ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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5章26話『自分を重ねて』

「約束通りお前らが持っていたガンプラ渡して貰おうか、正当な手段で手に入れたモンじゃねぇだろそれ」

 

 3vs1のガンプラバトルはリュウの勝利で終わり店内の喧騒は最高潮と化している。完全なアウェーとなった連中は渋々手にしていたガンプラを筐体の上へ差し出すと、撮影を回していたカメラの電源を突然落とした。

 

「あれ、配信中じゃないのか? そんな雑に終わらせて良いのかよ」

 

「……配信中ってのは嘘だ。こんなもん、勢いに任せて相手を丸め込む為の道具だよ」

 

 すっかり意気消沈して肩を小さくする3人は、今のバトルが信じられないとでも言うような顔付きで呆然と粒子の消えた筐体を見詰めていた。

 

「……ぇ……だな」

 

「あ?」

 

「強いんだなオメェ……。3人で掛かれば一瞬で勝てると思い込んでたぜ」

 

「あんな戦法は、普通は通用しない。……俺は相手の弱味を突くような、余り誉められない戦術を取ったんだ」

 

 耳にピアスを連ねた男──ガンダムバルバトス・ルプスを駆っていた背丈の大きな男の声は小さく、色黒の金髪という外見も相俟って酷く弱っているように見えた。

 ……リュウの取ったあの戦法はそもそも相手が格下で無ければ通用しない、言わば初心者狩りにも近い内容だ。男達の印象や機体の挙動等で戦力を分析して、少年にとって有利な盤面を整えただけの詰め将棋のような物。

 

「こう言うのもアレだけど、ちゃんと返してくれる事に驚いた。……なんでこんな真似してきたんだよ」

 

 そう言うと男達は視線をギャラリーへ一瞥(いちべつ)し、それで少年は悟った。

 人目の憚る話なら、それは仕方が無い。

 

「ほら、バトルは終わったんだからどけどけ。今日は俺が店長代理だぞ」

 

 押し退けられるギャラリーは横暴な行為に笑顔で応えて、彼らの顔を良く見れば顔馴染みの古参の客達だった。

 背中を叩かれ激励を送られるリュウは苦笑しながらも男達を店の奥へと案内をする。

 

※※※※※※※

 

 中山模型店の事務所は狭い。

 そもそも数人で切り盛りをしている個人経営店であり、この空間は先代から続く店長の生活スペースのような場所だ、本来こんな大所帯になることはまず有り得ない。

 リュウにナナ、店長にカンナにシュウト。そしてチンピラの男3人。

 一応チンピラ達が逃げられないように彼らが壁を背にする配置に立たせて、それをぐるりと半円で囲む形だ。

 

「まず、言うことあんだろ」

 

「「「すみませんでした」」」

 

 頭を下げてリボーンズガンダムとガンダム・ロストベースが各々持ち主へと渡される。

 僅かに困惑気味な店長とシュウトがそれを受け取って、1人余ったバルバトス・ルプスを手に持った男がバツの悪そうに視線を逸らした。

 

「アンタのそのルプスも他の人から奪ったものじゃないでしょうね」

 

「ちっちげぇよ! これは本当に俺が買った物なんだよ!」

 

「証拠は? 証拠出しなさいよっ! ちょ~っと殊勝な行動しただけで許されるなんて思ったら大間違いよ!」

 

「だからちげぇって!」

 

 背丈が2倍以上離れている筋骨隆々な男に真っ向からカンナがメンチを切る。昔から恐喝やカツアゲ紛いの被害にあっている子達を見ていた影響か、こういう手合いへ敏感になるのも仕方無い。

 言い合う2人の間に腕を挟んでリーダー格の男。カジュアルスーツに黒髪眼鏡の……言葉を選ばないのならインテリヤクザ風な男がカンナへ視線を送る。

 

「彼が言っている事は本当です。……少しだけで良いのでこちらの事情を話させて頂けないでしょうか?」

 

 カンナが口内で文句を呟くも後ろへ下がり、異論が無いことを男は見渡して把握して、その皮肉めいた印象のまま続ける。

 

「笑われることを承知で言いますが、楽をして強い力が欲しかったのです。我々はガンプラバトルを遅く始めた同期でして、……このナリと態度です。バトルを教えてくれる人が居ませんでした」

 

「それで、君達は強いガンプラを買って弱さの埋め合わせをしたわけかい?」

 

「初めはそうでした。……しかし所詮は素人同然の人間が使う機体、直ぐに強さの天井が見えて我々は半ば自暴自棄になっていたんです。だから、自分達より弱い人間を狙って少しでも優越感に浸っていたんです」

 

「クズじゃない」

「クズだな」

「……クズです」

「クズだねぇ」

「クズだ」

 

「ぐっ…………!!」

 

 胸を押さえるインテリヤクザがよろめいて後ずさる。

 皆がこの連中をどうしたものかと決めかねている中、シュウトが男へと歩み寄った。奪われたガンダム・ロストベースを胸に抱えて、睨み付けるような眼光で見上げる。

 

「どうだった」

 

「……え?」

 

