高い機動力と取り回しの良い射撃武装。シンプルな操作性能と切り札となる一斉射撃。高い基本性能と一定以下の威力の実弾を無効化する特殊装甲──フェイズシフト装甲。
詰まるところフリーダムガンダムという機体はレギュレーション600というコスト帯の中でも。ガンプラバトル初心者にオススメされるタイプの汎用性に富むMSだ。
兎に角分かりやすい武装群と機体性能は乗り手の技術を如実に発揮し、その戦い方は装甲に頼る事は出来ても武装に頼る事が出来ない。
「凄い」
故に、少年の口から声が零れる。
リュウだけはない。周囲の人間の全てが目の前で繰り広げられている戦闘に魅せられ、2つの驚きで呆気に取られていた。
まず、ガデッサ・ファヴニムートと表記されている機体が繰り出す未知数の戦闘手段。手にした大鎌と目を引く尻尾からくる印象とは打って変わり、その戦闘方法は機動力で翻弄し自身は攻撃を曝さずに、敵の迎撃に対して虚を付くカウンターを狙っている。
鎌を振ったかと思えばそれは釣りであり、本命は握っている巨腕──バルバトスルプスレクスの腕──に搭載された200m砲で牽制し、敵機に流れを掴ませない。
絡め手を忍ばせたその攻めは乗り手であるコトハが既にファヴニムートの機体性能を熟知している証拠であり、それがまず1つの驚きだ。
もう1つは、それを捌く生徒会長の
コトハが繰り出す釣りの攻撃をいなして、本命だけを確実に回避するその動きは既にコトハの動きを把握していると言っても過言ではなく、用いられている技術が何れもガンプラバトルの基本の延長線上。その極致とも思える流れるような機動だった。
「凄い」
大鎌、対艦用大型GNサイズによって溶断された峡谷の一部が赫熱を孕む泥となって戦場へ降り注ぐ。
距離を離す2機。彼らの沈黙が、そのまま眺めている少年達の沈黙となる。
予め予定されていた演武を見ているような。殺陣を眺めているような。
未だ両機の装甲に一切の汚れは見られず、対して戦場として設定された峡谷は、開始早々地形が変わるほどに変貌していた。
やがて羽が開く。
フリーダムガンダム背部の複合可変翼。ラジエータフィンの役割を持つウィングが内に秘めた熱を吐き出すよう輝く蒸気を放出する。蒸気は雲から陰る太陽の光で薄蒼く煌めいて、彼の機体の別称をありありと連想させた。
────蒼翼煌臨。
幾度の戦闘において空を駆り、只の一度も汚されていない翼から来た
伝説の一端を垣間見ている感覚に少年は握り拳を強めるだけ。
胸が熱い。
自分も戦いたい。
いつしか熱は笑みへと変わって、食い付くように世界をその戦闘に集中させる。
(あれが、俺達の目指す特進クラスの頂点なら…………)
礼節のよう、ごく自然な動作でビームサーベルを抜いて、柔らかな声が静まり返った教室へと小さく響く。
『────次は、僕から行くよ』
……………………………………
(流石に通じないか~)
桃色の髪を揺らして少女は内心で思案を重ねる。
先程までコトハが仕掛けていた攻撃は全て回避され、披露するつもりの無かった大鎌を印象付けての搦め手も見抜かれた。奥の手を読まれたその事実に少女は多少なりとも動揺が隠せない。
『次は僕からいくよ』
どこまでも柔らかな声とは裏腹、抜かれた高純度の刃はあらゆるものを切り裂く切れ味を誇示するよう輝かせ、薙がれた延長上の細かな砂塵が僅かな音を立てて蒸発をする。
そのまま身を屈め、フリーダムガンダムに搭載された核エンジンが解放の時を一瞬待つ直後、少女は眼前から当てられた圧力に身体ごと操縦桿を引き倒していた。
瞬間、ファヴニムートの眼前を爛々と輝くラケルタビームサーベルが振り下ろされる。
「────ッッ!!」
意識のトリガーが間に合った。
すんでのところで躱わした装甲表面がじわりと溶け、そのまま見舞われる逆袈裟斬りを回避した動作のまま後方へとバーニアを噴かす。
ファヴニムートの膝に設けられた大出力GNバーニア。近接間合いを調整するための機構が
しかし、纏う煙の如く追い掛けてくるフリーダムガンダム。
「…………っ」
離れない間合い。これも計算のうちか。
ならばここで迎撃しては思う壺だろう、と冷えた思考のなか少女は分析する。
ファヴニムートの得意とする間合いは近接。今のような
