ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

136 / 199
5章25話『宙域基地』

 戦場(バトルフィールド)、宙域基地。

 どのガンダム作品のフィールドでも無く、公式が用意した〈多くの人間の共通認識〉となるフィールドの1つだ。

 巨大な隕石をそのまま基地に改装し、そこを中心として球体状にフィールドが形成されている。中央の巨大隕石の周囲にはデブリが多く位置し、射撃機にとっては射線を遮る障害物にも敵からやり過ごす為の壁にもなりうる。

 

 不幸な事に少年の操作するアイズガンダムは敵機達が出現するゲートの目と鼻の先であり、今ようやく最後の敵機であるガンダムバルバトス・ルプスがソードメイスを携えて合流した。

 正面モニタ右部、オープン回線のコールが鳴り面倒と思いつつも開く。

 

『わざわざ待っててくれたのかい店長代理人君! その様子なら覚悟は出来ているようだね』

『ギャハハハハッッ!!』『気前がいいぜ!!』

 

 配信中ということを忘れているような下卑た笑いが操縦席(コンソール)に響き、声を聞き流しながら少年は別の方向へと意識を割く。

 そのまま進路を割り出し、マップデータの表示されている正面モニタ右上に赤い線の経路が表示された。

 

『さっきの言葉忘れていないよなぁ? ……そっちが負けたら店の完成品を全部貰うって!』

 

 芝居めいた口調は機体の動きでも反映されており、仰々しく両手を広げたガンダム・ロストベースが居もしない大衆へ語り掛けるように訴える動作を取っている。

 両脇で案山子(かかし)と化している2機の間に標準を付けて、──兵装選択。スロット2、GNバスターライフル。

 撃発(トリガ)

 

『この店は高そうな作品ばかりだからなぁ、俺達が貰って世のため人の為に配信────をッッ!!?』

 

 話の最中に撃ち放たれた真紅の光線に男の言葉が中止される。

 そのまま操縦桿を前へと押し倒すとアイズガンダムは彼らに背を向けてそのまま距離を離し始めた。

 

『テメッ……!?』

『待ちやがれっ!』

 

 フィールド距離、限界位置把握。フィールド外周距離、演算完了。

 宙域基地が余り大きなフィールドでなくて助かった。これより大きかったら手間取るところだったと思案する直後、背後からの射撃に正面モニタへ警告メッセージが表示され警告音が木霊する。

 浮遊するデブリを盾にするよう移動して、破壊されたデブリが岩石片となって彼ら自身を襲い、未だオープン回線が切られていないのか間抜けな声が3つ上がった。

 

 ……本来であれば、全性能が上であるリボーンズガンダムが相手にいる時点で勝敗は絶望的だが、これまでの相手方の対応と戦術を鑑みて少年は嘆息する。

 店長が誠心誠意製作したあのガンプラは、あんな戦術のイロハも知らない連中が乗って良い機体ではない。

 そしてそれは他の2機に言える内容だ。宙域基地のフィールド全長からして3機で1機を追うことは得策ではなく、スピードで劣るルプスは逆回りをしてこちらを捉えるように動くのが本来の定石だ。

 そんな戦術も立てず闇雲に突っ込んでくる3人に使われるガンプラが可哀想とさえリュウは思ってしまう。

 

 ……計算は済んだ。

 後は実行するだけ。

 

 操縦桿を右方向へ叩き込み、そのままアイズガンダムが基地へと突入していく。

 その先はゲートだ。

 厳粛と巨大な鈍色の門を背後にアイズガンダムは3機と相対、構えていたバスターライフルを下げるとまたしても下衆めいた笑いが耳へ入る。

 

『やっと観念したか、ウロチョロ動きまわってよぉ……!』

『口ほどにも無いね、もう鬼ごっこは終わりかい?』

『俺に! 俺にやらせろ、さっきのデブリで機体に傷が付いた!』

 

 2機を飛び越して猛追してきたのはガンダムバルバトス・ルプスだ。

 両手に構えたソードメイスを上段に携えて、そのまま全スラスターが噴き荒れる。

 GNシールドとソードメイスが衝突し、間で拡散された粒子がそのまま周辺のデブリの表面を削り取った。

 拮抗する両者の力、少年はGNシールド表面に展開された粒子の壁を斜面上に構成し、流れるままルプスがアイズガンダムの脇へ倒れ込んでくる。

 

