ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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5章9話『2人』

「なーなー! リュウってマジでプロになったのか!?」「嘘だぁ~! アイツ俺のガンタンクに負けそうになってたぜ!」「ナナちゃん! 学園都市ってどんなところ!? どんなガンプラが売ってるの!?」「学園都市って緊急事態になると学区が合体して巨大ロボになるって本当か!?」「誰か180番持ってない~?」「ナナちゃんって萌煌学園何年生? どんなこと教わるの?」「うわぁ~~!! パテ造形した所を切削してたらパテ部分全部取れちゃった!!」「おしっこ行きたい!」「萌煌学園七不思議って実際あるのかしら? 深夜の音楽室から超音波カッターでパーツを切る音が聞こえるらしいのだけれど」「はい180番」「ヤースリィガンダムコアドッキング!! 親父のミニ四駆からパクったモーターなら絶対もっと削れる筈だっ!」「ナナちゃん! 学園都市で一番美味しかった食べ物って何!? あ、甘いもの限定ね!」「パテが取れた奴、その取れたパテをもう一度パーツに張り付けろ! 接着すればまだどうにかなる!」「おしっこ行きたい!」「ナナちゃん! リュウについてなんだけど」「ナナちゃん!」「ナナちゃん!」「ナナちゃん!」

 

「……………………えっ、あの。あっ」

 

「だぁ~~~っっ!! アンタ達1回黙りなさい! 黙りなさいったら黙りなさい!! ナナさんが困ってるでしょう! 1人ずつ順番で質問しなさい! そんでトイレ行きたい子は早く行きなさい!」

 

 席に着くや否やナナの周囲には多くの子供達が波のように押し寄せて、怒濤の質問攻めを繰り出していた。

 少女が戸惑いに大きな瞳を瞬かせていると波の中から一際大きな声が発せられ、文字通り波を引くように子供達が引いていく。

 その中心に声の主、カンナ・イブキが天に向いたおさげのまま両手を腰に当て頬を膨らませていた。

 

「ごめんなさいねナナさん。皆まだ低学年で元気が有り余っているの。驚かせたわよね」

 

「いえ、あの。……こういった経験が無かったので」

 

『おい見ろよ、カンナがまた年長者気取ってるぜ。学年1個しか違わねぇ癖に』『ナナちゃんに良いところ見せたいんだろ。やだやだこれだから優等生気取りは』『あんま弄んなって、またダインスレイヴが飛んでくるぞ』

 

「男子達コラ」

 

『『『うぎゃぁぁああああッッ!!? 痛痛痛てててて!!』』』

 

 囃し立てる男子達の脇腹に次々と指先が抉り刺さる。

 ひとしきりグリグリしたところでカンナは何事も無かったように頬へ笑みを優しく浮かべて席に着いた。

 

「で、ナナさん。私に聞きたい事って何?」

 

「リュウさんの事についてです。リュウさんはどういった風にこの模型店で過ごし、どんな風にカンナさんや皆さんと交遊していたのですか?」

 

「その質問を答える前に聞きたいのだけど、ナナさんはどうして私の事を知っているの?」

 

「それは…………」

 

 リュウとLinkした際に記憶から知識を得たという事実を言うのは少女の中で(はばか)られた。

 接続者(コネクター)としてリュウが除外され、実験から外された少女を縛る誓約は既に存在しないが、そんな話を初対面の少女を相手に説明することはリスクが高すぎる。

 そう断じたナナは言葉を数度濁した後、きっぱりとカンナの目を見て。

 

「言えないです」

 

 そう言い退けた。

 

「そう。ふんっ、まぁどうせリュウから聞いたんでしょ? それくらい想像がつくわよ。……でナナさんの質問に答えさせて貰うわね。…………と言っても私もリュウの全部を知っている訳じゃないけど、それでも良い?」

 

「……!」

 

 腕を組み何故か上機嫌に鼻を鳴らす少女はその言葉を皮切りに目を閉じ、大切に糸を紡ぐよう確かな言葉を以て口を開いた。

 対するナナはそんな少女の言葉を一語一句聞き逃さないよう、僅かに身を寄せてそっと目を閉じる。

 歌を聞くように、少年の知らない姿を胸に想いながら少女の意識は没入していった。

 

※※※※※※※

 

