ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章7話『ドリルツインテ』

ずぞぞぞぞ。

 夏場を生き残った蝉達が窓の向こうの樹に止まり大合唱を奏でているなか、リュウの隣でも不機嫌そうに飲み物を啜る音が耳を衝く。

 

「む~~~~~~~~~~~~~~~」

 

「リュウやんにエイジ聞いてや、エアブラシ洗浄しようとカップに波々ツールウォッシュ入れてうがいしようとしたんよ。そしたらトリガー引いた瞬間クジラの潮吹きみたいに水柱がカップから上がってな? 辺り一面ビッチョビチョでそらもう災難だったわ! なっはっは!!」

 

「俺にも経験があるな。やっぱり似たような体験だと希釈用シンナーと洗浄用シンナーを間違えるとかデフォじゃないか? サフを吹いたら機体が見る見る溶けていく様は面白かった」

 

「俺はあれ! シンナー系じゃないけど、塗料瓶に撹拌用の玉入れようとしたら在庫無くてさ、代わりにパチンコ玉入れて振ったら底が割れて床がメタルヴァイオレットに染まった事あるわ!!」

 

『あっはっはっはっは!!』

 

「む~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 

 昼休憩の教室、リュウ達以外の生徒は食堂や外で昼食を済ませているのか姿が無い。朝に感じたクラス人数の少なさはどうやら学園外部への遠征やインターンといった事情で登校していなかったらしく、朝に予想していたようなクラスメイト全員から疎外にされるかもしれないという危機感はどうやらリュウの拡大解釈による被害妄想だった。

 そんな事実に自身の矮小さを感じながらリュウは次第に強くなっていく幼馴染みからの肘打ちが強くなっている事を脇腹の痛みと共に感じていた。

 

「なぁ、コトハ。機嫌直せよ」

 

「悔しくなんかないもん!!」

 

 中身の無いイチゴオレを吸い上げながら反論するコトハ。

 プラ板工作学の後、午前中の授業は通常通り行われその時から彼女はずっと不機嫌だ。理由は言わずもがな、生徒会長ナガト・シュンとの引き分けである。

 

「相手はあの生徒会長だぜ? あんな化け物相手に引き分けって他の生徒から見たら勲章ものだろ?」

 

「シュミレーター!」

 

 噛まれたせいでグニャグニャになったストローが刺さった容器を置き、机へ自身のアウターギアを取り出して、起動。|投影画面〈ホロウィンド〉が机の中央に展開され、先の戦闘の最終局面が停止映像として映し出された。

 場面はファヴニムートが鎌を振り下ろし、フリーダムがハイマットフルバーストを発射した直後だ。

 

「これがなんだよ」

 

「テンドウ先生の乱入が無かったら、私負けてた」

 

 そう言って動画サイトのシークバーを飛ばすように右手を動かすとコマ送りで映像が進んでいく。フリーダムガンダムから放たれた雷の如く鋭い射撃、その弾着予想地点を見て3人は眉をしかめた。

 フリーダムが狙っていたのはファヴニムートではなく、技を繰り出した鎌。そこへ食い入るようにコトハが口を開く。

 

「私、手加減……、ううん。この技は未完成だから出力を抑えて撃ったの。だから生徒会長のハイマットフルバーストは

 私の攻撃を貫いて鎌を破壊していた。……そうなってたら、私負けてた」

 

「話が見えんてコトハ。なして鎌を破壊されたらコトハの負けなん? 見たところファヴニムートは本体だけでも十分な戦闘力があるし、勝負の行方は分からんやろ」

 

「ファヴニムートはね、各種武装の制御系を鎌に一部回しているの。そうなったら戦闘力は下がるし、生徒会長相手にそれは致命傷」

 

「さらっと大事なこと言ったな自分。ええんか? そんな大事なこと俺らに喋っても」

 

「3人には負けないから良いもん」

 

 机をじっと見ながらコトハが吐き捨てる。リュウだけではなく他にも言葉の矛先が向いていると言うことは虫の居所はかなり悪いらしい。

 そんな彼女を羨ましいと、少年は思った。

 生徒会長という存在は萌煌学園どころか世界的に見ても上位のガンプラファイターであり、そんな彼と対峙して機体を破壊されなかった幼馴染みに。その上──悔しい──と感じれるその感性に。

 自分なら、どうだろうか。

 

「……俺だって、戦いたい」

 

「リュウ君?」

 

「あ、いやっ。ごめん。口に出てたか」

 

 つい1ヶ月前の自分なら出なかったであろう言葉。

 Linkに蝕まれ、目先の勝利しか見えてなかったあの時には確実に覚えもしなかった感情。

 言葉が漏れた事に少年は驚いた。

 

『────珍しい顔が見えるな。久しいな、リュウ』

 

 実直さを帯びた低い声は不意に教室の入り口から聞こえた。

 振り返って姿を確認しようとするが声の主が見えず、それが逆に正体を確信させる。

 

「キノシタ……? 『塗料撹拌部』のキノシタか? ひ、……久し振り」

 

「なんだその他人行儀は。共にどの角度で塗料を撹拌したら最も効率が良いか研究した仲ではないか」

 

 運搬用の台座に仰向けで塗料をかき混ぜながら、片目を前髪で隠したクラスメイトがガラガラと車輪の回る音と共に近付いてくる。

 流石世界有数のガンプラ教育機関。その最高学年となると変人の割合が多い。

 

「また変な台座に寝そべって……何か撹拌の実験してんのか?」

 

