じめじめとした梅雨も終わりを告げ、未だ肌寒さを感じる風が晴れた日の下にそよぐも空調の効いた模型店の室内には何も関係がない。
放課後を過ぎて近所の小中学生が一同に集まる店内は、子供達に気を効かせた店長がエアコンの設定温度を通常よりも暖かくしているお陰か一人手に
いけないと頭を振って、当て木を添えた紙ヤスリにもう一度パーツを当てる。ゆっくりとゆっくりと、力を込めずに滑らせるだけ。
集中してパーツを見つめる意識が次第に没入する。
『紙ヤスリを敷いたフィールドの上に、パーツを接地させたラジコンを走らせる全自動ヤスリ掛け機! いけっヤースリィガンダムッ!! コアドッキングッッ!!』
『なんて速度だッッ!? 見る見るうちにパーツが削れて…………ってうわああぁぁ!!? ストップストップ!! パーツが削られすぎて只の板に! ……なんだこの形、放熱板か?』
「うるっっさいわ男子達ッッ!! 馬鹿な事しないでちゃんとヤスリ掛けしなさいよっっ!!」
私の
鼻息を1つ立てて座り直すと、ふくよかな体型の店長が知らぬ間にこちらへ微笑みかけていることに気づいた。
「あ、ごめんなさい。お店で大きな声を出してしまって……」
「良いんだよ良いんだよ。君達の元気な声を聞きながら模型の事を考えるのがわたしの楽しみなんだ」
そう言って対面の作業机に座り、店長の視線が私から私が弄っていた模型へと移る。
店長は過去に何度もガンプラのコンテストで入賞しており、そんな彼の視線に晒されて気恥ずかしさからか顔に熱が帯びる。
そんな店長の
「その模型道具、リュウ君がくれたんだっけ」
私が手にしていたヤスリと、手元に並べられた模型道具の数々。
お金が少ない私たち子供達の為に、重ねたプラ板を当て木代わりに作られたリュウお手製のヤスリは使い心地が良く、だからこそ表面処理の作業を行う度に彼を思い出してしまう。
「カンナちゃん……?」
「あっ、ごめんなさい。私ぼーっとしちゃって」
「……リュウ君が気になるかい? 彼が学園に戻ってもうすぐ3ヶ月だ、1つくらい連絡をいれてもいいんじゃないか?」
「それはダメですっ」
思わず大きな声が出てしまい、気まずさで店長から目を逸らしてしまう。
それは、それはいけないことだから。
おずおずと再び視線を向けると壮年の優しげな顔が私の返事を待っていた。
「…………リュウは、ガンプラファイターのプロになるため学園へ戻ったんです。私たちの事を話して気が散ることなんてあったら、私嫌なんです」
正面から、そう告げた。
これは私の意思であり、そしてリュウから良くしてもらった子供達皆の総意だ。
『次に会うときはプロ』、そう言って学園に向かった彼を邪魔しまいと、そう皆で決めたのだ。
ところで先程から、店長の丸い背中から顔を出す男子達がにんまりとした表情でこちらを窺っており不愉快な事この上無い。
「何よ」
『いやぁ~、カンナがリュウの事を“リュウ”って言ってるのが面白くってよぉ~』
『ついこないだまで“リュウ兄ぃ”だったのに……プ、クク…………、“リュウ”だってよ……』
「アンタ達このっ!! 表出なさい! ガンプラバトルでぎったんぎったんにしてあげるわこのガキ共っ!!」
『『きゃーっ! 助けてリュウ兄ぃ~!』』
「ぶっ殺すッッ!!」
私たち以外居ない店内を駆け回って子供達を追いかける中、ふと窓から外の景色が目に入った。
陽気な日差しと、晴天の空模様。
バスが通り過ぎた道路の向こう側を歩いていく男性の、
「──────リュウ兄ぃ…………?」
子細を見る前に角を曲がり、その後ろを私よりも幼い少女が付いていった。余りにも印象に残る姿。新雪のような淡く白い髪を腰まで伸ばした異様な少女。
その少女の前を行く、他人の空似だと断ずるには似すぎていた見慣れた
けれど一瞬見てとれた彼の表情は影に隠れて暗く、俯いたままだった。