ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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5章35話『蛇の誘い』

 学園都市において唯一外部と内部が行き来出来る学区──第1学区。

 世界初、片側24車線という目を疑うような広さの道路が学園都市外からアーチ上に街を縫っていくよう建設されており、外部からやって来る業者のトラックや学園都市へ車で観光に来た人間はここを通って各ゲートで荷物の検査を受けてから内部に入る事が出来る。

 第1学区は学園都市における流通の場であり、また観光客向けの最新施設と彼らが宿泊するホテルも多く(そび)え立っていた。

 今年解禁されたばかりの学園都市内の建物は全て新品同様の輝きを放ち、世界最新鋭のシステムや建造技術で建築された施設は作り手のセンスが如実に反映されているデザインの物が多くある。

 外見を完全にホワイトベースで再現されたホテルや各ガンダム作品の宿泊施設を模した建物など、目を引くような建造物ばかりだ。

 そんな目を引く建造物の中、塔を思わせるように天を衝く建物の前に少年は呆然と立ち尽くしている。

 

「よ、読めねぇ……。なんで日本に建ってるマンションの筈なのに日本語の案内が無いんだよ……」

 

 何処の国の文字なのかすら不明な言語の羅列が看板に表記されているが、中学を卒業して萌煌学園に編入したリュウには解読が不可能だった。

 そこは、マンション。

 黄金の輝きと艶めいた黒の2色で構成されたこの建物がトウドウ・サキが指定した場所だった。

 マンションの入り口は完全なオートロックが掛かった自動ドア。個人のカードキーか内部からの手招きが無ければ入れない事は、こっそり遠くからマンションの入り方を観察していたお陰で把握している。

 

「到着しました、と」

 

 SNSでトウドウにメッセージを送信すると程無くして返信が返ってくる。

 

『先に入っていて頂戴』

 

 部屋の番号と部屋に入る為のパスワードが添付されると同時、自動ドアのロックが外れ、恐る恐るリュウは足を踏み入れた。

 床も黄金と黒と構成され、徹底的に磨き抜かれた輝きは天井を初めとしたあらゆる物を反射している。灯りとなる物は吊るされた豪奢なシャンデリアであり、壁際にはガラス細工による男女の彫刻が設置され、その首へサファイヤやルビーのような宝石のネックレスが掛けられてある。まさしく成金趣味極まれりといった具合の内部を歩くリュウは、エレベーターの中に入って、想像と違わない金色に彩られた造りに溜め息をつくのであった。

 

「休めるもんも休まねぇよこんな環境……」

 

 実家の匂いとパテや接着剤の香りに恋しくなりながら、少年は鏡に映る少しやつれた顔を見てポツリと呟いた。

 

※※※※※※※

 

 ピッ──。

 先に入っていて頂戴と言われた通り部屋のロックを解除して、重圧なドアノブをゆっくりと回す。

 因みに部屋は最上階。幼少の頃にこういった高級マンションを見て「あんなところの一番高い部屋、一体誰が住んでるんだろう!」と想像を膨らませた事があるが、正解は変態教師が住んでいました。

 

「なっ────」

 

 室内を窺って、絶句した。

 広い空間だった。

 高い天井からスラリと伸びた長い窓が1枚部屋を囲い、キッチンやリビング、書斎や寝室が一切の仕切りが無く1つの空間内に共存している。

 荘厳な大理石とフローリングの床、室外に設置されたプールは夜間でも泳げるようプール内部に照明が当てられていた。

 唖然と立ち尽くした状況に気付きとりあえず靴を脱いで、恐らく来客が座るであろう入ってすぐのソファへ近付く。

 テーブルの上に置かれた南国の果物と、銘柄がさっぱり読めない海外の酒のボトル。窓から覗く学園都市の絶景と手が届きそうなほどに近い空へ広がる満点の星々。

 部屋の雰囲気に圧倒されながら挙動不審に室内を見渡していると、キッチン奥の扉が突然開いて少年は身を硬直させた。

 

『出迎えられなくてごめんなさい。あの後少し書類仕事に追われて……』

 

「ぶぅ──────────ッッ!!」

 

 トウドウ・サキだった。

 ただのトウドウ・サキであれば稽古によって見慣れているため、最近では見ただけで蕁麻疹(じんましん)が出ることは無くなった。

 しかしそれ以上の驚愕が少年を襲い、唖然と口を開く。

 

「? ……どうかしたのかしら」

 

「なっ、────なんちゅう格好してんだよアンタッッ!!」

 

 風呂上がりなのか室内にはシャンプーの香りが広がり、その中心でドアを開けたまま姿勢を止めるトウドウ・サキは…………バスローブだった!! 

