ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

15 / 188
1章14話『電脳世界』

 自分の体ではない体の感覚に、現実の物ではない現実の感覚に、本物ではない本物の感覚に瞼を開く。

 黒い世界。先程の黒とは違い、目映く輝く星が粒となり宙を彩る。暫く思考してここが宇宙、そして自分がコックピットの中に居ることを自覚した。

 正面モニターにはレーダー、機体情報、マップが表示されておりリアルでのガンプラバトルと何ら変わらない。

 だが、何故か息苦しさを感じモニター正面に自分の姿を操縦棍を操作して映す。そこには機動戦士ガンダム00、ソレスタルビーイングのメンバーが着るパイロットースーツとヘルメットを被っている自分が映り、慌てて身体あちこちに手をやる。カラーリングはいわゆるデフォルトといった具合のグレー。肉体は触れられ、息苦しさの原因であるヘルメットを顎下の装置を押し顔を解放。大きく深呼吸し、固定状態から外れたヘルメットが宙に浮かび座っている膝に当たる。

 

「触れる……」

 

 シャボン玉に触れるようにゆっくりとヘルメットに優しく触れると固い感触が返ってくる。そして操縦席、モニターを手で触り喜びのあまりうち震える。

 

「マジかマジかマジか……ホントに電脳世界なんだな」

 

 他人事のようにどこか達観しながら、実体として存在しているヘルメットを興味深く観察していると、モニター左上、本来ならば作戦経過時間が表示されてある場所には∞と映されている、これはトレーニングモードやNPCとの連続バトルの際に使われる時間表記だ。

 

「ってか俺どのくらい寝てたんだ……?」

 

 作戦経過時間が表示されていないんじゃ分からないと誰に向かってかは分からない苛立ちを覚え、記憶を思い返す。

 だが前後の記憶が曖昧だ、黒い空間からここに来てどれくらい経ったのか知る術もない。

 

《5分と28秒です》

 

「とぅわっ !」

 

 耳元で誰かに囁かれる。

 こそばゆい感覚に思わず身を捩り怒鳴ろうと振り返る、しかし操縦席の背もたれが物言わず設置されているだけでこれが声の主だとは到底思えなかった。

 

「なんだ……?ハロにしては静かな声だったけど、って、あ!もしかしてアイズガンダム!お前が喋ってんのか!?マジか!分かる!?俺だぞ、分かるか!?……あれ、もしかして腰の間接緩んでたの嫌だったか?ごめん、俺それを見て「あー、こんなにお前で遊んだんだな……」って想い更けるのが好きだったんだ!許してくれ!でも好きなんだ!」

 

《何を言っているのか分かりません》

 

「じゃあお前誰やねん!」

 

《私はナナです、そう呼ばれていました》

 

 思わず出てしまった関西弁を冷静に突っ込む声。

 記憶の誰とも合致しない物静かな少女の声に首を捻るが直ぐにナナという言葉を思い出す。

 

「……ベッドで苦しんでた女の子?」

 

《苦しんではいません、痛みは認識していましたが》

 

 それを苦しんでいたと言うのでは?と疑問が浮かぶ。姿見えない少女がどこにいるか辺りをもう一度見渡す、が見当たらない。

 

《私は貴方の意識の内側に居ます》

 

「っぇい!いきなり囁くな!驚くわ!って、え? …………今何か凄い事言わなかったか?」

 

《……? 貴方の意識の内側に居ます》

 

「は、て、……え?」

 

 頭が思考を放棄する。自分でも何を喋っているのか理解出来ておらず2度3度の瞬きを繰り返し頬をつねり、痛みが無いことに感動しながらも目の前に浮かぶヘルメットに映った自分の姿に現実へと引き戻された。

 さきの発言もそうだが、俺の思考を読んでいるかのような台詞にまさか、と推測が生まれ実行する。

 

(……俺は!グフカスタムが好きだ!)

