ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章3話『あの2人』

 2045年現在、20年の歴史と膨大なプレイ人口が存在しているガンプラバトルはその人気が未だ衰える様子を見せず、毎日のように世界各国では大会が開かれており、賞金付きのプロリーグも多く開催され爆発的に賑わっている。

 賞金の額は無論大会の規模にもよるが、それでも参加出来ただけでも()()()()()()()を貰え、上位に入賞すれば莫大なファイトマネーが舞い込む。更にスポンサーやCM等にも起用される事があれば一生の生活はほぼ保証されたと言って良い。

 故に世界でガンプラファイター養成の機関が設立されるのも道理であり、その流転である小中高大一環の巨大育成機関が建てられるのもまた道理だった。

 世界最大級のガンプラファイター育成機関、萌煌学園。周囲を学園都市として計画(プロジェクト)されたこの建物は、予想に違わず規模も大きい。

 

「エイジ君、1限ってどこの教室だっけ。第3?」

 

「第7だな。第3は初等部が使う予定だった筈」

 

 広大な山岳地帯を開拓され建造された萌煌学園の校舎周りを走りながら2人は会話する。

 その数歩後ろを着いていく少年の息はとうに乱れ、自分が今校舎のどこを走っているか検討もつかない。

 授業10分前。校舎に入ってしまうと走行禁止の校則によって授業に遅れてしまうため、こうして3人は外からの最短距離を駆けている。

 

「ぜェッ……、ぜェッ……! ……そもそもプラ板工作する為だけの教室が第10まであるのがおかしいんだよこの学園……!」

 

「生徒の人数が人数だからね~。プラ板工作室なんて3つくらいあればいいって思ってたけど、それぞれで用途がビミョ~に違うもんね!」

 

「因みに2限は3Dプリンター造形学だから正反対の距離をまた移動することになる」

 

「嘘っ!? 忘れてた! どうしよう! これ以上運動したらわたし疲れて午後から動けないよ!」

 

「ははは、良いじゃねぇかコトハ。朝食った俺んちのケーキみたいに毎日甘いの食ってんだろ? 運動しなきゃ太るだけだしな。ダイエットだダイエット」

 

「えいっ」

 

「ザメルッッ!!?」

 

 走りながらノーモーションでのドロップキック。

 顔面陥没俺、前が見えません。

 

「そろそろ着くか。授業開始5分前、セーフだな」

 

「ほら行くよリュウ君。……どしたの? 梅干しみたいな顔して」

 

「♯@☆!! …………お前のせいだろッッ!!」

 

 埋まった鼻を引っ張って顔面再生。

 目的の教室の外に着いたが、外から入る扉も無い。あるのは窓だが、大体は内側から鍵が掛けられている。

 

「連絡はしたの?」

 

「今した。すぐに開くと思うが……」

 

 その中の1つ。

 丁度3人の真上に位置する窓が勢い良く開かれた。

 

「────遅っそいで自分ら! 待ちくたびれて表面処理終わってしまったわ!」

 

「あ! まるっち久し振り! 元気してた!?」

 

「コトちゃんお久~、元気や元気! エイジお前えらい汗掻いとるな、後で俺の飲み物分けてやるわ。…………んで、珍しい奴が後ろにおんなぁ……」

 

 関西訛りが混じった快活な声。茶髪短髪の三白眼がじっとリュウの見る。

 無理もない、と少年は思った。

 周囲にはプロを目指すためと話して授業を放った少年が休み明けに顔を見せたとすれば、それは上へ行ったか下に落ちたかの2択であり、リュウは後者でしかも訳ありだ。

 不穏に高鳴る鼓動も、教室内に居るであろう生徒の反応を思うと増していく。

 

 しかしそれも。

 

「まるやん。また今日からよろしく」

 

「なんや、元気そうやないかリュウやん。心配して損したわ。……ほら上がり、また面白い話沢山持ってきたんやろ?」

 

 リョウタ・マルヤマ通称まるやん、まるっちetc……。

 クラスのムードメーカーにして古くからの()()の前では嫌な鼓動も収まった。

 

 ……………………

 

「で、落ったんかリュウやん?」

 

 ズイ、と身体を寄せてくる三白眼に若干身体を仰け反らして少年は僅かに微笑む。

 

「落ちた」

 

「そか」

 

 手早い返事。それでいて返答を何度も咀嚼するように目を瞑って頷き、

 

「ほんなら本当にまた今日からやな! 今度はどんな悪い事する!? 部室占拠ならぬ部室合宿なんてどうや! 止めに来た教師を片っ端から倒して何人抜き出来るかって奴や!」

 

