6章1話『蒼く瞬いて』
第4宙域への侵攻は無いと打算した本部の見通しが甘かった。
故に本作戦では
『状況は?』
『損耗率は40%、残ってるのは大砲持ちと俺達みたいな連中だな』
他は撃墜されたと言外に仄めかして男達は小さく笑う。
かつて世界大会にも出場していた彼らの部隊。人数が少ないとはいえ、人員全てが前線を退いたプロのガンプラファイターだった者で構成されたにも関わらず、今ではその半数以上が撃墜され最早部隊として機能しない程に崩壊していた。
瞬間、彼方が瞬く。
暗幕の宙を彩る幾万の星々、その輝きに見紛う閃光の驟雨。
その全てが、当たれば必墜のビームだった。
男は、──ダブルオークアンタは振り向きもせずその身に閃光を浴び淡く消え、やがて一足離れた箇所でGN粒子が集束し再び機体が構成される。
クアンタと隣り合っていた隻腕のルプスレクスは巨人の腕のような豪腕を以て、埒外の力で強引にビームを掻き消し、両機が同じ方向へと緩く機体を向けた。
『今ので損耗率60%。ジリ貧だなぁ、そろそろ突っ込むか?』
『馬鹿言え阿呆。敵の数を見ろ』
冗談が通じないなと、男は正面モニタ右上のレーダーへと視線を送るとこれもまた冗談のような様相が映し出されている。
味方機総数31に対して、────敵機総数3000。
敵性を示す赤色のフリップは画面の大半を覆い、伝う染みのよう徐々に、そして確かに侵攻を進めている。
圧倒的優勢でありながら決して逸らず、そして正確に歩を進める様は隙が見当たらず歴戦の彼らにしても唸らずにはいられない。
男はクアンタのカメラの倍率を上げて、最も近い敵機へと標準を合わせる。
その機体はデスティニーガンダム。M2000GX高エネルギー超射程ビーム砲を背部に2本携え、ガンダムDXに見立てた改造機。男の友人が駆る機体と全く同じ機体だが、カラーリングと機体性能が異なっていた。
機体色は反転し黒と赤に変更され、機体性能に至っては不正ツールを使用しているとしか思えない程に向上している。
見渡せばどれもどこかで見たことのある機体達。それらは姿形は同じでカラーリングと機体性能だけが違った。
『何者なんだ、奴等』
『それを調べに毎回俺達が駆り出されてるんだろう? ……分かっているとは思うが前線基地には近付けさせるな。あそこがやられると
NPCなのかプレイヤーなのかバグなのか。
それすらも不明な敵性勢力が現れて既に数週間、運営も事態収集に動いているが未だに正体が分かっていない。
敵機が動く。
千を越える機体達が同じ挙動で搭載された射撃武器を、残存する味方機へ標準を合わせる。
友人の、デスティニーガンダム。色が反転し歪で禍々しい機体のビーム砲が男を狙い、そこに感情の一切は感じ取れない。
クアンタの粒子残量は既に底が近い。伝う冷や汗のまま正面モニタを睨んでいると傍らのルプスレクスがクアンタの前に立つ。
『……何の真似だ』
『威張れた順位じゃないが、俺の最終順位は64位。10位以内のお前の方が後々良い仕事をするだろう』
『何年前の話をしてるんだ。今はあんなもの関係ない。そこをどけ、まだ戦える』
ルプスレクスの腕は最早フレームが露出している状態であり、次の攻撃を受けたらどうなるか火を見るよりも明らかだ。
『駄目だ、お前は残れ。……奴等、こちらを全滅させない限りは前線基地には近づかない。業腹だが、ゆっくり磨り潰された方が時間を稼ぐ事が出来る』
『お前……』
続く言葉を紡ぐ前に、再び閃光が画面を瞬かせる。
その全ては残存する部隊へ向けて。回避方向全てを正確に射抜く、文字通りの回避不能。
明滅する星光の殺到に。
──────、一際強い流星が尾を引いて彼らと敵機の間に立ち塞がる。
