コトハ・スズネという少女は広い萌煌学園内に置いても知らない人間は居ない程の有名人だ。
大会入賞履歴多数、高い勝率、本人の優れたルックス。極めつけとして春に行われたシンガポールの大会で勝ち取った1位の成績はメディアも大きく取り上げた程であり、本来であればとうにプロとなっておかしくない人物。
多くのスポンサーのオファーを受け、多くのプロが彼女を育てたいと声が掛かったが当の本人はそれらを全て断り、その理由の謎は世間でも多く考察がなされている。
「良いガンプラバトルをしよう。お互い出せる力を出し切り、全力で」
しかしそんなコトハ・スズネと比較しても有り余る程に対面の生徒会長は傑物だ。
実力主義である萌煌学園において生徒会長という立場に立つには、一定期間学内の戦績がトップであることが条件であり、その次に生徒達からの7割以上の支持を得て初めて成る事の出来る役職。
ナガト・シュンという人物は
後ろに付いているスポンサーは多数。多くのメディアにも顔を出しており、萌煌学園の顔と言っても過言ではない。
低迷した日本のガンプラバトル界隈において期待の星と言われ、その名に恥じぬ成績を今尚叩き出し続けている。
蝉の鳴き声以外全てが静まった空間。
教壇の前に立つ両者を全ての生徒が見詰め、淡栗色の髪が残暑を纏う風に揺れる。
「授業中ということもあるし、ストックは1。フィールドはランダムで良いかな?」
常に微笑んでいる生徒会長に対して少女は自分の行った行為の重大さを徐々に気付き始めた。
どんどん赤らむ頬の熱は正常な思考を彼方に飛ばし、「大丈夫です」と放った言葉は緊張に揺れる。
耳に掛かったアウターギアを
少女はガンプラバトルが好きだ。
そして強者と闘うことが何よりも好きだ。
だからこそ歓喜せずにはいられない。
今まで身体を縛っていた緊張の震えが武者震いだと実感した瞬間、少女の広角が僅かに上がる。
「気負うなよコトハ。お前はいつもみたいに笑って戦え」
背中を拳が優しく叩いた。
振り返ると少年の顔。
少女が幼い頃から追いかけていた男の子の顔。
「────うん。行ってきます、リュウ君。みんな」
そして傍らで自分を見守ってくれているエイジや友人達。
気負うことは無い。正に少年の言う通りだなと視線を落として笑った。
瞬間、顔を見上げた。
「…………、良い闘志だね」
「全力で行かせて貰います。ナガト会長」
凛として凄絶に。
爛々と目を輝かせ桃色の髪を揺らしながら少女は宙へ両手を構える。
「行こう。ファヴニムート」
その言葉に教室内の人間は一瞬眉を潜める。
聞き慣れない言葉。コトハ・スズネの愛機はガデッサ・バルニフィカスであり、誰もが彼の機体を想像していた。
やがてプラフスキー粒子生成機能を持つナノチップから構成された床が淡く光り、徐々に少女の前へ粒子が輪郭を形取る。
見たことの無い大きな機体。MSとして最大サイズの巨躯と黒と青の色彩。手にする獲物は大鎌。知れず息を飲む音が教室を満たした。
「君に心から感謝を。……よもや『コトハ・スズネ』というファイターの新作と戦えるなんてね」
「私こそ会長には感謝です。自分の限界を試せる絶好の機会を設けてくれて」
「……臨時教員もたまには受けてみるものだね。この学園に帰ってきて良かったよ」
対して掲げられた両手の前方。
生徒会長のガンプラもプラフスキー粒子によって鮮やかに構成されていく。
サイズは1/100。MGを改修して設計された機体は知らぬ者など居ない不朽のMS。
生徒会長が操る絶対の機体。彼を彼たらしめる象徴の機体。
ZGMF-X10A。
機体名────、フリーダムガンダム。