「荷物は持ったかリュウ。登校初日で教材忘れたとか、また笑い話が増えるぞ?」
「さっきも散々確認しただろ? どれだけ心配性なんだよ」
「エイジ君が心配するのも無理無いと思うけどなぁ。リュウ君ってアレじゃん。忘れ物無いぞ~と意気込んでもハンカチとか携帯とかを忘れるタイプのアレじゃん。お家に戻ってまた何か忘れるまでセットね」
「アレって言うなぁ!? はっきり言ってくれないと余計傷付くやつだからそれ!」
「弱くて馬鹿」
「一言余計っ!!」
余裕をもったスケジュールだった。
普段よりも早くタイマーを掛け、昨夜に行った身支度をもう一度確認し、空いた時間にシャワーでも浴びようかと思っていた矢先に鳴った玄関のチャイム。
早朝突然の幼馴染みの訪問にお茶を出して、駄弁っていたら中々に危うい時間となっていた。
萌煌学園は高等部からは私服制であり、休日と変わらない2人の見慣れた姿がこれから登校という事実をあまり感じさせない。それが理由で3人が3人世間話やガンプラについての話に華を咲かせる事態となってしまっていた。
「急いでよリュウ君。この3人でアリアドネ抜けるとなると一番遅いのリュウ君なんだから」
「誰のせいで俺が今食器洗ってると思ってるんだ! 冷蔵庫の俺のケーキ食べやがって……! 今日の楽しみ為に昨日から仕込んでおいたのに……、うぅっ……!」
「不味いぞ、そろそろ時間が危ない。今日の朝イチ、確か別教室だろ?」
「ほんっとだ! リュウ君急いで急いで!」
「お前ら人を急かせながらソファでくつろぐんじゃねぇ!」
ソファへと怒号を飛ばしながら食器を片付けて、少年は半ば無意識に鞄を手に取りふと視線の先。キッチンの台に置かれたやや小さめの風呂敷。
触れた瞬間僅かに少年の頬が綻ぶ。
「──あっちも心配だね」
「大丈夫だろ。俺なんかよりずっとしっかりしてるし、優しいから」
少女。白銀の少女は、随分と前に寮を出ていき、
手続きやクラス担当の教員との話もあり仕方が無いとは言え、少年と登校出来ないことを悔やんでいたのは記憶に新しい。
弁当箱を鞄へと入れて、今度こそリュウは玄関へと足を運ぶ。
「んじゃ、行くか」
努めて普段通りを演じた。
鼓動は早まり、言い様の無い不安が胸を過る。
何しろ3年生になって初めての登校であり、周囲からの評価と評判が気にならない程少年は心が育っていないことを自覚している。
「けど」
それ以上に大事な物を知った。
支えてくれる人達を知った。
一緒に道を歩んでくれる友人を知った。
「行こう、リュウ」
「行こっ、リュウ君」
半年振りの朝日。登校を照らす日差しは、秋の訪れを僅かに感じさせる涼しくもそれでいて暖かな輝きだった。