『昨日発売された『プラモラ』ヤバくね!? 長らく謎とされてきたプラモ仙人による表面処理が映像付きで解説されていたのアレもう事件だろ!!』
『巷ではパーツとヤスリの接着面を真空状態することでカマイタチを発生させて表面処理の速度を上げている説が提唱されていたけど、いやまさか地道な
『いや待つんだ2人共。あれは世界プラモデル協会が発したデマだと僕は考えている。理由としては幾らなんでも映像が乱れすぎているし、いかにかの老人が人里離れた場所でプラモを製作していようともあの映像の粗雑さはあからさまだ。僕が考えるにプラモ仙人は表面処理を行う際、実際にカマイタチを発生させているがその事実を
少女が店に入ると多くの喧騒が耳に入ってくる。
少年から言われた通り道のりは単純で、尚且つ中々に特徴的な店の名前だということから初めて訪れた少女にも初見で理解が出来た。
──『中山模型店』。
見慣れない字体に少女が首を傾げるも取り敢えずといった形で店内へ足を進める。
広い室内は所々が汚れており、カーペットに至っては塗料を溢した形跡すら見受けられ『学園都市』に建てられた模型店とは清潔の差が歴然だった。
横目にそういった物を興味深げに眺めながら少女は進み、店内奥の開けたスペースが目の前に映る。
長机が並び、そこに座る多くの人達。
一心不乱に模型へ
「ホントかよカンナ、リュウが帰って来たって。またいつもの幻覚じゃねぇのか? カンナが使ってる洗浄液結構キツそうだし──────ゲホァッッ!!?」
「いつもマスク使っとるわっっ!! パパの会社で使ってるとびっきり優秀な奴っ!! 私……本当に見たんだからね、あれは絶対リュウだった」
「痛たたたたたぁ!!? 分かったから分かったから横腹を抉る指先を止めてくれ!! なんだこの痛み、指先がピンバイスにでもなってんのか!!?」
談笑している少年少女達へナナは歩みを進める。
見た目は少女と同じくらいの年齢ばかりで、その中でも彼らを柔和な笑みで見守るふくよかな中年の男性が少女の目に入った。
彼らを、少女は知っている。
「カンナちゃんそれくらいにしてあげなさい。こういう年頃の男の子はね、女の子にちょっかいを掛けてあげたくなるものさ。…………それにしてもリュウ君か。彼は確かまだ学園に居る筈だろう、彼が来るのなら連絡を寄越すだろうし……」
「ほらやっぱ幻覚じゃんか!! 店長コイツの洗浄液やっぱ変えた方がいいって~」
「3mm」
「────うぐほぉぉッッ!!?」
「アンタの脳みそ全部取っ払ってパテでも詰め込んでやろうか!? 本当に見たの! しかも変な女の子連れて!! …………一体何なのよもう~~~!!」
「待って待って待って!! 3mmでこれなら5mmとかどんだけ痛いんだよ!!?」
彼らの事は断片的な映像でしか見たことが無いけれど、少女は確信を
「カンナ・イブキ、さん」
「そうそうこんな感じの女の子だったわ! 何か綺麗なんだけど不気味っていうかお化けかと思ってびっくりしたわ………………って、え?」
少女の動きがピタリと止まる。
動揺に硬直する身体はしかし視線だけ動き目の前に立つ白銀の髪の少女を捉えた。
釣られて言葉を無くす周囲の少年達の目線も一斉にナナへと向き、鈴の音のような澄んだ声音でもう一度少女は声を上げた。
「──────初めましてカンナ・イブキさん。私はナナ。貴女に聞きたいことがあって来ました」
※※※※※※※
棄てた、という実感は少なくともリュウには無く、言い換えるのなら処分したという方が正しいか。
記憶を探るだけで激痛が走り、必死の覚悟で微かに覗けた思い出は全て忌まわしいエピソード。関連する道具や模型が目に入るだけで毒となったそれらは処分した方が今後の為にも良いだろうと、リュウは確かにそう思った。
そう、思っていた。
がらんと開けた自室の一角は不自然なスペースが空いており、カーテンから差し込む陽に照らされた埃が舞い、一抹の寂しさを演出しているように煌めいている。
部屋に残ったものは机とベッド、たったそれだけだ。
自室の光景はリュウ・タチバナの人生の現れといっても差し支えなく、少年が今までの人生を殆どガンプラへと注ぎ込んでいた証明でもあった。
「──────っ、くそッ」
決して自慢できる軌跡では無かったと思う。
高校受験を放って日本有数のガンプラ強豪校である萌煌学園を受験し、受けた動機もただなんとなくだった。
同期であったコトハとエイジは必死に猛勉強をして自分だけのガンプラを作り、それを見て彼らは本気でガンプラが好きなんだなと、思えばあの時から隔絶が始まっていたのだろう。
リュウはそんな幼馴染み達の熱意に当てられ、懸命なフリをして受験しそして合格した。
萌煌学園は評判こそ日本で最強のガンプラ育成機関ではあるものの入り口はさして狭くはない。学園もビジネスだ。数多くの生徒を受け入れ入学金や奨学金といった利益を得て、辞めたい生徒だけ辞めれば良いというスタンスだ。萌煌学園出身というブランドを除けば卒業後の進路は殆ど自分で見付ける事になり、ましてやガンプラファイターとガンプラビルダーを養成する施設という特性上、将来生徒同士で潰し合うなんて話はごまんとある。
学園にとって生徒は入学させ得であり、学舎で生徒が何人辞めようが構わない。辞める生徒は所詮その程度だった、それだけの話だ。
そんな虎穴を生半可な覚悟で潜った自分が行けなかったと、リュウは熱くなる目頭を抑えもせずに自室をただじっと見詰める。
昨日の夜、ナナと鉢合わせた晩にリュウは気付いてしまった。
たとえ少女と出会わずあのまま学園生活を続けていても、結果的に
リュウはガンプラに関する記憶を無くしていても、自分がどんな人間かまでは忘れていない。
自らを優先し他人を見捨て、理由を付けて学園をサボっていた。表面上の努力だけは達者で人間関係のみで萌煌学園を過ごしてきたような人間だ。そんな人間は将来いつか大きな挫折を味わってこんな理由を付けて辞めるのだろう。
────本気でやってなかったし。別にいいや。
例えば未来、大きな試験で決定的な敗北をした時。例えば未来、コンテストで結果を得れなかった時。リュウにはその際、『次回こそ良い成績を出すと』、果たして本心で言えただろうか。
否、言える筈が無かった。
だからこそトウドウ・サキとカナタから逃げるように選択科目を取らなかったし、ナナとの実験を名目に惰性でそれとなく過ごしてきた。
つまり目の前のこの光景は、少女と出会わなかったとしても確実にリュウの目の前へ現れていた光景だ。
途中で投げ出すタイミングがたまたま今回だっただけ、それだけの事だ。
「──────、くそっ……!」
堪えていたものが遂に目尻から溢れる。
どうして自分が泣いているのか。思考と矛盾した身体の反応に少年は困惑するしかなかった。
『『そんな息子の涙を母親は見逃す訳にはいかず、そっと後ろから声を掛けるのであった』』
「ッッ!!?」
リュウが声に振り向くと仕事へ向かった筈の母親が開いたドアの向こうから微笑んでいた。
「様子が変だったもの。……リビングに来なさい、朝御飯まだでしょ?」