ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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1章13話『伸ばされた手』

 上はどこなのか、下はどちらなのか、ここはどこなのか。

 そもそも自分は誰なのか。

 

 ───時間さえ不確かな黒い空間にリュウは存在していた。

 

 辺りを見渡しても黒しか無い、自分が目を閉じているのか疑うほどだ。

 目、そういえばと自分の身体を確認しようと胸に手を当てる。そこに胸はなく体も無かった。

 

 ───自分は意思として空間を漂っている。

 

 不思議と恐怖は無かった。底知れぬ闇も、果てが見えぬ黒もどこか心地よく感じる感覚は生まれる前に誰しも覚えた温もりにさえ思えた。母親の子宮の中で胎児が抱く安らぎのようにこのまま無限にたゆたい目を瞑っていたい。

 

 ───何かを言われた気がする。

 

 大事な何か。思考に靄がかかったように答えは霞み断片しか思い出せない。

 黒い空間に記憶が浮かび上がる。あれは幼い頃の自分か。

 声は聞こえないが何かを買って喜んでいるように見える。同じような絵柄の箱を両手いっぱいに抱えて、リュウ・タチバナは笑っていた。

 

 絵柄に描かれている物ははっきりとは伺えない、だけど知っていた、思い出した。

 自分が抱えた物が何なのか、何のガンプラか。

 

 ───アイズガンダムを想った瞬間、目の前の黒が裂け、より黒い世界が俺の黒を塗り潰した。

 

 そこは感覚として冷たい世界だった。手があり足がある、さっきは触れられなかった胸がある。再び辺りを確認すると先程とは違う様子に気付く。

 あの少女がこちらを見ていた、丁度手を伸ばせば届く近さだ。

 

 薄蒼色の瞳は澄みこちらをただ見る様子はまるで赤ん坊だ。感情を知らない瞳は俺が何者なのか、少女の世界に入ってきた初めて見るこの異物は何なのか、そんなことを思っているに違い無い瞳に感情の色は見えない。

 

 途端に空が裂け、地面が割れ、世界に亀裂が入る。

 バランスを取ろうにも地面が無いのでは何も出来ない。足掻く俺を少女は何一つ変わらない様子で視ていた。先に少女の足場が崩れ、体勢が傾く、このままでは少女が落ちてしまう。

 

「────ッッ!!」

 

 叫んだ。何て叫んだか自分でも分からない。

 叫んで手を伸ばした。少女の視線は俺から初めて伸ばした手へと移った。

 崩れていく足場は底見えぬ空間へ飲まれていき、もはや猶予はない。世界は崩壊し次は虚無がこの世界を飲み込んでしまうだろう。

 

 少女の右手が僅かに動く。

 

 俺が伸ばした手の意味を分からないまま、見よう見まねで手を動かしたのか、そのまま少女は手を俺の方にゆっくりと伸ばし───2人の足場は完全に崩れた。

 


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