 ワッハッハと人の良い笑顔が炸裂して白い歯が大きく見える。

 まるやんのその物良いに周囲のクラスメイトは呆れた顔をしており、本人は至って気にしている様子は無い。

 彼は昔からのお調子者でムードメーカー。それでいて過去リュウが学園で行っていた事柄に大体絡んでおり、以前と変わらない態度にリュウは視線の先の三白眼を横目に笑みを浮かべる。

 

「ありがとな、まるやん」

 

「うわ、なんや急に。やめてや気色悪い」

 

 長机の上にくるくると丸まったプラ板のカスをリュウ目掛けて飛ばし席を離す。

 それでぼんやりと周囲を見渡していると、膝辺りにコツンと感触が走った。

 

「うへぇ、4人1組の授業だったの今思い出したよ」

 

 桃色の髪を弄りながらコトハが呻き、それはリュウも失念していた所だ。

 今から講義を受けるプラ板工作学は4人1組で行う工作主体の授業。詰まるところ4人で連携する授業なので1人1人の能力が授業の成果へ大きく左右される。

 

「3人とも、足引っ張ったらごめんね」

 

「そらこっちの台詞やわ。てか、コトちゃんてそんなプラ板工作苦手やったか?」

 

「苦手だよぉ!」

 

 机に顔を伏せて桃色の髪を揺らす。

 うぇ~ん、と泣く彼女を見てまるやんはエイジと少年に目配せ。首を傾げる彼らの反応に取り敢えずコトハには触れないという選択を下す。

 

 そんなやり取りの中、リュウは改めて萌煌学園の授業システムの特徴に感嘆していた。

 この学園では、授業の選択権利が与えられる高等部から全ての授業が単発授業であり、前回の続きや次回への宿題といった物は用意されない。故にリュウが行っていたような授業を受けないという選択も行う事ができ、途中から授業を受けても置いてけぼりという事態は基本的には発生しない。

 

 有り難いと思うと同時、少し恐怖もあった。

 自分がLinkで勝率を稼いでいた空虚な時間。その間にも学園の彼らは研鑽を積んでいて、皆はもう自分には届かない場所に立っているのではないかという焦燥。

 そんな別の不安に、Hiーsガンダムが入った鞄を指でなぞる。

 

 ────突如。

 

『遅れてごめんなチャイ~!! 見覚え無い俺っちの顔、見覚えあるお前たちの顔? プラ板より好きなのはブラ。タガネぶらぶら注意力フラフラはノン?』

 

 肩にダブルラジカセを担いだ金髪サングラスの男の登場にざわついていた生徒達が一斉に静まる。

 その様子、さざ波の一切が立たない水面の如く。表情も動作も全てが止まった生徒達が眼球だけを教室入り口に送った。

 

「……アレ。シントクでは受けたんだけど。流石に初めで今のはやっちまったか?」

 

「先生。今のは特進クラスでも受けてなかったですし、軽くセクハラも入って彼ら引いていますよ」

 

 続いて入ってきた長身の男性。

 始めに出現したインパクトのある人物とは打って変わり、こちらは涼しげな白のYシャツとスタンダードなパンツ。淡栗色の長髪を1つに束ねて、見てくれは中性的な人物だ。

 苦笑しながらその人物は視線を教室内へと向ける。

 

「驚かせてごめん。今日はこの授業の先生が急用で来れなくなってしまったから、急遽僕と隣のテンドウ先生で君たちの授業を受け持つことになった。僕自身こういった経験は少ないから、拙い講義になると思うけど多目に見てほしい」

 

 朗らか、それでいて芯のある声と佇まい。

 リュウはその人物をどこかで見たような感覚に陥り唸っていると、対面のエイジとコトハが目を見開いて愕然としている。

 

「なんだよお前~。俺っちが自己紹介する前に俺っちの名前言うなよ~」

 

「あ、と。そうか、……自己紹介。先にするべきは僕の紹介だったね。ははは、こういうの本当に慣れていなくて、早速申し訳ない」

 

 後ろ頭を掻いて男性がまたもや苦笑する。

 すると次第にクラス内からざわつきが戻り始めて、そのどれもが驚きや疑問の内容だった。

 

「────初めまして。僕の名前はナガト・シュン。在籍は特進、萌煌学園で生徒会長をやらせて貰っている。今日は臨時教員という名目でこのクラスに来ている訳だけど、いちファイターとして君達と僕の立場はフラットだ。お互い刺激のある時間を過ごすことが出来るよう努力したいと思う」

 

「相変わらずかってぇんだよお前。────俺っちはテンドウ、特進の担当やってるぜ。男子はテンドウ先生、女の子はテンドウちゃんって呼んでくれ。特技はアイスを早く食べれる事です。よろ乳首」

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