『────ッッ』
翼だった。
宇宙の闇に身を晒しながら晴天の空を彷彿とさせる自由の翼。
劇中、彼女の祈りが籠められたその機体は両翼に1ヶ所ずつ淡い桜色が刻まれ、それが彼のトレードマーク。
『遅れてすみません。もう、大丈夫です』
敵部隊前線に位置する射撃機達の攻撃を盾で凌ぎ、揺らめく高出力の刃は核動力からなる法外なエネルギーによって刀身を輝かせる。
絶えず続く粒子の暴威をビームサーベルによって正面から両断し、斬り伏せた姿勢でカメラアイが発光した。
『自分達がなんとかします。良く持ちこたえてくれました』
若い声。
成人前の好青年といった具合の、
感慨に耽る間も無く、敵勢力は突如現れたその機体に向けて早くも第2射を構えている。その全てが只1機にのみ向けられ、銃口に閃く粒子は先程よりも大きい。
危ない、と声を出しそうになりそこで男は少年の言葉を思い出す。
救援に来た機体に向けて1ヶ所に集中する射撃、その集束箇所に停滞する小さな何かを男は視界に認める。突如稲妻のような黄金の光がやがて輪となり、スターゲイザーに搭載されたようなヴォワチュール・リュミエール特有の緑光へと変わったそれらの射撃を迎え入れる。
次の瞬間、狙撃された粒子は逆再生のよう放った敵機へと返っていきモニタ一面が爆炎に包まれた。
『反射……?』
男は即座に思い至る。
ヤタノカガミによる粒子の反射とヴォワチュールリュミエールの粒子制御を用いた機体を。
────男を負かした、因縁の存在を。
『フシチョウ・アカツキ……ッッ!!』
派手にバーニアを噴かして黄金色に輝く機体が、救援に来た機体の隣へと位置付く。
やがて粒子の反射に用いた複数のドラグーン・ユニットが機体へと返り、想像に違わぬ姿が正面モニタに大きく映し出された。
シールドタイプ、テールタイプのドラグーンによる雄々しくも雅な出で立ちの機体。
『ヘイブラザー!! ショボくれた声出してどうした!? 俺が来て嬉小便でも漏らしたか?』
『救援に来たのがよりによって貴様とはな……! この戦場じゃ無かったら後ろから撃ち落としているところだ……ッ!!』
『撃っちゃえよ兄弟? ヘイ、そんときゃ今度もあんときの再現? 変わらぬ展開に俺様も残念?』
『貴様ァッ!!』
『先生、次が来ます。見たところ近接主体の構成ですね、増援を待ちますか?』
男と男の会話に青年の声が割って入る。
そこで男は1度長い溜め息を吐いて、クアンタを引く。傍らのルプス・レクスも察して、彼らの戦闘の邪魔にならないよう大きく距離を離した。
奴等の巻き添えを食らっては粒子が心許ないクアンタでは持たない。
『冗談? 俺が乱交好きなの知ってるだろ? これ以上待ちぼうけ食らったら我慢汁でここに水星が爆誕しちまう』
『分かりました。では、自分が半数受け持ちます』
『OK。俺が受け持つから、美女と思う存分ヤってこい性春?』
『来ますよっ、先生!』
敵機の無数とも思える進撃を前に、怯まず2機が正面から切り込む。
目まぐるしく展開される近接機動を前にして、男は口内で声を溢した。
「あれが、萌煌学園の特進クラスとやらか……」
『萌煌? じゃあ、アイツらがあの大会帰りの留学組か?』
意図せず漏れていた声に傍らのルプスレクスから言葉が返された。
……萌煌学園の特進クラス。
初めは学生なんぞに仕事が任せられるかと思っていたが、実力も機体も、自分達より遥かに上だったことが一目見た時から理解できた。
「そうだ。そして、あの自由の翼。“蒼翼煌臨”。あれが化け物揃いの特進クラスの中で最も────」
鮮烈に蒼が駆ける。
敵機の包囲を縫いながら軌跡に迸るは爆炎の華。
「強い、ファイターだ」