ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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5章10話『だから今が在る』

 子供の声という物はどうしてこんなにも通るのだろう、と。少女は自らの容姿を棚に置いて公園の至るところから聞こえる喧騒に意識を傾ける。

 中山模型店から歩いて10分のところに住宅街の真ん中をぶち抜いたその景色は、萌煌学園に隣接する森林地帯と同等程の面積のある巨大な公園だった。

 見たところ遊具の豊富なエリアや、人工池や森林のある自然が豊富なエリアといった区分けがされており、ナナが案内されたのは一面芝生のエリアで、模型店に居た子供達が溌剌(はつらつ)と走り回る光景を端の木陰からカンナと共に眺めている。

 

「ここ、今の時期が丁度良いのよね。虫も変なの居ないし」

 

 ぱたぱたと上着で扇ぐカンナを傍らに、やや距離を置いて少女は座っていた。

 時折木漏れ日に目を閉じて、ナナは走り回る子供達をただ見詰める。

 

「ここに居る皆ね、リュウが面倒見てたの」

 

「……皆? 今公園を走っている子供達皆さんをですか」

 

「そうそう。ほんとはもっと多いのよ。それこそ私たちは同じ小学校だけど、違う学校の子とか、たまに模型店にやってくる違う町の子とか、そういう子達皆リュウが面倒見てたの」

 

「そう、なんですね」

 

 ナナが閲覧した記憶にはカンナが話したような情報は無く、恐らくはガンプラとは関係の無い純然な思い出なのだろうと少女は悟る。

 意外と言えば意外で、納得と言えば納得だった。

 少年と過ごした日々はLinkや学園生活、アウターでのガンプラバトルが毎日のように続き、子供達と触れ合う日常は存在していない。それでもカンナの言う通りはしゃぐ彼らの面倒を見るリュウの様子は容易に想像でき、ナナは思わず想像に口角を緩ませた。

 

「でね、子供達同士で喧嘩したり、泣いてる子がいると自分の事なんてすっぽかして飛んでくるのよ。……ここの皆、リュウに救われたの」

 

「……救われた?」

 

「イジメにあっていた子や、周囲の目が気になってガンプラを組めない子、その輪へ入りたそうにしてた子をリュウが声を掛けて纏め上げたのよ。初めは小さな集団だったんだけどほら、子供って噂広まるの早いじゃない? だから私が入った時にはもう50人くらい越えてたかしら」

 

 呆れたと言わんばかりに苦笑するカンナの横顔を少女はじっと見詰める。

 あの少年も良くそんな顔をしていたから。

 

「カンナさんも、……酷いことをされていたのですか?」

 

「されてたわね~。私ガンダムXの機体が大好きなんだけど、……クラス替えした頃かな、教室の男子達がちょっかい出してくるのよ。『こいつ人気の無いガンプラ使ってるぞ!』って。最初の頃は珍しいガンプラ使ってる事だけ弄られてたんだけど、勉強で良い成績出したあたりから男子達のイジリがエスカレートしてね。……気に食わなかったんでしょうね、マイナーな機体使ってる上に自分達よりガンプラバトルも成績も良い私が」

 

 にしし、と笑みを浮かべる少女の表情に陰りは一切無く、そのままナナは聞き入れる。

 

「そんな中誰かが私のガンプラ隠してね、探したんだけど見付からなくって。先生に言っても取り合ってくれなくて、それで親友に……あ。親友は女の子なんだけど。その子が見付けてくれたのよ。私のガンプラは普段使われない校舎の男子トイレにあったわ…………。バラバラに壊されてたの」

 

「え…………っ」

 

「そりゃもう酷かったわね。塗装した面なんて金属ヤスリ掛けたのかってくらいズタズタで、軸という軸は切られて。直してどうこう出来る状態じゃなかった。それで笑えるのがね────壊したのは、私の親友だったの。イジメの指示も全部その子がやってた」

 

