剣撃が
『弱い』
閃光が駆け抜ける。
『弱い』
手刀が薙がれ景色が寸断される。
『……弱いッッ!!』
空から見下す紫の太陽は白と金の装甲を
────慢心していた。
必死に考えた素体の粒子循環速度。脚部をシナンジュ・スタインに変更したことで実現出来た地上戦と空中戦の安定した両立。
そして重量軽減作用と慣性作用の機能をカットして、リボーンズガンダム系統に備わる両肘からの過剰エネルギーを合わせた武装の数々は間違いなく制御が出来ていた。
これまで培ってきたガンプラバトルの知識を総動員すれば或いはトウドウ・サキにだって食らい付けるのかもしれないと希望を抱いていた。
────10戦10敗。
それがHisーガンダムの初戦闘を含めた戦績だった。
「くそっ! もう1回!」
『さっさと再出撃ッッ!! 相手の戦力と手段を知らずに突っ込むだけじゃ同じ目を見るだけよッッ!!』
魔物の大爪に似た大型ファングが閃いて、地上を横に払う。
機体表面に張られたGN粒子をものともせずにHis-ガンダムは両断され、
「う、おおおぉぉぉおおおおッッ!!」
出撃する空。
戦場は
モノクロの世界へ11度目の飛翔を果たしたガンプラは出撃ゲートから飛び出した瞬間に頭部を捕まれ、そのまま地上へと投げられる。
直後、
『画面を見て判断するなッッ!!』
「ッッ!!?」
前方向から突っ込んできたゾンネゲルデを警戒し身構えると、直上から光線が放たれて機体が串刺しに焼かれる。
言われたトウドウの声に冷や水を顔に掛けられた気分になって、発射シーケンスとなった画面でゆっくりと言葉を思い返した。
……ガンプラバトルにおける警告音。
前後左右を示したマーカーが敵機の攻撃を予測し点滅と同時に短い警告音が入る、機体関係無しにガンプラバトルというシステムへ初めから搭載されている攻撃予測情報だ。
四方から攻撃をされても、サブカメラへ切り替える前に攻撃位置とタイミングを教えてくれる親切なシステムだがそこには当然抜け道も存在する。
まず、システムが感知出来ない速度の攻撃に対してはそもそも
そしてもう1つが上下軸にシステムが弱い点だ。
先程受けたような直上からの攻撃と直下の攻撃は
瞑目し、それを再確認。
相手はトウドウ・サキ。世界最大のガンプラバトル教育機関である萌煌学園における、最優の教員……!
持てる全てを使ったとしても届かない頂に、少年は手を伸ばすように操縦桿を前へ突き出した。
変わらぬ白黒の空。
同時に、前後左右全てから
「る、ぉぉおおおオッッ!!」
ファンネルの類いを回避する方法は学園の座学で教わった。
それは動き続ける事。ただ動くだけではなく、射線から軸をずらして大きく動くこと!
左腕GNシールド──リボーンズガンダムと同型──を前面に展開して包囲を突き破る。
次の瞬間後方から突き上げるように風切り音が響き、背部サブカメラを展開すると
意識が上へと向く中、回避したファングがそれぞれ軌道を描いてあらゆる角度からHisーガンダムへ標準を合わせる。
少年はそのまま機体を加速させた。
追い付いてくるファングにはHisーガンダムが搭載している
その挙動に、少年はざっと顔を青冷めさせた。
ファンネル系統の挙動は1度発射するとファイター側が予め設定した陣形を取って射撃をするのが一般的だ。ガンプラバトルにおいてファンネル系統の無線誘導兵装端末に該当する全ては複雑な陣形を取れば取るほど消費粒子が多くなり、世間一般ではファンネル系統の武装は余り流行っておらず、それもプロなら傾向が顕著だった。一撃の威力が低いファンネルにそこまで粒子を割くのなら、他の武装へ回した方が結果的に消費する粒子の量は少ないのだ。
今トウドウが見せたファングの
「なッッ!!?」
『あら、鬼ごっこの稽古かし────らッッ!!』
ザンッッ!!