「ごめんなさいっ……!」

 

 製作者への謝罪と共に少年はルプスを蹴り飛ばし、スラスターで威力を減衰すら行わない敵機がデブリへ背中から激突する。

 GNシールドから一旦手を離し、ソードメイスをデブリにもたつくルプスへ投げ返すと絶叫が操縦席(コンソール)へと響き渡り、投合されたソードメイスの威力でデブリが木端微塵に粉砕された。

 生半可な重量ではない。一撃で敵を叩き潰すためにパテか重りが課せられているのか、その威力は絶大だ。

 武器を返された敵機はスラスターを数度噴かして体勢を整え、攻防を見ていた2機へと通信を送る。

 

『良い格好だなぁ? おい!』

『ギャハハハハ!!』

『うるっせぇ! ……舐めやがって! お前らも手伝え! アイツ、そこそこやるぜ。変なことされる前に一気に叩くぞ』

 

 その声に少年は口角を吊り上げる。

 ここまで挑発に乗ってくれるとは露とも思わずに、放ったシールドを再び装備をする。

 

『阿頼耶識システム……!』

『トランザムッッ!!』

『RGシステム、完全解放……!!』

 

 眼光から血色の軌跡を残したバルバトス・ルプスが、完成度がプロと同等である真紅に耀くリボーンズガンダムが、間接へ盛り込まれたクリアパーツから粒子が供給され光り輝くガンダム・ロストベースが。

 機体性能(スペック)が2倍以上となり驚異の数値を叩き出す敵機達が等しく少年の搭乗するアイズガンダムへと敵意を向ける。

 

『死に晒しゃぁぁああ────!!』

 

 リボーンズガンダムがバスターライフルを向ける動作を皮切りに両脇の2機も腕部ロケット砲とビームキャノンを構える姿勢を取る。

 この距離ならば最大出力にする必要も無いと思うがと少年に疑問が過るが、当初の予定通り背部バインダー2基をそのまま後方へと向け、発射。

 ビームガンの射撃により閉じられたゲートに風穴が空き、少年はアイズガンダムを隙間へと潜り込ませる。

 

『ま、待ちやがれ!』

 

 噴煙の中やはり突入してきたのはルプスだった。

 他の2機は最大まで蓄えた粒子を1度機体へ循環させなければ動けない。発射すればその分粒子が減るだけであり、そこはリュウも得心のいく判断だ。

 ところで宙域基地内部は非常に入り組んだ構造をしており、通路の1つ1つはMSが横に並んで通れるほど広くはない。

 少年は3機が狭い通路に侵入したことをマップで確認してから天井の隔壁を破壊、入ってきた出口が倒壊して逃げ場が無くなり、何度目か数えるのも億劫な高笑いが響く。

 

『コイツアホか!? 自分で逃げ道を壊しやがったぜ!』

『早く逃げないと追い付いちゃうよ~! ギャハハハハ!!』

『先ほどから逃げてばかりで……!』

 

 まだ気付いていない彼らに背を向けたまま通路の壁を次々と破壊していき、やがて通路は完全な一本道となる。

 彼らからしてみれば意味の無い行為だが、1列に順番で並んでいる事実にようやく1人が声をあげた。

 

『どけよお前! 俺の前に立つんじゃねぇ! 折角のトランザム中なんだから射撃させろ!』

『あぁ!? 無茶言うんじゃねぇよ、この通路の狭さで出来る訳ねぇだろ!』

 

『まさか、アイツの狙いは……!?』

 

「────やっと気付いたか間抜け共。お前らなんかに使われるガンプラがよっぽど哀れだぜ」

 

 リーダー格の男の声と共に次々と敵機達の輝きが通常の色へと戻っていく。

 ガンプラバトルにおいて特殊システムには時間制限が設けられており、それはガンプラの出来に関わらない絶対の規律《ルール》だ。

 

『阿頼耶識が……!?』『トランザムが!』『RGシステムが……!』

 

