衝撃の言葉を言うだけ言ったトウドウはその後すぐに学園へと戻った。彼女はアレで学年主任という立場であり、こなさなければならない職務が山程存在する。
帰宅する際、意味深に微笑み掛けられた意図にリュウは空恐ろしさを感じずにはいられなかった。
『稽古、楽しみにしてるわ、タチバナさん』
擬音が付いていたのなら『ニヤァ』どころじゃ済まない凄絶な笑み。明らかに『楽しみにしてるわ』という言葉の前へ物騒な言葉が含まれていたが想像するのは精神衛生上よろしくなさそうなのでそれはやめた。
そうして残ったコトハとエイジとナナ。4人がリビングに微妙な雰囲気を以て座り、それぞれ距離が離れている事が拍車をかける。
「リュウ君。ここに来る途中カンナちゃんから色々聞いたよ。……模型店の子を助けてくれたんだよね」
「助けたなんて事はしてない。……1度見捨てたんだよ俺はシュウトを。自分を優先して」
「それでも助けたっ。やっぱヒーローだよリュウ君は」
「……そんなこと」
儚げに笑うコトハは指を交差させて弄ぶ。
思えばヒーローという単語が心の隅に置かれた要因は、学園都市のレストランでコトハが発したことが発端だ。彼女は──、否、あの夜殴りあったエイジもまた幼少の記憶を覚えていたのだろう。だからこそ少年の行動に不甲斐なさを感じてあんな行動に出たのだ。思い出すと殴られた左右の頬が痛み、無意識に頬を押さえる。それは対面のエイジも同じだった。
「もう俺は逃げない。シュウトの時みたいな後悔はぜってぇしねぇ。だから、過去にやっちまった事をこれから時間掛けて謝ろうと思う」
それはナナの事でもあり、また昇級試験でリュウが行った行為──カナタにも関係している内容だった。
掌に視線を落として、力強く握る。
それを見てエイジの視線がリュウから白銀の少女へと映った。
「ナナちゃん。────
「──っ。はい。責任を持って」
「待てエイジ。なんで、ナナなんだ? ……お前、どこまで知ってる…………?」
「何も知らない。だけどな、リュウがおかしくなったことにこの子が関係してるのは誰が見ても明らかだろ。……だけどオレは詮索しない。ナナちゃんもリュウも、それは望んじゃいないだろ」
だけどな、と。そう付け加えたエイジは眼鏡の奥の眼光を強めて少女を睨む。
予想を裏切る返答をしたら斬り伏せるような鋭さを覗かせて。
その瞳はコトハも同じで、2人の視線がナナへと集中する。
「次にリュウへ何かしたら、……その時は承知しない。俺達はナナちゃんを絶対に許さない」
「……
視線をまた強い視線で返す。
意思の宿った空の瞳。両手を胸へと当てた少女の宣誓。
静寂が下りる。
目線を通して交わされた意識に、やがてエイジは苦笑して逸らした。
「リュウは特級の馬鹿だから頼んだ。……コトハ、お前もこれでいいな?」
「うん。これ以上私も言うこと無いかな」
桃色の髪を揺らして幼馴染みは腕を組む。
それから少女は微笑んでリュウを見て、同じように少年も微笑みで返した。
「…………うん? うんうんうんうん?」
「な、なんだよコトハ……」
「いやぁ~。2人、なんか雰囲気変わった? 何か親密になったような……」
心臓が飛び出るかと思った。
そんな錯覚のまま体温が上がるのを実感し、先行した思考が言葉の解釈を改める。
少女とはお互いにパートナーとして、そして少年の監視者として道を踏み外さない為に見届けるだけだ。コトハの言った通りそれは勿論親密にも見えるだろう。互いに苦労を乗り越えた仲なのだ。
「はわはわはわはわ………………!」
面白い声が聞こえ隣に視線を送ると、アホ毛をピンと天井へと伸ばした少女が見たこと無いくらい顔を赤くして開いた口を震わせていた。
茹でタコみたいな顔色のまま口の形が『い』を発する形へと変わっていく。
「きっ、き……きき、……す…………!!」
「き────────……ょぉぉおおおおーめんしあげだよな!!? 鏡面仕上げ!! 丸みの多いジオン系MSに映えるんだ!! 2人でその練習をしたんだよな!!?」
「むぅ~………………………………!! あ~や~し~い~!! ぜ~ったい何かあった!! 言え!! 白状しろ!!」
「何もねぇって!! ……え、エイジ! お前からも勘違いだって言ってくれよ!」
「コトハも家に泊めたら解決じゃないか」
「あテメェこの野郎逃げたな!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ面々は全員笑って。
口々に言い合いながらもこんな日々を再び送れたことに、嬉しさが込み上げるまま馬鹿騒ぎは続いた。