Hisーガンダムの両腕が斬り飛ばされ、振り上げた
『タチバナさん。ガンプラファイターにおいて一番大事な物ってなんだと思うかしら?』
「……っ、それは」
咄嗟に思い浮かんだのは力だった。
力とは源が存在し、源とはガンプラバトルを始めた切っ掛け。
リュウの場合はアイズガンダムへの愛情と、強くなった自分を見て喜んでくれる周囲の人々だ。
「
ほんの前なら思い付かないような言葉だった。
憂い無く言い放った言葉にトウドウは無言を徹して────やがて。
『
そう短く告げる。
『タチバナさんの言うそれは原動力。確かに大事な物だけど本当に大事な要因が欠けている。これが無ければガンプラファイターでプロなんて不可能よ。2分あげるわ。それで間違っていたら今日の稽古は────
「────心の強さ」
『────────』
「原動力を……。誓った言葉や情熱を色褪せずに留めておく為の、心自体の強さ。……違いますか」
想いとは、初めは尊く輝いて存在を主張するが。
それはあらゆる要因で輝きを失っていく。
時間。人間関係。新たな趣味。挫折。多くの事象に
少年がそうだった。
覚えていた筈の約束を忘れ、責任を他者に押し付けて。その結果自分の実力に目を背けたまま、プロを目指すという免罪符で周囲から目を瞑って貰う、どうしようもない人間へと成り果てた。
それは全て、心が弱かったから。
────覚悟が、足りなかったから。
正面モニタ奥。天上に佇むゾンネゲルデ。
かの機体を操るトウドウの顔が、笑ったような気がした。
『あら。タチバナさん貴方……………………。
「……っ??」
何を言っているのか分からず疑問に顔をしかめるだけの少年の前方。
空から見下ろすゾンネゲルデとそれを見上げるHisーガンダムを隔てる形で深紫の熱線が地面へ向かい突風のよう薙がれた。
高圧水流によるカッターを彷彿とさせた妖光は、亀裂の1つもなく地表を断ち切り、困惑する少年に尚もトウドウは言葉を続ける。
「正解よタチバナさん。ガンプラファイターにとって最も大事な物は心の強さ。どんなに才能ある人間でもどんなに操作が卓越した人間でも、心が強くなければガンプラファイターを続けることなんて出来やしない。貴方が多く知る名のあるガンプラファイターの全員が
普段、並々ならぬプレッシャーと敵意を撒き散らす女性は。
常日頃少年を疎ましく思っていたであろう敵だった女性は。
教鞭を振るう教師として少年へと語りかけていた。
「その線を越えるのなら、貴方に私は持ちうる全ての技術を叩き込む。越えないのであれば今のような
少年は悪童染みた顔でその言葉を鼻で笑う。
そんなこと、言わずもがな、だ。
両腕両脚が無い機体を
操縦桿を握る手は震え、リュウは1度瞑目し謝罪する。
……ごめんな、Hisーガンダム。
…………初めてのお披露目だったけど。
………………俺のために、お前のために、負け続ける事になる……!
……………………これを乗り越えないと、俺はいつまでも弱いままなんだッッ!!
「俺と一緒に、付いてきてくれ……!!」
決意に目を見開いて操縦桿を操作。
────EXスロット。トランザム。
ぼう、と。淡く燐光する粒子は色を
皆と一緒に製作した、彼等の想いが詰まった新作のガンプラのツインアイは。
いつも傍らに寄り添う少女の瞳の色彩を帯びて、応えた。
「トウドウ…………────────サキイイィィィィィィイイイッッ!!」
噴出するGN粒子を推進力代わりにして、少年の翼は大地の亀裂を軽々と飛び越える。
空色の尾はそのまま飛翔して、天上の太陽へと挑むようどこまでも羽を伸ばしていった。