 予想に違わない声と共に、少年の方は予想通りの地点へと到達する。

 目の前に見える隔壁、それをバスターライフルで破壊すると再び暗然の世界が飛び込んでリュウを迎えた。すぐさまバスターライフルを構え直し、狙いは通路奥。リュウ達が侵入した正反対のゲートの箇所。

 そこへ目掛けてバインダーを変形させて、フレキシブルに動くそれは瞬く間にアタックモードへと姿を変える。

 兵装選択。スロット変更。アルヴァアロンキャノン。

 通常のアルヴァアロンキャノンではなく、GNバスターライフルを加えたリュウ独自のアルヴァアロンキャノン。銃身の先端とバインダーの先に黄金色の球体が形成され、禍々しい深紫の稲妻が迸り、標準が合わせられる。

 

「アルヴァアロン……」

 

 中々出てこない敵機達は待ち伏せを警戒しているのか、姿の見えない彼らを計算に入れて、おおよその位置へ向けて撃発(トリガ)を叩き込んだ。

 

「────キャノン!」

 

 ごう、と放たれた黄金色と紅の入り混じる奔流は宙域基地へ突き刺さり、そのまま施設内部を爆散させる。そうして内部のエネルギーが通路という通路へ巡って、敵機の潜伏する通路後方から爆炎が襲った。

 放り出されてくる敵機達は、ファイターの腕の問題と特殊システム終了直後という事もあって姿勢維持もままならない。

 操縦桿を前のめりの体勢で押し倒し全速力で追跡し、タイミングを見計らった少年はそのまま武装を選択して起動した。

 

「GN……、フェザーッッ!!」

 

 吹き荒れる暴風のようアイズガンダムが装備する2基のバインダーから紅い粒子が放出され、それは物理的な力場として周辺のデブリを押し退かす。

 巨大な粒子の波は3機を捕らえて後方へと押し出し、フィールドエリアの外枠、つまり見えない壁へ彼らを押し付けた。

 

『あのガキ……! 最初っからこれが狙いで……!』

 

 聞こえたリーダー格の男による悪態に少年は操縦桿を握る力を止めない。

 GNフェザーはアイズガンダムが搭載する武装の中で最も粒子の消費が激しく、連続稼動時間は数十秒にも満たない。だからこそこうして敵機を押し込もうと全開にして展開しているが、敵機のうちの1機、ガンダム・ロストベースは粒子の力場の中にいながら足首に搭載されたビームキャノンの標準をアイズガンダムへ合わせようとしている。

 強いガンプラだ。特殊システムからの回復が未だ為されていない状態でここまで動けるのは一重に製作者の力量だろう。

 

「だから……! だからよ……! お前らのそのガンプラ…………」

 

 計算の上ならこの段階で勝負は付いた筈だった。

 それでも抵抗を行う彼の──シュウト・マサキのガンプラと2機のガンプラに尊敬と畏怖の念を感じられずにはいられない。

 そのままリュウは息を大きく吸い込んで、これを勝負の決め手として──叫んだ! 

 

「さっさと持ち主に返しやがれッッ!! ────トランザムッッ!!」

 

 GN粒子最大解放。

 臨界を告げる橙色の粒子が機体各部から勢い良く漏れ出し、明星と目映く真紅のそれがフィールドで一際強く輝いた。

 安全装置の外されたアイズガンダム背部の太陽炉は焼き切れる寸前で、がたつく操縦桿を精一杯の力を込めて押し留める。

 

『ぐっ……! この……! このぉ……! このガキゃああぁぁああッッ!!』

 

「ッッ!!?」

 

 ロストベースの機体が明滅し、そのまま埒外な力を以てして強引に標準をアイズガンダムへと合わせる。

 銃口が、閃いた。

 同時に輝きを失ったロストベースはGNフェザーによってエリア外へと押し出され、

 

「アイズ、ガンダム……?」

 

 損傷箇所、腹部。機体状況──中破。

 バウトシステムでも電脳世界(アウター)のガンプラバトルでも無く、実際のガンプラ同士のバトルでこの損傷状況は()()()()()()()が多い。

 冷や汗が伝い、正面モニタを瞠目のまま見詰める中。

 やや遅れて表示された戦闘終了を告げる文字に、ガンプラバトルの環境音より増したギャラリーの声がリュウの思考を塗り潰した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。