「よくぞ聞いてくれた。この台座は隅に塗料瓶を付けて、台座で移動する事によって効率的に塗料を撹拌する事が出来る優れ物だ。──エイジにコトハにマルヤマも居ることだから丁度良い。……お前達、出掛けた先で早く塗装に着手したいと思った事は無いか?」

 

『ある』

 

「同時に、身体を鍛えたいと思った事は無いか?」

 

『無いかな』

 

「かァ────ッッ!!」

 

「わっ! キノシタ君落ち着いて! その腰の動き凄く気持ち悪いから!」

 

 研究を否定されたキノシタが腰を回す事で台座を揺らし威嚇する。身体を動かした拍子に上着がはだけて、そこに覗いた腹筋に一同が驚愕した。

 

「キノシタ、お前……。なんやその腹筋ッッ!!?」

 

「気付いてしまったか。これが今研究している『新塗料撹拌学』だ。モデラーは古くから筋肉不足、そして腰痛に悩まされているからな。この台座はそれらの懸念も解消してくれる優れものだ。塗料を撹拌出来、腹筋も鍛える事が出来、体幹も鍛える事が出来る。……ふっ、来期の『イグプラモデルノーベル賞』は頂いたな」

 

 獲得した暁には萌煌学園の評判がおかしいことになる。

 

「ふん、まぁ俗人に理解されようとは思っていない。お前らの驚愕に満ちた顔が見れただけでも良しとしよう」

 

「え、待ってこれ、私新手のセクハラされたの今?」

 

「ではさらばだ」

 

 勝ち誇った顔のキノシタがその場で仰向けのまま喜びの横回転をし、そのまま出口へと向かう。

 しかし回りすぎたのか軌道は逸れていって出口から少しずれた壁に激突。ガラスの割れた音が小さく響いた。

 

「うおああぁぁぁああ────っっ!!??!? この俺のプレミアムマジョーラクロームプリズムガラスパール4号がああぁぁぁああ────っっ!!??!?」

 

「何しに来たんだよお前ッッ!!」

 

「この俺の研究成果を披露しに来たに決まっているだろうッッ!! ……っと、そうだった。それもそうなのだが、リュウ。お前を探しに来ている人間を見掛けてな、この校舎まで案内してやった」

 

 俺を探している人間? とリュウが疑問を浮かべていると程無くして小さな歩く音が廊下から聞こえてくる。

 

「驚いたぞ? お前にまさか妹が居たとはな」

 

「妹って……、え?」

 

 足音はやがて教室の前で止まり、誰も見えない入り口からピョコピョコと特徴的な銀のアホ毛が覗いていた。

 そしておずおずと顔を出して、ゆっくりと扉の前へと姿を表す。

 白を基調とした青のラインが入る初等部の制服。

 

「リュウさんに、皆さん。……その、こ、こんにちは……」

 

「むおほぉぉおお────っっ!! ナナちゃんどうしたのこんなところまで来ちゃって────っっ!! ああん~! 可愛いよぉ~!! もちもちのほっぺたと戸惑ってる顔最高だよぉ~~!!」

 

「ナナちゃんじゃないか。制服姿似合ってるね」

 

「だぁ────ッッ!! お前らナナから離れろ制服が皺になんだろ!!」

 

「リュウやん……なんやその子……。妹なんかリュウやんの? そこの美少女が……? 髪も白いし、外国人やろな恐らく。ってことはロシアかそこらへんの、義理の妹。────くっそおおぉぉぉおおおおおッッ!!」

 

 ナナの元に群がる幼馴染み2人と叫びながら教室から出ていった友人。

 突然の出来事に少女が目を丸くしていたが、ハッと我に帰った様子で頭を振りリュウの元に駆け足で寄る。

 

「リュウさん、その。ごめんなさい」

 

「おおうどうした! 制服の皺の事なら気にすんなよ。例え授業で塗料を溢しても明日までには皺1つない新品同様に直してやる! それとも、もしかして弁当に嫌いな物が入ってて残しちゃったとかか! それは事前に確認しなかった俺が悪い! 辛子明太子はまだ早かったか!!」

 

「いえ、お弁当箱に入っていた赤い粒々は大変美味しく頂きました。口の中が多少ぽかぽかしていますが。……ではなく、あの」

 

「もしかして珍しい容姿だからって誰かから笑われたか!? どこのどいつだ初等部だからって容赦しねぇぞ!! バウトシステム、スタンバイッッ!!」

 

「お、落ち着いてください。髪の毛や瞳の色を始めとして私の見た目はクラスメイトの皆様からは嬉しい言葉ばかりでした。……しかし、問題が起きてしまいました」

 

 激憤する少年をナナは宥めて、ついと視線を廊下へと送る。

 その目の動きに釣られて一同も顔を向けると程無くしてツカツカツカと、走るのが禁止されている廊下から足早な足音が響いている事に気付く。音からしてかなり急いでいるように思え少年は内心緊張が走る。

 

「高等部3年生。リュウ・タチバナはここにいるかしら!」

 

「ひゃっ、ひゃいっ!!」

 

 高圧的な物言いに思わず肩を竦める。

 しかしそれも一瞬で声音から来る年齢が幼い事に気付き入り口を見やると。

 

(わたくし)の名前は北条院ネネ。初等部の身でありながら高等部の学舎に足を踏み入れた事の非礼を詫びると同時に、リュウ・タチバナ。貴方に言いたいことがあってここまで来た次第ですわ」

 

 生まれながらにして人の上に立つ事を運命付けられていたような声を発して、鮮やかな紫色のドリルツインテールを揺らした少女は胸を張りながらリュウへと人差し指をビシィっ! と指した。

 

「この(わたくし)と、ガンプラバトルなさいっっ────!!」

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