 ナナはぞっとした。

 受け入れがたい境遇の中支えてくれた人物に最も大きな裏切りを受けたというカンナの話に、少女は深く共感を覚える。

 

「その後も学校行ったんだけど、イジメはどんどん酷くなって。気が付いた頃にはクラスどころか学級に私の居場所は無かったの。……それで不登校になってね、たまたまこの公園に立ち寄った時。…………そこでリュウに会ったんだ」

 

 空を見上げ、木漏れ日に目をしかめながらカンナは紡ぐ。

 自分で言っておいて中々に酷い話だなと思いながら、真摯な顔で聞き入れる隣の少女にも届く声で。

 

「同じような境遇の子がこの集団には多くて、皆で悩みを共有して、解決策をリュウや……エイジさんやコトハさんって人達が考えてくれて。私を取り巻く環境は日に日に良くなっていったの。……ある時リュウに聞いたのよ、どうしてリュウは私みたいな子の面倒見てるの? ってそしたら」

 

 屈託の無い笑顔を太陽に向ける少女を見て、釣られてナナも同じように仰ぐ。

 

「『俺も昔同じ様な目に遭って、救ってくれた人が居たから。同じ事をするようにしてるんだ』って。……それ聞いて笑っちゃったわよ! 普段馬鹿やってるリュウの口から似合わない言葉が出てきて」

 

「ふふっ、リュウさんその時怒りました?」

 

「怒った怒った! 『2度と言わねぇ!』って! …………ここの皆、私とおんなじようにリュウから救ってもらったの。だから、リュウが帰ってきて嬉しかった。────リュウは、皆のヒーローだから」

 

 ヒーロー。

 リュウの記憶を覗いた際、断片的に見られた単語だった。それがどんな意味を持つのか、記憶を詮索することは少女には気が引けて結局分からないままだ。

 (ふけ)る少女にカンナの顔が向けられ、そこではっと気付いた。

 初めて見せた陰りの表情。僅かに身を乗り出してナナの大きな瞳へカンナが告げた。

 

「リュウに、何かあったの?」

 

 胸が苦しかった。

 カンナの話の通りならば、少年はあの夜ナナを見捨てる事が出来ないわけで、少女は少年の優しさにつけ込んで騙し裏切ったという事になる。

 不安そうに向けられた瞳をナナは背けて、芝生に置かれた手を握りしめた。

 

「……私は、カンナさんのようにリュウさんから救われました。でも、私は、彼を利用して裏切った。……酷いことをしてしまったんです。私だけ救われて、リュウさんを陥れたんです……!」

 

「ふーん。ナナさんは謝ったの?」

 

「あ、謝りました……! でも、私がしたことは謝罪じゃ取り返しのつかない事でっ。私のせいで、リュウさんは大好きなガンプラを辞める事になってしまったんです……!」

 

 ぽつり、と。少女の手の甲に涙が落ちる。

 改めて自分は酷いことをしてしまったのだと、少女はカンナから聞いた話を踏まえて実感した。

 少年は自らの性根を貶したり失望していたが、それ以上に多くの人間を救っていた。そんな彼の人生を滅茶苦茶にした自分の愚かさにナナは口から嗚咽を漏らす。

 

「そ。ならリュウが悪いじゃない」

 

「────え」

 

 あっけからんと答える少女にナナは言葉を失った。

 無理も無いなと思う。詳細を話していないのだから、単なる悪戯にリュウを巻き込んだと、そう思われているのかも知れない。

 

「カンナさん、私は本当にリュウさんを裏切ってしまったんです。決して軽い冗談のようなものでは」

 

「冗談? ……ハッ、ナナさんアンタね。私の目を見てちゃんと物言いなさいっての。冗談に見えるかしら?」

 

 今までの軽い口調ではなく、カンナの瞳は真摯の色が宿ってナナを正面から見据える。

 

