ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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5章21話『おかえりなさい』

「おかえりなさい、リュウさん」

 

 鈴の音の声に緩く瞼を開けると、見知った少女の顔が視界いっぱいに映る。

 頭上から掛けられた声に少年は身体を起こそうとするも、鉛のような倦怠感が襲いそのまま脱力してしまった。

 

「大丈夫ですかリュウさん?」

 

「少し身体が重い……。けど頭痛は感じねぇからしばらくしてれば治ると思う。あの、それより」

 

 何故少女の声が頭上から聞こえるのか。どうしてベッドを背にログインした筈が視界に天井が映っているのか。

 今日だけで2度目となる後頭部へ主張する柔らかな弾力に、少年は微笑んだままのナナに問いだした。

 

「どうして膝枕をされているんでしょうか」

 

「……嫌でしたか?」

 

「嫌というか、今までこんなことするような感じじゃなかったから少し驚いた」

 

「お昼に」

 

 そう言って少女が無表情めいた顔で少年から目を背けて、小さくなっていく声のまま呟いた。

 

「カンナさんがやっているのを見てやってみたくなりました……」

 

「そ、そうか……? それと、ナナも具合悪いのか。さっきから顔が────うぉっ!?」

 

「み、見ないでください」

 

 目元に少女の掌が添えられて視界情報が0になる。

 事態が飲み込めずとりあえず話題を変えようと咳払いをして、先程まで体験していた出来事を思い返す。

 あの記憶の世界で出会った謎の男。得られた知識は多く、また浮かんだ新たな問題も多かった。

 

「何だったんだあの男」

 

「見たところ悪い人では無いと判断しました」

 

「それにしても胡散臭すぎるだろ。他人の記憶を操作出来るみたいな物言いだったし、アイツが持っていたあの手帳……あれは()()()()1()()の人間にしか贈られない証だ」

 

 男が取り出していた手帳に挟まれた七色に輝くプレートは、少年の記憶が正しければ世界ランク1位のファイターにしか持つことが許されない武勲証だ。

 そんな人間がどうしてこの町に来て、何故リュウの記憶を操作していたのか、またナナの事をどうして知っていたのか。更に付け加えるならば、リュウの記憶であるあの世界でどうしてこちらへ干渉することが出来たのか。

 あの男に対しての謎が多すぎると、リュウは目を少女の手で遮られたまま腕を組む。

 ……そもそもなぁ。

 

「ナナの変な力にしてもあの男の得体の知れなさにしても……存在が確実におかしくないか? 俺の周りだけ気が付いたらフィクションだぜこれ」

 

 プラフスキー粒子への粒子励起作用に記憶改変の力。

 ガンプラファイター、ガンプラビルダーとは無縁だが不可思議な力の数々がリュウの周りで起きてることに少年は唸りを上げる。

『答えは電脳世界(アウター)にある』と男は言った。だったらやることは1つだ、自身の境遇とこれまでの経緯から途中で見て見ぬ振りをすることは(はばか)れた。

 

「ナナ」

 

 決心は着いた。

 偶然とは思えなかった。

 リュウが今まで歩んできた経緯(いきさつ)が全て男によってもしかしたら仕組まれているかも知れない──否、仕組まれているのだと否応にも感じてしまった。

 

「俺は、学園都市に戻るよ」

 

 リュウには確かめることが出来た。

 少女との因果の先に何があるのか、ここまでお膳立てされていたのならこの目で見届ける以外は有り得ない。

 意識に集中して、以前までは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ナナが連れていってくれたお陰だ。────全部、思い出したぜ」

 

「リュウ、さん……」

 

 昼間に店長から聞いた昔の自分の馬鹿な話や、学園で過ごしたコトハとエイジとの記憶。学園都市で出会った人達に、そして自分のガンプラの記憶。

 当たり前のように思い出せる感覚に酷く懐かしさを覚えた。

 

 ……変わらないのだ。

 記憶を失った要因を原因としてガンプラから逃げていたが、記憶を取り戻したらじゃあやる気が沸いてくるのかと言われれば答えはいいえだ。

 ガンプラバトルを続けていく上で大事な事、それは記憶の場所であの男に啖呵を切った台詞そのままだと少年は静かに悟る。

 ──俺を応援してくれる人達の笑顔が見たい。俺が好きなガンプラバトルで大好きな奴等を喜ばせたい。

 今までは無かった原動力に胸が熱意に満ち、今すぐにもガンプラを弄りたいと身体が疼く。

 

「おかえり、なさい」

 

 目の前に光が広がる。

 退けられた手のひらの代わりに天井からの灯りが眩しくて、何より声の震える少女が少年にとって最も輝いていた。

 

「あぁ。ただいま」

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