 私のゾンネゲルデはレギュレーション800。それに比べてコトハさんのバルニフィカスはレギュレーション600。レギュレーションの差を埋められるほどコトハさんは私には及ばないわよ?」

 

 ごう、と迸る紫の粒子がバルニフィカスを震わす。

 コトハの駆るバルニフィカスはダブルドライヴでありゾンネゲルデと同じく単独飛行能力を獲得しているが、そもそもの機体性能が雲泥の差と言っても差し支えない。

 淡々とその事実を語るトウドウに、エイジは納得に奥歯を噛むしかなかった。

 

「────だから、私は()()()()()()

 

「…………何?」

 

「私が先生と戦闘することに遅れたのも()()()を製作していた為でした。……特進クラスの事、私沢山調べました。その中で克服しなくちゃいけない事が、──2()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 声と共に今まで中空へ佇んでいたバルニフィカスが粒子となって消える。

 その突如、ステージの端。トリントン基地沿岸部上空に出撃ゲートが展開されトウドウは僅かに目を見開いた。

()()()()()()()

 

「ずっと考えていたんです。特進クラスの皆は私なんかよりもずっと強くて、そんな人達相手にどうやったら勝てるか」

 

 出撃ゲートは尚も大きく拡がり最早サイズはモビルアーマーのサイズと同等だ。

 まさか本当にMA(モビルアーマー)かとエイジは想像するもその疑念は即座に霧散する。

 コトハは幼少の頃からのガデッサ乗りだ。誰よりもガデッサの造詣に深いが、代償としてガデッサ以外は乗ることが出来ない。ガンプラファイターの中で特定の機体しか操縦できないファイターは少数存在するがコトハはその典型であり、故に目の前で展開された出撃ゲートの大きさがエイジにとって不可解だった。

 

「トウドウ先生。これが私の、私が萌煌学園で学んだ答えです。────────行こう。……ファヴニムート」

 

 出撃ゲートの内部から黒の大腕が伸びゲートの枠を握りしめる。

 あれはガンダムバルバトスルプスレクスの腕か、ならばビーム兵器での攻撃は期待できないなとトウドウは未だ全容の見えない機体を冷静に分析する。

 

 やがて枠外へ悠然と身を晒し、ガ系特有の特徴的な頭部がゾンネゲルデを睨む。

 黒く染まった機体色は成る程ファヴニムートの名にも得心がいく。神話の邪竜ファヴニールと聖典の魔物バハムート。それらを掛け合わしたのなら確かに目の前のような異形にもなるのだろうと、トウドウは目を細めた。

 

「なんだ、あの、機体……!?」

 

 地上からその風貌を見つめるエイジの恐れを秘めた呻き。

 あれが()()()()()()なのかと彼の常識に当てはまらない外見に脳が許容を越えた。

 

『──────────ッッ!!』

 

 黒の巨躯が叫ぶよう天を仰ぎ、粒子の放出される音が機体の叫声にも聞こえる姿に最優の教員から笑みが消え失せる。

 機体が巨大過ぎて理解が間に合わないほどの威容。静かにトウドウは激戦を予感した。

 

「さしずめ邪悪なる大きな者って意味かしら。……化け物退治は余り経験が無いのよね」

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