「うわあああああああぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
廊下を走る抜ける少年を稀にすれ違う生徒達が振り返って道を開ける。
〈校内は駆け足厳禁! 〉というポスターが曲がった角に貼られてった気がしたがそんなものは今は関係が無かった。
日がすっかり落ちた校舎の中には殆ど生徒がおらず、昼間までの喧騒が嘘のように静かであり、だからこそ少年の叫び声が際立って校舎に響く。
「「うわあああああああぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
涙を洪水のように流しながら、マラソンランナーが1位を取った際になびくテープのよう鼻水を垂らしながら。
リュウ・タチバナは人目を気にせず、気にする余裕も無く胸に爆発する感情のままに叫んでいた。
生まれて初めての経験であり、「何とかなるだろう!!」と内心思っていたりもした心は完膚なきまでに破壊され、一刻も早く身が張り裂けるような鬱憤を放出しなければ気が狂いそうだった。
叫びながら“アリアドネ”と呼ばれる学園と寮を繋ぐ森林地帯の獣道を一心不乱に駆け抜けると、珍獣でも来たのかと木に止まって睡眠を摂っていた鳥達がバサバサと音を上げて飛んでいった。
そんな声をあげながら寮の階段を駆け上がる。
ダンダンダンダンダン!! ガチャガチャ!! ガチャン!!
「あっ。リュウさんおかえりなさい。夕飯の支度も出来ていますが、先にお風呂にしますか?」
「うわあああああああああぁぁぁぁあああああああんっっ!! ナナァ聞いてくれよ!! あの人本当に容赦無いんだよおおおぉぉぉぉぉおおおおお!! 俺が作った新しいガンプラをハエでも払うかみたいに墜としてくるし初期位置狩りも平気でしてくるし『あら、ここの塗装面厚いじゃない。皆の英雄さん(笑)』とか嫌味言ってくるし機体の両腕両足顔面潰したうえで煽りも言ってくるんだよぉぉおぉぉぉおおおおおおおお!! しかも戦ってる最中初めに俺を倒した戦術でもう一度倒すと無言でプレッシャー掛けてきて殺しにくるんだよおおおおおぉぉぉおおおおお!! 対処法をその場ですぐに出せたら苦労しねぇよッッ!! 悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしいぃぃぃいいい──────っっ!! 傷の1つも与えられない自分が悔しいいいぃぃぃいいいいいいい!! 俺の腕はダメなんだ!! こんな弱い
「はいっ。今日も厳しい稽古お疲れさまでした。今日の夕御飯はリュウさんの好きなエビチリですよ」
「……ぅうっ…………ぐすっ。えっ、────エビチリ………………ッッ!!? いやったぁー!! 明日も頑張れるぜ!!」
最近、ずっとこんな生活を続けている。
トウドウとの稽古が始まりはや数週間。リュウとナナは別々にガンプラバトルの稽古をして、朝と夜は同じ寮で過ごしている。
本来であればパートナーである2人は共にガンプラの修行を行った方が互いの意見や主張を感じることが出来るのだが、ガンプラというものと本格的に触れ始めたナナと10年ガンプラを弄っていたリュウとでは知識に開きがありすぎた。
故に昼間は別々で腕を磨いて、夜に両者が過ごした1日の成果を披露するという毎日を送っている。
エプロン姿のナナは、リュウの実家から持ってきた子供用の台の上に立って料理を盛り付けて、皿を両手に持ちながらトテトテといつものテーブルに並べる。甲斐甲斐しく動き回るナナと一緒に少年も料理を運び、そのまま2人は向かい合う形で座布団へと腰を下ろした。
「「いただきます!」」
気がついたら夕飯が目の前から消えていた。
「「ごちそうさま!」」
そして気が付いたら食器洗浄機が回っており、2人は今日の成果──もとい反省会を始めた。
因みにエビチリは頬っぺたが落ちるほど美味しかった。
「リュウさん。実は今日、使用するガンプラを選ぶ日だったのですが、ナノラミネートアーマー搭載機とフェイズシフト装甲採用機を選んだ途端コトハさんが使用を禁止してきたのですが……何故だか分かりますか?」
「そりゃアレだな。初心者のうちに変な癖付けたくなかったんだろ。ナノラミネートアーマーとかフェイズシフトってのは特定の攻撃に対して一定の耐性を持つってのは知ってると思うけど、使い始めるガンプラがそういう『普通』じゃない装甲だった場合、将来機体を乗り換える場合染み付いた癖に難儀するんだよ。コトハも怒ってるわけじゃないんだ」
「………………成程です」
僅かに頬を膨らませる様子のナナ。
ナナは、理由は不明だがガンプラバトルになると操縦桿の操作が一気に
それを自分でも理解しているナナは、その遅れによって生じる被弾をある程度フォロー出来る特殊な装甲を選んだのだろう。
それは、選択として大いに正しいと思った。
しかし話を聞く限りコトハは特殊な装甲に頼らせずナナをちゃんと成長させる気のようだ。
「ファングを射出して飛行。逃げる俺に対して本体が接近。カウンターを決めようとする俺にファングの牽制が入って…………、ここでファングが俺の攻撃を避ける。俺はトウドウに斬られる」
アウターギアを起動し、眼前に投影された今日のリプレイを見て少年は愕然と口を開いた。
「やっぱあの人、ファングを
……質問が来たとしよう。
────あなたは目の前の物事に集中しながら、片手間に6つのラジコンを精密に操作出来ますか? ────
出来る訳がない。不可能だ。
しかし溜まったリプレイを見返すと、やはり彼女のファングはそれぞれ独自に挙動を取っており、リュウの目がおかしくない事の証明となっている。
「確かに
ファングの完璧な操作に加えてトウドウはガンプラを操作する腕も超一流だ。稽古が始まり今日まで1度も傷を付けることが出来た試しが無い。
改めて最優の教員と呼ばれる存在に恐怖を覚えるが、リュウは瞑目し、脳内でガンプラバトルを開始する。
今までやられた戦法は頭に入れた。であれば自分の動きが噛み合う場面が存在したのか、その確認だ。
……………………無かった!!
「バケモンかよあの変態教師…………!!」
絶望した。
手のひらで顔を覆って肘を付くと、目の前の少女が様子を窺おうと下から覗いてくる。
正直少し癒される。
……そこへ。
『タチバナさんこんばんわ。少し確認したいことがあるから私の家まで来なさい』
「えっっ、あの。今日の稽古は終わったんじゃ」
『貴方の全敗記録。学園内に設置された全モニターに流すわよ』
「俺やっぱアンタのこと嫌いだよッッ!!」
突如掛けられて来た電話によって束の間の休息が終わりを告げたのであった。