 

《……》

 

(……グフカスタムが好きなのは事実だけどシールドガトリングのパーツ取りの為に買ってパーツだけ作って放置している!)

 

《……》

 

(……ついでに言うとそのシールドガトリングは他で代用出来たので使わずに投げている!)

 

《……》

 

(………………何か反応しろ!)

 

《先程外したヘルメットがモニターを遮っています、退かしてください》

 

「聞こえてんじゃねぇか!」

 

 冷静すぎる返しを貰い、言葉に従ってヘルメットを両足で挟む。中々置き場に困る大きさのヘルメットだ。

 状況を整理するため一旦目を閉じ、深く息を吸う。

 

 デバイスを学園に忘れた俺は学園へ行き、帰りに少年と会って研究棟に迷って入ってしまい実験を目撃した、そしてベッドの少女を救うため実験とやらに参加。現在に至る。

 

《私を救うためですか? どうして》

 

 急に自分ではない声が頭の中で小さく疑問を述べる。まだ自分の思考に他人の声が介入することに慣れていないが少女の問いの答えを自分でも探す。少女が可哀想だったからと同情で助けたという気持ちが大きい、そしてそれを偽善だと罵ったもう一人の自分、ソイツを否定する為でもあった。

 思い返してみると何とも直情的で後先考えなしの恥ずかしい理由であり口にするのを躊躇ったが、少女がこの思考でさえも視ているのだろうと諦め、この通りと手を大仰に広げた。

 

《私は助けなんて求めていません》

 

「……は? おいおい、そりゃねぇだろ、こっちは死ぬ覚悟で来てやったのに」

 

《それは貴方の都合ではないですか?少なくとも私はこの任務を1人でこなせます》

 

「お前……!」

 

 いけしゃあしゃあと感情が籠ってない声で続けられ身体の温度が熱くなるのを実感する。感情的に反論しようかと文句が喉まで出かけた所で、少女の言い分にも一理あると言葉を何とか飲み込む。

 確かにこちらの一方的な善意の押し付けや都合で俺はここへやってきたし、そこに少女自身の思考は反映されていない。だがその言い方は如何なものかと反論の用意をするが、この議論はこれ以上有益ではないと判断し、次はこちらが疑問をぶつける。

 

「で、今言った任務ってのは何のことだ?」

 

《アウター内での実戦データ収集です》

 

 そういえばあの思い返すとやたらエロい身体の女博士もアウターで何をすればいいか詳細を伝えなかった。

 

「実戦データ収集って何を……何と戦うんだ?NPCか?それとも今ログインしてるプレイヤー達か?」

 

《それは……》

 

 俺の問い掛けに少女は初めて困惑の息遣いを伺わせた。数秒の沈黙、少女は消え入りそうな声で言葉を続ける。

 

《私も詳細は伺っていません》

 

「いやさっき任務は一人でこなせるって言っただろ」

 

《こなせると博士は私に言いました、なのでこなせます》

 

「いやいやいや……」

 

 無茶苦茶にも程がある。大人びた口調で誤魔化されていたがコイツ相当に負けず嫌いの融通が効かねぇ奴だと、見た目相応の態度を示した印象に少し安堵する。

 少女の会話からどうやら戦闘の必要があると、レーダーで周囲の索敵を開始する。

 無数に浮かぶデブリや、リアルとは桁外れに広いフィールドに驚きながらもレーダーは敵影無しとマップを更新。加えて機体動作の確認のため操縦棍を操作、姿勢制御しながらのバスターライフルでの射撃姿勢、その場でビームを発振していない状態のビームサーベルで大振り。大きく変わらない操作に満足したところで少女の声が横から入る。

 

《あの》

 

「おっどうした、もしかして俺の一連の動きに感動した?」

 

《貴方が機体を操縦する必要はないです、私が動かします》

 

「…………は?」

 

 少女が何を言っているのか、俺の脳はついに理解することを放棄し、情けない言葉疑問の言葉が口から漏れるだけだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。