「たかが子供に騙されたくらいでへこたれてるリュウの器が小さいって言ってんの。……アンタのせいでガンプラを辞めた? あ~~!! あったま来るわね! そうか、そうなのね、そういうことなんだリュウ。……ふふっ、アンタにとってガンプラは女の子1人で左右される程度のものだったんだぁ……」

 

「カ、カンナさん……?」

 

 ナナを睨み付けたかと思えば独り言をぶつぶつ呟いて、何かを企んでいるような暗い笑みがカンナの口元に走る。

 今まで見たことの無いタイプの表情に少女はどう声を掛けたら良いか分からず、ただ視線をカンナと景色を右往左往させていた。

 やがて意を決したように立ち上がり、その悪童じみた笑みを見上げる。

 木漏れ日と相俟って眩しいその笑顔を。

 

「私達が思い出させてあげる。行くわよナナさん」

 

「え、あの。行くってどこへ」

 

 にしし、と振り返る少女に何故かナナは安堵を覚える。

 この少女がいればリュウに何かしらの変化がもたらされるかも知れない、そんな安心感が胸から湧いてきた。

 彼が絶望するのは仕方無い、だけどそれは手を尽くしてからでも遅くはない。カンナの屈託の無い笑顔を見て少女はふと思う。

 

「決まってるでしょ。──────あの馬鹿野郎のところへよっ!」

 

※※※※※※

 

「馬鹿ね、大馬鹿野郎ね」

 

「結局言うのかよ……」

 

 顛末を説明されたキョウカは椅子に座る少年を下から上へとなじるように見た後、盛大な溜め息をついて罵倒した。

 実験の仔細については省いたが、ナナとの出会いが無くとも結局自分は現実から逃げて家に帰ってきたであろうという内容を話し、自分という存在を散々卑下してリュウは説明を終え、現在リビングのソファでキョウカと向かい合っている形だ。

 

「何故私が怒っているか分かるかしら、言ってみなさい」

 

「俺が、父さんや母さんや、応援してくれた皆の期待に応えられなかったから……?」

 

「1ミリもどうだっていいわそんなこと。他には」

 

「お金の工面も無駄にしてしまったこと……?」

 

「どうでもいい。他」

 

「え、……結果的に皆を裏切ってしまった事。……甘えてた事」

 

「他」

 

「…………………………ぅうっ」

 

 淡々と告げられる否定の連続にリュウの声が小さくなっていく。

 母が怒っているのは理解できるが、何故怒っているのかはリュウには分からなかった。

 少年が視線を上にあげると腕を組み静かに憤然している母が見て取れ、益々少年の中で疑問が広がる。

 

「母さんがどうして声優なんていう面倒極まりない仕事してるか分かるかしら」

 

「……どうして…………?」

 

 予想外の質問にリュウはオウムを返した。

 今まで考えたことが無い内容だ、真意が図れない母の瞳にリュウは思案を巡らせる。

 沈黙が部屋に暫く続き、それでも少年はこれといった答えを見出だすことは出来ない。

 

 声優という中高生や若い年齢層にとって花形とも言える職業は、イメージに反してどこまでも残酷な職業であることをリュウは母を通して僅かに知識を持っている。

 声優のような飽和した芸能業界に入るということは、既に声優を生業としている人間を蹴落として自らがその立場を得るということだ。

 例えば渋い声が売りのベテラン声優が活躍しているとして、同じく渋い声が売りの新人声優が業界に入ったとする。当然制作スタッフとしては仕事の流れや体調面の管理を既に徹底しているベテラン声優の方を使った方が、コストが掛かるとしても圧倒的に使いやすい。

 この構図が成り立つ以上、際立った才能の無い新人声優が活躍出来る舞台は飛び道具であり、DLサイトで自らの作品を同人媒体として販売したり、グラビア紛いの物で人気を集める事になる。そして現在ではそういった新人声優すら飽和を迎え、人気さえあれば声の演技は2の次といった現状がここ10年以上続いている。

