日本国内どころか世界中で見て最も設備と環境の整ったガンプラ教育機関──萌煌学園。
初等部から高等部に分類され、その上には研究生と呼ばれる生徒が存在するこの学園は従来の私立学校で見受けられるエスカレーター式の他に、中等部高等部へと上がる際に外部の普通校からの進学も可能な形式となっている。
学科の数と種類は多岐に渡り、その中でも一線を画す
特進学科の内容はプロの活動と同じと言っても差し支えなく、プロとのワンツーマンで生活を行うインターンシップや学園名義で世界中好きな場所へ飛んで好きな大会に参加することが出来、その華やかな内容の反面編入試験の過酷さは他の学科の比ではない。
萌煌学園が
「そんな学科に、俺達を誘うって事ですか……?」
「あら、私はコトハさんとエイジさんが居ればそれで良いのだけれど……」
「それはダメですっ!」「約束が違います!」
「ほらね? 愛する生徒達にこんな事言われちゃ無下に出来ないのよね」
生徒の剣幕にトウドウは肩を落とす。
その後ろに控える2人は無言の圧力で少年を見詰め、リュウは重い口をやがて開いた。
「……俺は、学園の傘をアテにせず、プロへの承認試験を受けようと考えていました」
「リュウ君……」
「でも、それは辞めました。理由は言えませんが、俺はプロへの試験を……、今年は捨てます」
理由は、言うまでもなくLinkによって不当に得た偽りの勝率が起因していた。
本来ならば手の届くことは無かった勝率に加えて、自らの実力が低い以上プロになって苦しむのは他ならぬ自分だ。それならガンプラを作って戦うという原点に戻って、もう一度自己のガンプラスタイルを時間を掛けて見直そうというのがリュウの考えだった。
以前までのリュウなら、まずはプロになる事を盲目的に目指していたが今は違う。
リュウはガンプラが好きだ。作るのも戦うのも、戦って勝って、それを喜んでくれる人の笑顔が大切だと気付いた。
「特進学科への試験て、どれくらい厳しいんですか」
「コトハさんが受験して2回に1回は落ちるわね。今の貴方じゃ到底無理よ」
真顔で言い退けるトウドウの顔に嘘は見えない。
「……けど私が鍛えれば0%を2%くらいに引き上げる事が出来るわ。正直言って特進学科の内容はプロそのもの。もし編入出来たとしてもタチバナさん含めた3人全員に地獄を見て貰うことになる」
「俺、受けます」
即答に、蛇の瞳が好奇の色を帯びて見開かれる。
脅しでもなく、トウドウが話した内容は事実なのだろう。
今まで過ごしてきた苦難が鼻で笑えるような生活が待っているかもしれないが、それでも。
「
少年の言葉にトウドウは立ったまま口角を僅かに吊り上げた。
思い出したのは母の身の上話だ。養成所で苦労しているようでは到底プロの場で活躍する事は出来ない。多くの人間が挫折を味わう場で
……そこで駄目なら俺はプロになんてなれない。編入試験で落ちたなら、プロになるのは夢のまた夢だ。それこそ早い段階で見切りを付けて、身の丈にあった幸せを探した方が有意義だろう。
「話は決まったようね。あ、そうそう言い忘れていたわ。特進学科にはね、在籍するための条件があるのよ」
どうでも良い事を思い出した風にトウドウが天井を見る。
「特進学科では2つ以上のレギュレーションのガンプラが扱える事が条件だから、頑張って作ってね。──アイズガンダム使いのタチバナさん?」
「ふ、ふたつ!?」
運命的な条件だった。
現在バトルに出せるガンプラはアイズガンダムのみ。HiーガンダムはナナのLink中の戦闘能力を測るための機体であったため使いこなせるとは言いがたい。
となれば作るべきガンプラは1つ。自室で制作中の、リュウが作ったオリジナルガンプラ唯一の
「それと」
物理的に張り詰めた胸のスーツ内側からトウドウは1枚の書類を取り出す。
全く見に覚えの無い紙にその場の全員が視線を集中させ、微笑を形取った顔がナナへと向けられた。
「ナナちゃんよね?」
「……………………はいっ」
すっかりトウドウを警戒した白銀の髪の少女は、リュウの座るソファの後ろから半身だけ姿を晒して相対する。
書類を促され恐る恐る手に取ったナナは書面を確認して息を飲んだ。
「こ、これは……!」
────萌煌ガンプラ学園学園長印。下記の者を我が校へ編入させることを許可する。
ナナ・タチバナ。
身元保証人、リュウ・タチバナ。────
端的にそれだけ記載された書類の最後には仰々しいドでかい学園の判子が押され、その隅に同じく印が付けてある名前にリュウは納得をしてしまった。
──リホ・サツキ──
「と、いうわけで宜しくねナナさん。これから長い学園生活、一緒に頑張っていきましょう?」
「何を考えとるんじゃあの人はああぁぁぁああああああ!!?」