「ど、どうだった? ボクのロストベース……。ボクが作ったガンプラの中でも最高傑作なんだ。間接もフルスクラッチして……足首のビームキャノンも、相手の意表を付けるように頑張って考えたんだ!」

 

 熱に急かされるまま少年は捲し立てる。そんな思いもよらない言葉に男は目を丸くして、しばらく俯いた後に皺の取れた顔でシュウトを見る。

 ぼんやりと、懐かしいものを見るような。

 微笑みさえ浮かべながら。

 

「うん。強かったですよ君のガンプラ。俺が使うのなんて勿体無いって、今ならそう思えます」

 

「────!! でしょっ! でしょでしょ! えへへ……」

 

 ロストベースを愛しむように撫でながら少年は元の位置へと戻る。

 脱力しきった男達の顔を横目に、リュウがシュウトと同じ目線になるようしゃがみこんだ。

 

「良いのか? コイツらはシュウトのガンプラを奪ったんだぞ? もしかしたら一生返して貰えなかったんだぞ」

 

 冷徹な事実を突き付ける。

 今回ガンプラを返して貰ったのは偶然の要因が非常に大きい。そもそもリュウの記憶が戻らなければならなかった点や、シュウトの居場所をたまたまカンナ達が割り出せた点など不安定な要素が多かった。

 一生返って来なかったかも知れないのに、奪った相手に対してそんな笑顔を浮かべて良いのかと、リュウは言外に含めてシュウトの目を見る。

 

「許してないよ、ボクは」

 

 言い放った言葉に、男が眼鏡の位置を直す気配を横に感じた。

 

「でもね。ボク、自分のガンプラ誉められたこと、今まで無かったんだ!」

 

「……今まで無かった? そんな凄い技術持ってるのにか? フルスクラッチはとんでもない技法だろ」

 

「らしいよね。でも、その分フルスクラッチって時間が掛かるんだよ。ボク転校してきたからロストベースが完成するまで戦えるガンプラが無かったんだ。……それで完成したその日に、有名な模型店の子供達に見したいなって思ったら、取られちゃったんだ」

 

 リュウが学園都市へ向かう日の朝の出来事だ。

 あの時の少年がそんな事情だったとはと、今さら後悔の念が胸に疼いて顔をしかめる。

 

「凄い悲しかったけど……、うん!」

 

 リュウとは正反対の満面の笑みで、シュウトはロストベースを胸へ押し当てた。

 

「────初めてのフルスクラッチの機体を、使った人から誉めて貰ったから、それでいいや!」

 

 屈託の無い笑顔でこんな事を言われたのならこれ以上言うことは無い。

 子供特有の、至極簡単な論理にリュウは後ろ頭を掻いて立ち上がる。

 この手の問題は当事者が処遇を決めれば良い、後は店長の判断に任せる事が妥当だろう。

 

「君達は、これからどうするんだい。まさかまた他の人からガンプラを奪おうなんて考えて無いだろうね?」

 

「しねぇよ! しねぇけど……」

 

「何をしようかも、考えが浮かばないですね」

 

「だったら、そうだねぇ……」

 

 店長はふくよかなお腹を撫で回しながら思案気に天井を見て、やがて手に持っていたリボーンズガンダムを差し出した。

 その行為に事務所の全員の視線が集中する。

 

「ちょっ、ちょっと、何してんの店長!? 髪の毛と一緒に考える力も抜け落ちたの!?」

 

「カンナちゃんそれは心に来るから止めようね、僕の頭髪は頑張ってるよ。1年戦争末期、前線を苦渋の思いで後退させるジオン兵のようにね」

 

 その話だと最終的に一年戦争(あたま)終結(ハゲ)するが、ここは黙っておこう。

 

「……何、簡単な話だよ。バトルを教えられなかったからヤケになってこんな真似したんだよね? 君たち」

 

 店長の言葉に男達の視線が床へと向く。

 

「だったら、うちで勉強すれば良いさ。ガンプラを作る道具も全部ここでは貸し出せるし、教えてくれる人間も元気でやんちゃなのが大勢居るよ」

 

「なッッ!!? い、良いんですか!?」

 

「良いとも良いとも。君たちが自分のガンプラが完成するまではうちの完成品使って良いから、そうしないかい?」

 

 店長の意見にリュウも内心同意を示す。

 彼らが本当の外道だったのなら、まずガンプラを奪った時点で金に変えるだろうし、彼らはガンプラをちゃんと()()()()()()へと入れていた。

 だからこそ返却が成された際の状態はほぼ完成直後のままであり、その上リュウには彼らに対して他人事のように思えなかった。

 

 Linkという力に溺れて、多くの人を巻き込んだ過去。

 自分が本来持つ弱さを隠して少女を酷使した経験を持つリュウにとって、彼らの心境は量れるところがあった。

 

「それにだ。ここで彼らを出禁にするより、客にしてお金を落として貰った方がお店的にも助かるんだよねぇ」

 

 眼光が怪しく光り男達を見渡す。

 つまり『サポートしてやるから店の物を買え』という無言の圧力に、さしも外見がチンピラな男達も引きつった笑顔で何度も頷いた。

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