 文字通り新人声優には休む暇が無く、事務所関係者との飲み会や朝まで続く収録、そして声優稼業で稼げない分は居酒屋やどこかでバイトをして生活を凌ぐ。こういった生活の中で体調────特に喉を潰したらその時点で他のライバル達から差を付けられる事となってしまう、文字通り声優業界は魔境だ。

 

 だから、リュウは今更ながらに理解が出来なかった。

 何故母は声優という道を()()()選んだのか、その理由を。

 

「簡単よ。それしか私には無かったの」

 

 どこか遠くを見るように宙へ視線を送り、過去を辿るようにゆっくりと口を開く。

 

「母さんね、学生時代は成績も優秀で運動神経も抜群に良くて、周りからはどんな立派な職種に就くのかそれはもう期待されたわ」

 

 初めて聞く母の昔話にリュウは耳を澄ますよう聞き入れる。

 母の表情に浮かぶ苦笑も、久しく見ていない表情だった。

 

「周囲から期待されて期待されて、毎日追われるように有名著者の論文や哲学書を読んで、どうして私はこんな本を読んでるんだろうって思ったある日、全校生徒の前で論文を発表する機会があってね、その時かしら。……楽しかったの」

 

「楽しかった……?」

 

「私が話す抑揚で聞いている人達の反応が変わって、眠り掛けている生徒がいれば読み上げる文章に変調を入れて。……前日に読んだスピーチを読むにあたっての心構えって本の内容を、『あっここで今使おう』と思ってね。そしたら皆面白いように私の話を聞いてね。その次の日演劇部に入部したわ。……下手なりに台本を読んで棒演技の連続よ。それでも芝居をしている間はね、『勉強が出来る私』じゃなくて、役としての私を皆は見てくれたの。あんな痛快な事、それまでの私の人生では無かったわ。だって勉強していたのは私の意思じゃなくて私に期待する私以外の意思だったから。芝居を通してキョウカ・タチバナという個を見られる事に快感を覚えたの」

 

 過去を慈しむように母が虚空へ告げる。

 母の基礎教養が高いことをリュウは知っていたが、話を聞く限りでは周囲よりずば抜けて勉強が出来ていたのだろう。

 

「1度芝居の味を知ったら人間ダメね、無理強いされていた勉強の密度を控えめにしてその分自分を磨いたわ。……芝居っていうのは自分だけが目立ってはダメなんだけど、当時の私はがむしゃらに演じてね、良く演出に叱られたわ。全体のバランスが取れないから控えめにしてくれって。……高校を卒業する頃には演者としての意識の確立とどうすれば良い作品を皆で作れるかを自分の中で理論を立てて、私は舞台芝居よりも朗読劇の方が向いているって分かっていたから、そのまま親の反対を振り切って声優の事務所の扉を叩いた。…………ここまで聞いてどうだった?」

 

 話を漠然と振られリュウは困惑するも、胸の感慨のまま口を開いた。

 

「凄い、と思う。やりたい事を見付けたら一直線に進んで、そのまま業界で活躍なんて」

 

「事務所に入って1ヶ月で挫折したわ」

 

「────は」

 

 予想だにしていない言葉に間抜けな声が漏れた。

 挫折。おおよそそういったものとは無縁そうな母が口にした単語はリュウの耳に入るも理解を拒む。

 目の前の、表情が乏しいながらいつでも自信が満ちる母が声優で挫折した経歴を持っていた事は今の今までリュウは知らなかった。

 

「あの時の私はどうして考えられなかったのかしらね。……業界入りを決意した人達にとって『その程度の努力』なんて当たり前。それこそ私が声優を目指す遥か以前から努力をしていたり、中にはポケットマネーで自分の作品を作っている人が大勢いたの。……お行儀の良い芝居しか出来ない私には、彼女達のような血の滲む経歴も、輝かしい才能も何一つ無かった。それを事務所に入って痛感したわね。──あぁ、立っている舞台が違うんだって」

 

 それから母は話した。

 どうすれば同期の人間達に食らい付けるか、そして()()()()()()()()()()()()()

