ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

118 / 199
5章7話『積み上がった物は』

 その朝は今まで感じた事の無い頭痛で目が覚めた。

 頭の中から鈍器で延々と殴打されるような衝撃にリュウは苦悶の叫びを上げて目を覚まし、噛み締めた唇による流血がベッドへ滴り落ちる。

 どうにかなりそうだ。

 もう、どうにかなっている。

 暴風染みた激痛に身を(さら)され、微かに残る思考の余地から原因を探る。

 悶えながら顔を手で覆い、最早狂気の類いに一歩踏み行った視線は指の間からある場所を示した。その先には机の上に散らばるガンプラとその道具。

 

 今日見た夢は学園でガンプラを仲間で作る内容で、虚ろな視線のままリュウは卓上の模型道具を凪ぎ払おうと、しかし寸での所で止まり部屋に荒い呼吸だけがただ繰り返される。

 

「お前が居るから、俺は」

 

 拳を解いて、いつか触ったガンプラを震える掌で掬う。

 破綻している体型(プロポーション)に不釣り合いな大型の武装。机に並べられた作例本や模型誌は何度も(めく)られた形跡が見受けられ本自体が浅く歪んでいる。

 過去のリュウが持てる知識を総動員して作ろうとした作品。()()()()()()()()()()()()

 

「よくもまぁ、こんな出来で萌煌学園に行こうとしたよな……」

 

 手の内にあるガンプラを呆然と見詰め、リュウの胸には哀れみの感情がただ浮かんだ。

 こんな物しか作れない奴がこの先ガンプラバトルをしていたとしても、それは確実に大成しなかっただろう。()()()()()()()はもしかしたら本心で言ったのかもなと、リュウは(あざけ)りの笑みを形取る。

 

『────大人になっても見合わない目標目指すより、こうやって早くに切り上げた方がもしかしたら楽かもだろ』

 

 いつか少年が少女へ言い放った言葉だった。

 そして、リュウは理解した。

 春休みが終わったあの夜、仮に少女と出会わなかったとしても。

 

「リュウさん……! 大丈夫ですか」

 

 ナナが部屋へと殺到する。

 勢い良く開かれた扉の向こうには、苦痛に苛まれる声とは一変し不気味なほど静かな部屋で背を向ける少年が佇んでいるだけだった。

 

「リュウ、さん……?」

 

 やっとナナの存在に気付いたかでも言うようにゆっくりと振り返るリュウの、儚げに笑みを形取った口元にナナは悪寒を覚えた。

 同時に芯まで冷える程の罪悪感も。

 

「ダメなんだ俺。こいつが近くにいちゃ……」

 

 ぽつりとそう呟いて少年がナナから背を向ける。

 引き出しから乱雑に袋を取り出して、机のあらゆるものを無造作に入れ始めた。

 一心不乱にゴミ袋へ模型道具を詰め込む背中を見て、少女は手を伸ばしたい衝動を必死に堪える。

 少年がガンプラから離れることはもう仕方無い事だと、ナナの中で決心は付いた。そしてこの先どうあろうともリュウの後ろを付いていく事もナナは心に決めていた。

 少年から育んでもらった、大切な感情と共に。

 

※※※※※※※

 

「別に一緒に来なくても良かったんだぞナナ」

 

 リュウの住む町のゴミ捨て場は町内の面積に比べて非常に広い。

 これは付近に学園都市が存在する関係上、将来的にこの街にも移住者が増える事を見越した条例の1つらしいが今は何も関係が無いその知識に、少年は目の前に積まれたゴミ袋の山を見ながらぼんやりと思い出す。

 ゴミ捨て場のその一角、両手が塞がる大きさの袋が複数山になりその全てがリュウの部屋から出た模型に関する物だ。中身は数々の模型道具やガンプラが入っており、中には使い古された物も数多くあったがやはり少年の胸には何も感慨は湧かない。

 傍らの少女がじっと袋の山を見ながら応答をする。

 

「私はもう、リュウさんに付いていくと決めましたから」

 

「……勝手にしろ」

 

 踵を返す少年の後をナナが付き添うように歩きその距離は一定だ。

 リュウにしてもナナの今後の扱いは無関心のスタンスと決め、宿くらいは両親の承諾が下りるのならば貸し与える事にしようと、(ようや)く思考の整理がまとまった。

 世話をしない、リュウの方から関与もしない。少女の方から何か聞かれれば必要に応じて答える。

 少年にとってナナとの距離感はこれくらいが適切だった。

 

「リュウさん。この後どこかへ行く予定はありますか?」

 

 普段通り抑揚(よくよう)の少ない、鈴の音のような声。

 

「家に帰るだけだけど。なんか用事でもあるのか?」

 

「行ってみたい場所があります。行き方さえ教えてくれれば私1人で向かうので」

 

 珍しいと、そう率直に思った。

 譲らない頑固な面を持ち合わせているナナだが、基本的にはリュウの方針に添って行動することが多かった為少女が個人的に興味を持つという事は今まで滅多に無い。

 

「リュウさんが幼少の頃から通っていた模型店へ、私は行ってみたいです」

 

「……っ。それも俺の記憶を覗いたのか」

 

「…………ごめんなさい」

 

 少年が剣呑に横目で流すと少女は詫びるように俯く。

 謝罪を口にした少女の真摯な瞳。次の瞬間顔を上げ相対したナナの表情にリュウは毒気を抜かれた。

 

「私はリュウさんを騙しました。決して許される事ではありませんし許されたいとも思っていません。…………ただ私は、リュウさんを知りたいんです」

 

「もういいよそれは聞き飽きた。…………模型店はこっから結構近い。道も単純だから楽に行ける。……だけど」

 

 少女から目を逸らし少年の視線が空間に揺れる。

 やがて苦虫を踏み潰したような顔でリュウは空を見上げた。

 

「俺は行かない。……あいつらに、会わす顔が無いからな」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。