「タチバナさん、貴方言葉を正しなさい」
「は────?」
いつものように稽古が終わった後、バウトシステムによる粒子構築が終了し散りばめられた煌めきの中トウドウ・サキはそんな事を言い出した。
教室の明かりを付け机と椅子が一切無い空っぽの教室を教壇から見渡して、その中央で口を開けたままリュウは動きを止める。
「な、なんだよアンタいきなり」
「良いかしらタチバナさん? これまでやってきたこの稽古において、私が貴方に教える立場であって貴方は私から教わる立場。ここには明確な上下関係が存在すると思わないかしら?」
「アンタっ──! 俺は電脳世界でアンタから殺されそうになった事と、コトハを誑かそうとした事は忘れてない!」
「だとしてもよ。そもそも生徒が教師に向かって対等な口を聞いている事は稽古の効率的にも良くないの。教わる人間がタメ口で話すと、そこには驕りや慢心が生まれる。この稽古期間だけで良いから適切な言葉遣いをしなさい」
「いやでもアンタ昇級試験で俺を脅したし、なんならコトハに対するヤバイ愛情持ってるし、俺の中では危険人物レベル1位なんだけど……」
ちなみに同率トップはリホ・サツキ。更に言えばコトハも相当上位だったりする。
「編入試験までで良い。と、言うより言葉を直さなきゃこの関係は終わりよ」
「それ持ち出すか……」
トウドウの言葉に少年は視線を床に向ける。
かつてと言うか現在進行形で嫌な相手であるトウドウに対して敬語を使うことはかなり抵抗があるが、それ以上にリュウはこの稽古に手応えを感じていた。
今まで知らなかった戦術や、どう動けば敵の攻撃を掻い潜れるか、どうすれば強大な相手に対して有効打を与えられるか。1000戦などとうに越え、そういった死線の数々はリュウを確実に強くし戦闘に不必要な癖や思考も全て削いでくれるトウドウに対して確かに敬意が芽生え始めていた。
因縁はある。だが同時に敬っていない訳でもない。
稽古を通して少年は確かに色んな事を教えてもらっていた。
「分かっ……。分かりました。けどあれですよ、編入試験までですからね!」
「ふふっ、上等よ。じゃあ私への呼び方も指定しちゃおうかしら」
「呼び名っ? え、トウドウ先生じゃだめなっ……、だめなんですか」
蛇のように舌を出し、トウドウはいじらしげに顎へ手を添える。
その口から出た言葉は思ったよりも意外な物だった。
「────
「な、なんですかそれ。普通に先生で……」
「良いわね?」
ニコっと微笑む細目が全く笑っていない事に気付いて少年は咄嗟に返事を返す。
すると教室の出口の鍵を開け、横目で少年へと言葉を投げた。
「じゃあ行くわよタチバナさん。早くしないと閉まっちゃうから支度しなさい」
「え? 今からどっか行くんですか?」
「夕御飯。私が奢ってあげる」
※※※※※※※※※
寮で夕飯の支度をしているであろうナナにメールを送る。
「ナナごめん!
『はい。気を付けて』
『何かされたら連絡を下さい』
『《拳の絵文字》《拳の絵文字》《拳の絵文字》』
コトハとメッセージのやり取りをしているせいか蛮族みたいな絵文字が返ってきたがそれほど心配しているということだろう。
内心でもう一度詫びつつスマホを仕舞うと目の前からジェット機の風切り音のような音が鋭く響いた。
「連絡は済んだかしら? 乗りなさい」
「先生、あの」
「
拘るなぁ!!
「
「確か……デンドロビウムって名前かしら。昔のモデルだけどデザインが良くて買っちゃったの」
未来から飛び出してきたような外見のスーパーカーは白と黒にデザインされ、扉が開いたりスライドするのではなく上に展開するギミックは明らかに日本車では無い。
急かす視線に促され2人乗りの車内に乗り込むと展開されていた装甲が収納され、オープンカーだと思われていた天井には戦闘機の機首を彷彿とさせる装甲が空を閉ざす。
車内に走るラインの光や、計器やハンドル回りは洗練された配置でありながら多機能であることが目に取れて少年は目を輝かせずにはいられない。
「か、かっこいいですね……!」
「そう? 私車の事は全然なのよね。これもデザインだけで勝ったもの」
「そんな簡単に? ……い、幾らだったんですか」
「6億くらいだったかしら。……あまり覚えてないのよね、纏めて色んな車買っちゃって」
収入どうなってんだよ!!
リュウが冷や汗をドバドバ流していると、影が動くよう静かにデンドロビウムの巨体が滑った。
軽快な走りのまま学園前の下り道を走るも車内は駆動音の1つすら聞こえない。
相手の呼吸すら聞こえるような空間で窺うように少年は隣の
「どこに何を食べに行くんでしょうか……?」
目的地すら聞かされてないことに恐怖が芽生えており、ドン引く程に高いレストランなんかに連れていかれたら相手が相手だし喉を通る気がしなかった。
「近くのラーメン屋よ。今日はチャーシュー1枚無料だからお得なのよ」