 差し出されたマグカップが置かれ、昼下がりのリビングに珈琲の香りが広がる。既に昼食という名の朝食を食べ終えたリュウは母親に視線で促され熱々のそれを口へ運ぶとブラックの苦味が口と鼻孔を満たし、リュウは眉を潜める。

 じっとその様子を見詰めキョウカはややあって口元に笑みを浮かべた。

 

「子供ね」

 

「うっせ。……今日は仕事じゃないのかよ」

 

「あら? カレンダー見ていないのかしら、母さん今日はオフの日だけど」

 

 そう言ってカップを片手に新聞を眺める姿は所謂(いわゆる)『出来る女』の像そのもので、珈琲を飲む際に香りまで味わっている姿をどうしてもリュウは自分と比較してしまう。

 キョウカの言う通りカレンダーへ目をやれば確かに今日は仕事が入っておらず、しかし今日以外の日付はほぼ全て仕事の表記が施されており、偶然リュウの帰省と重なってしまったというわけだ。

 

「ナナちゃん、良い子ね」

 

 リュウは答えずに珈琲へ再び口を付ける。

 

「言うことはちゃんと聞くし礼儀正しいし、昨日なんか何かお手伝いすることはありますかって聞いてきて。……リュウが良ければ(しばら)くうちに住まわせてもいいけど。あ、でも親御さんの事もあるわね」

 

「……ナナの事ならナナに聞けば良い。俺は、ナナとは関係無い」

 

「それもそうね。そうそうリュウ、学園の件だけど」

 

 心臓を握りしめられた感覚だった。

 多少身構えていたとはいえ、遂に来たかとリュウはカップを置いたまま姿勢が固まる。

 

「私は良いわよ。……けどね、理由だけは聞かせて」

 

 聞こえてきた言葉に愕然とした。

 顔をあげればいつものような表情の変化が薄い顔に微笑みを浮かべて、おおよそ怒りのような感情は微塵も見てとれない。

 不可解だった。

 

「母さん、怒ってないのかよ」

 

「あら、怒るところあったかしら」

 

「あるだろッッ!!」

 

 机を叩いて起立するリュウは怒りと悲しみをない混ぜにした瞳でキョウカを睨んだ。

 

「辞めたんだぞガンプラを!? 学園をっ! 昔っから2人に支えられてきた事を裏切ったんだぞ!? ……1発くらい、殴ってくれよ…………ッッ!!」

 

 リュウが覚えている限りでは、母は休日になると決まって家におりリュウや父と過ごしていた。率先して家事を行いリュウとタツヤが模型を組んでいる様子を珈琲の入ったマグカップを片手に微笑みながら見詰めて、他愛ない話で1日を過ごした後激務の日々を再び歩んでいく。

 リュウはそんなキョウカが憧れでもあり誇りで、どんな時も気に掛けてくれる両親の元に生まれた自分は恵まれていると常に思っていた。

 

「学費だって2人が出してくれた学園を投げ出してっ、期待を裏切ってさ。……学園辞めた次の事とか考えたけど、やりたいことが無くて、……俺、どうしようもない人間なんだよ……! ごめん…………っ!!」

 

「リュウ」

 

 笑みの消えた表情が立ち上がりリュウを見下ろす。

 振り上げられた手は内心望んでいた筈のものであったが、どうしてか目が開いてくれない。

 叩かれるその時を待ちながらぎゅっと目を瞑り、リュウは心の中で謝罪の念を一層に強める。

 しかし訪れたのは叩かれる衝撃ではなく、頭に乗せられた柔らかな手だった。

 

「────ありがとね」

 

 母に頭を撫でられている。

 疑問よりも先にすぐにでも手を振り払いたかったが、母の優しげな声にリュウは二の次が出ない。

 

「リュウは優しいのね。……私達に気なんか使わなくっていいのに」

 

「止めてくれよ……! 父さんも母さんもどうして俺にそんな甘いんだよ……。全部、棄てたんだぞ俺……! 今まで集めた模型道具やプラモデル、雑誌に完成品全部、さっきっ!! ……バカ野郎の一言も言ってくれないのかよ!?」

 

 否定しながら母の手を甘受するリュウは、自らがどうしようもなく子供だと。母という存在に甘やかされて涙を流すガキだと、胸に激痛が走りながらも自覚した。

 俯くリュウの頭上から、尚もぶっきらぼうでそれでいて優しい声が投げられる。

 

「叱るのは後で良いわよ……。だから聞かせて、リュウがどうしてガンプラを辞めるなんて事を言ったのか」

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