 普段着ている窮屈そうなスーツから解放された肉体は、バスローブによって豊満な胸部を始めとした彼女の身体を覆うだけで、隠しもしない大胆な胸の谷間とモデルのよう伸びた脚は丈の短いバスローブによって強調されている。

 

「私の部屋よ。私が何を着ようと勝手でしょ」

 

「自分の立場っ!! アンタ教師で俺生徒! 教師が生徒にそんな格好見しちゃダメでしょ!!」

 

「いいじゃない別に。ちゃんと隠すとこ隠してるわよ? 全裸で歩いてるわけじゃないし」

 

「勿論下着は付けてますよね?」

 

「着けないわよあんなの。仕事でも無いんだし着けても窮屈で仕方無いわよ。…………ふぅ。少し長く入りすぎたかしら」

 

 この人下着のこと『あんなの』って言った……。

 リュウはなるべくトウドウから目を逸らして話の始まりを待つも、視界の端で揺れる色々な物に意識が大きく乱される。そのままバスローブをパタパタと扇いで、少年の鼻に爽やかな熱っぽい香りが入ってきた。

 見え隠れする肌色に狼狽しつつ、目を逸らしながらリュウは意を決する。明日からも稽古を行う以上、話を早めに切り上げて休みたいのが本音だ。

 

「それで、俺を呼んだ理由ってなんですか」

 

「タチバナさん。服を脱ぎなさい」

 

 ……………………。

 …………………………。

 …………?? 

 

「早くしてくれないかしら。私もこの後することがあるのよ」

 

「意図が読めないんですけどっっ!?」

 

「タチバナさんて動揺すると敬語で指摘するわよね。そこはまぁ……可愛らしいわ」

 

「うるせぇよ!! 妙な視線送らないで貰えます!!?」

 

 危険を感じる横目に、やはり心は疑問を発している。

 上着に手を掛けたところでもう一度トウドウへ視線を向けた。

 

「……下もじゃないですよね?」

 

「なんで下も脱ぐのよ。貴方もしかして変態?」

 

「アンタだけには言われたくなかったッッ!!」

 

 内心安堵して上着を脱ぎ捨てる。

 上半身裸になったリュウを見て、僅かに感嘆の吐息を漏らしたトウドウはその細い指で触り始めた。

 手や腕、背中や胸。首から腹部など。息が掛かりそうな程に顔を近付けて、意味不明な作業に少年は目を瞑って耐える。

 やがてトウドウは距離を離して顎に手を添えた。

 

「うん。いい感じねタチバナさん」

 

「な、何をしてたんですか今」

 

「筋肉を見ていたのよ」

 

「は────? 筋肉?」

 

「ガンプラファイターっていうのはね、身体の筋肉の付き方を見ればその人がどんな戦法を取るのか分かるものなのよ。例えば、敵へ積極的に攻撃を仕掛けるタイプのファイターは操縦桿を前に良く押し倒すでしょう? だから背筋が発達しがちだし、逆に引き撃ちを得意とする人間は胸筋が良く付くものなのよ。ちゃんと観察すればそのファイターがどういうタイプか詳細に判断出来るわ」

 

「成程……急に脱いでと言われた時は驚きましたよ……。で、俺はどんなタイプだったんですか?」

 

「以前は極度に胸筋と背筋が張ってたのよ。思考と操作がチグハグの証拠ね、弱いファイターに良くある筋肉の付きかたよ。今も弱いけど」

 

「身も蓋もねぇなッッ!!」

 

「けどまぁ、以前と比べれば見違えるほど成長してるわ。それは貴方の身体を見れば良く分かる」

 

 だから。

 そう加えたトウドウは寝室スペースのベッドの、布団の上に置かれた1枚の封筒を取り上げる。

 片手で投げられたそれを眼前で受け取ると、大きな文字で封筒の内容が記載されていた。

 

「招待状……? なんのですか、これ」

 

「貴方とコトハさんとエイジさん、そしてナナさん。この4人で出場しなさい」

 

 封筒を開けてもいいかと視線を送ると、口角を緩く上げてトウドウは承諾をする。

 厳粛に封蝋と紐で結ばれた封を丁寧に開くと、見慣れない文字が記載された招待券のような物が出てきた。

 

「そこにはね、私の師匠(せんせい)も出場するのよ。時期も丁度良いから貴方達行ってきなさい。それで今の貴方達の実力がどんなものか量ってくること。良いわね?」

 

 逆さになっていた券の位置を戻して内容を確認する。

 場所と時間、そして説明が表記され、上には大きく催しの名前が記載されてあった。

 

「これ、は…………?」

 

「──────ガガガフェスティバル。世界中からとあるファイターの集まる、年に1度のお祭りよ」

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