 いつまでも声優という夢を追い掛けるわけには行かず、家の体裁もあり歳が24になるまで結果を残さなければ勘当を言い渡されるという条件も課せられ、努力が実らない毎日を過ごす中、仕事する時間よりもバイトをする時間が増えて日に日に母は病んでいった。

 

「何の為に私は声優やってるんだろうって思った。既に同期の中では大手の制作が出すアニメのレギュラーも決まった子がいたり、ナレーションのレギュラーを貰った子も居た。私はそんな中、地下の小劇場で芝居したり舞台演技も出来る声優としてプロデュースされていて、……朗読劇だったかしら。デパートのイベントブースで子供に読み聞かせるタイプの舞台に立ったの。それが意外にも好評だったらしく、色んなデパートで公演をさせて貰える事になってね、そこで1人のストーカーに出会ったのよ」

 

 笑みが溢れた母の口調から、それが誰だったかすぐに察しが付いた。

 

「すぐ事務所を通して警察に突き出したわね。……そしてまた朗読劇をして、子供達が私の演技1つ1つに息を飲んだり笑ったりして思い出したのよ。────『私には、やっぱりこれしか無いな』って」

 

 母は語る。押し付けられた勉強という経歴ではなく、自分が演じる役で感動してくれる客の大事さを改めて認識したと。

 どうして声優を目指したのか。その原点は全校生徒の前で論文を読み上げたあの日、自分の声や動きで興味を示してくれた読み手との関係が堪らなく楽しかった事だと。

 

「それで私は聞いたのよ。その日の公演も最後列で聞いていたストーカーに。『どうして毎回来るんですか』、そしたら『貴女の声には力がある』。それ聞いてもう一回警察に突き出したわ、ストーカーの上に変な思想持っている風に聞こえたんだもの」

 

「ははっ。そのストーカーも馬鹿だな、一回警察に厄介されてるんだから言葉を選べばいいのに」

 

「全くね。けどどうしても言葉の意味が知りたかったから、留置所へぶちこんだその日に面会したわ。あれはどんな意味だったのか知りたかったの」

 

 ストーカー曰く、『他人を楽しませようとする演技は、金儲けの為の演技と違う』そうだ。

『僕は君の、客を楽しませようとする芝居に惚れてしまった』と。

 

「そいつの言葉に自信が付いたってのも事実ね。私は自分がやりたかったことを思い出して、バイト代叩いて自分にあった同人音声作品も沢山作って……、多くの人に楽しみを提供したくって無我夢中で進んだ24までの日、気が付いたら多くのファンが居てくれたの────最後は駆け足になってしまったけれど、これで終わり」

 

 言葉を切った母が手元のマグカップを1口に仰ぎ、すっかりぬるくなったそれに眉をしかめる。

 未だ疑問の残る母の昔話を脳内で咀嚼(そしゃく)していると穏やかな笑みを浮かべて母がマグカップを置いた。

 

「リュウ。貴方はどうしてガンプラを始めたのかしら。どうしてガンプラバトルを続けたいって思ったのかしら。──────その原点を、貴方忘れていないかしら?」

 

 話しはおしまいと言わんばかりに母が身体を伸ばし、ソファから立ち上がる。

 微笑を浮かべたその表情は挑戦のように見て取れた。

 リュウは理解した。自分に、何が足りていないか。何をすべきなのか。

 

「俺が、ガンプラを始めた理由…………」

 

 記憶は無い。

 それでもガンプラが好きだった『リュウ・タチバナ』を辿ることは出来る。

 目を閉じて母の話を思い返せば無限に力が湧いてくる気がして、少年も一息にソファから立ち上がった。

 

 模型の話を聞けば想像を絶する激痛が襲うだろう。

 それでも、確かめなければいけない。

 どうして自分がガンプラが好きになったのか、何故ガンプラバトルを始めたのか。

 

 ────痛みに悶えて引きこもるのは、その後でもいいじゃないか。

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