だったら。
今から行う行為は迎撃では無く、攻撃だ。
「GNファング」
短く切った言葉に反応した兵装──後腰部大型GNバーニアに備わる爪。文字通りハシュマルの爪であり牙であるクローを改造したGNファングを全て射出し、それらを後方へ円状に展開する。
突如展開された無線遠隔誘導兵装にそれでもフリーダムガンダムは揺るがずに猛追を続けている。
──何か下手な真似をしたら即座に斬り伏せる。
そういう無言の圧力のままフリーダムガンダムは後出しの絶対優勢を維持して距離を離さない。
成る程と、少女の眼に鋭い笑みの気配が走った。
「あくまで生徒会長は、今自分が攻めていると思っているんですね」
『そんなことは無いさ。あまりの一進一退の攻防にお腹が痛くなりそうだよ』
「好きですよその余裕。聞いていると良い感じに
ファヴニムート、全スラスター、展開。
今まで全力で引き倒していた操縦桿を次は全力で押し倒し、後腰部大型GNバーニアが唸りを上げる。
転瞬して爆発的推力を前面へ得たファヴニムートがフリーダムガンダムに体当たりし、互いの額と額が猛る火花と共に激突の音を轟かせた。
『ファングで警戒させた相手に対して大胆な突撃。良い搦め手だね。僕も今度使ってもいいかな?』
「ダメですっ! 私が精一杯考えた戦術ですもんっ!!」
叫び声と同時、GNファングがフリーダムガンダムの頭上から襲い掛かり、それを察知した生徒会長が後方へ下がろうと操縦桿を引くと画面に
フリーダムガンダムは盾で対艦大型GNサイズを抑え、ファヴニムートはラケルタビームサーベルを持つ腕を掴んでいる。
つまり、この
(貰ったッッ!!)
数瞬後、勝利を確信した少女は操縦桿を握り続けて。
──────だからだろう。
「えっ…………?」
今まで実体だったものが急に風へと溶けたかのような錯覚に、掴むものの消えたファヴニムートの腕が空で握り締められた。
腕を捨てて離れたのではない。何らかの技術で敵機は拘束を逃れたのだ。
思い浮かぶのは宙に舞う羽毛が掌に収まらない光景。幼少の頃の記憶が走馬灯として思い出され、
「──────だぁぁああッッ!!」
意思と闘気を以て意識を現在に集中させる。
ふざけるな。今は生徒会長との戦闘中だ。些末な事に囚われていてはこの機会をくれた相手に申し訳が立たない……!
コトハが意識を取り戻すのに、僅かコンマ3秒。
正面モニタの先のフリーダムガンダムは、とうに距離を離して
ハイマットフルバースト。
フリーダムガンダムに搭載された火器を総動員し、専用のロックオンサイトで飽和狙撃を行う所謂必殺技。
撃墜される無数の未来が足元からすがり、しかし瞬巡すら介さずコトハは奥の手を抜く。
「対艦大型GNサイズ、GN粒子最大解放────」
本当の奥の手。見せる場面は遥か先の舞台を想定していたファヴニムートの切り札にして絶墜の武装。
その拘束を解放し、大鎌の刃に蒼の閃光が目映く閃いた。
『────フル…………バーストッッ!!』
「やあああぁぁぁあああ────ッッ!!」
炸裂する寸前の閃光目掛けて、ハイマットフルバーストもまた光もかくやという速度でファヴニムートへと殺到する。
『ハァイっ! こっから先は延長料金入りマースっっ!!』
その中央。
声と同時正面モニタに表示された所属不明機の文字に2人は眉をしかめた。
「嘘……!?」
『やってくれましたね、先生』
声の主はテンドウ。
2機の間に割って入った黄金色は僅かに緑光を帯び、何かしらのシステムの発動だと少女は推測する。
無論、今まさにテンドウへ向かっている粒子の量は1つのガンプラが受け止めきれるエネルギーではなく、互いの攻撃が一撃の元に多くの艦隊を沈めるに値する威力だ。
(なに、この光は…………!)
しかし弱まる気配の無い緑光が輪となって攻撃を両方向から受け止め、それに伴い閃光の中心が黄金色へと輝いている。
……そこで理解に達した。
そうか、
納得と同時、収束していく光の帯がやがて消え、両機の間に介入者の姿が正面モニタへ写し出された。
レギュレーション800。フシチョウ・アカツキ。
かつて世界に名を馳せたガンプラファイターであるテンドウのガンプラ。
『タイムアップ。授業終了のじかんだZe、おまいら』