ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章9話『珍しい客人』

バトルシステムの筐体、磨かれ反射した自身の顔を見てリュウは手にしたタオルの動きを止める。

 思い出したのはクラスメイト達の反応だった。

 

「あんま気にしてなかった、のかなぁ……」

 

 自分の高くない実力を隠して周囲には嘘をつき、プロになるためと学園の授業を放棄したあの日。

 そこから半年近くも顔を出さなかった自分にクラスメイト達は大きな反応を見せず、体感だが感じた印象は旧友と会った友人のそれと同じだった。

 

「気にしすぎだった……いや違う。皆、俺に構っている時間なんて無いんだ」

 

 無心で筐体を磨いていたのか、ここで初めて自身の熱を感じ、夕焼けが差し込む貸し出しの教室に1つ溜め息が長く吐かれた。

 どこまで、自分本位な考え方なんだ。

 久し振りに学園へ行ったらクラスメイトがこれまでを根掘り葉掘り聞いてきて返答に困るなんて想像をしていた自分を殴りたいと、リュウは自身の顔が反射した筐体にタオルを被せる。

 

「皆、未来をちゃんと見ているんだ。将来の自分を。……俺も、しっかりしねぇと」

 

 リュウには未だ見えない未来。しかし特進クラス加入という第一の目標へ今はがむしゃらに突き進むだけだ。

 ──アウターギア、接続(コネクト)非稼働状態(ノンアクティヴ)から稼働状態(アクティヴ)

 アウターギアから眼前に投影画面(ホロウィンドウ)が展開され、瞬く間に少年の周囲にプラフスキー粒子で構成された操縦空間(コンソール)が構築される。

 視線誘導でメニューを設定していき、粒子で形成された操縦桿を強く握ると正面モニタに戦艦内部の発進路を模した映像が映し出された。

 

「軽く機体でも動かすか。自機はアイズガンダム。相手は……そうだな」

 

 アウターギアに蓄積された戦闘データ一覧を開くと、そこには過去に戦闘したガンプラ達が表示される。

 改めてとてつもないシステムだと、リュウは画面を見て息を呑んだ。

 戦闘した相手のデータをアウターギアが解析して何度でも戦闘できるバトルシステム。相手との実際の戦闘回数によって解析の幅が広がり、よりオリジナルに近い動きを可能にするこのシステムにリュウはここ1ヶ月程とても助けられていた。

 

 一覧の最も上の項目、一番戦闘蓄積データが多いのは師匠(トウドウ・サキ)のゾンネゲルデ。

 眉に皺が寄るのを自覚しながら視線を強めると選択され、戦闘に邪魔なメニュー画面が消え失せた。

 

 …………

 

 トウドウ・サキは性格が悪い。

 改めて言おう。トウドウ・サキは性格が悪い。

 

 突貫してくるゾンネゲルデが半月刀を構えた時点で大型GNシールドを破棄して自機は背中を向ける。

 最大推進で加速するアイズガンダムのバインダーは戦闘開始時点で高速飛行用のハイスピードモードに切り替えており、その全速力となればゾンネゲルデも追い付くのは難しい。

 最もこの選択肢は今回のフィールドのような開けた場所で無ければ選べないなと、背後から猛追してくる銀の機体に悪寒を感じながら操縦桿に力を込める。

 

 戦闘エリア湾岸はエリアの半分を森林地帯、もう半分が海で構成された比較的広い場所だ。

 アイズガンダムが海の上を走ると波が気持ち良く割けて、眼前に迫る切り立った崖をドリフトに近い制動でカーブ。そのまま崖へ添うように機体を位置させて再び全速力。

 

 接近してくるゾンネゲルデに生半可な迎撃は最大の悪手だ。

 同調ではなく独立した太陽炉だとしても疑似太陽炉6基から成る敵機の推進力は言わずもがな。それも供給される莫大な粒子を全て速度に費やせる構造は、文字通り瞬く間に接近を許す程の早さを実現できる。

 その上装備された近接兵装は盾の上から敵機に損傷を与える中世の魔剣──半月刀(ショーテル)。その二振りとあらば安直な防御はそのまま撃墜への最短√だ。

 ミキシングガンプラに多く見られるような、複数の太陽炉から供給される粒子で多くの兵装を取り回す機体であったなら各部に回される粒子が分散され火力投射から高速戦闘に切り替える際の隙もまだあっただろうが、師匠(せんせい)のゾンネゲルデは供給された粒子のほぼ全てを機体制御と推力に用いるタイプでありその隙も限り無く少ない。

 一応、ディ=バインド・ファング射出の隙と、射出中により太陽炉が離れている状態であればやりようはある。

 

 しかし。

 

「設定で、近接攻撃限定って選択しちまったからな」

 

 武装スロット8、GNバインダー。

 背を向けた状態からばら撒かれるビームにゾンネゲルデは回避の行動を取らない。

 接触したビームは機体表面で拡散されて、僅かに機体制御に誤差を生じさせるだけに留まる。

 

 ──ナノラミネートアーマー。

 

 その装甲特性とGN粒子による空間戦闘を可能にしたゾンネゲルデは、攻撃に偏重した機体性能をどんな敵に対しても押し付ける事が出来る機体だ。

 弾幕を気にせず突っ込んでくる敵機に、しかしリュウの口元には笑みが浮かぶ。

 ビームの出力を上げて、これまで体勢を微細に崩すだけの衝撃が目に見えて大きくなった。

 

「2発。4発7発。11発。────今だっ!」

 

 機体を反転させて体勢を崩したゾンネゲルデへアイズガンダムを突撃させる。

 回避を選択したゾンネゲルデ、その判断は遅く、アイズガンダムの手がバックパックであるファングを後ろから掴んだ。

 

「うおらッッ!!」

 

 操縦桿を横に大きく倒すとファングが無理矢理外されて、反撃に振り返された半月刀へファングを投げつける。

 両断され爆発するファング、その煙の中、状況把握の為足を止めているゾンネゲルデにアイズガンダムは手にした獲物を大きく振りかぶった。

 吹き荒れるGN粒子によって煙を掻き消して、GNバスターライフルを鈍器の代わりにしゾンネゲルデの前腕へと叩きつける。

 バギメギと音を立てて破壊された腕から半月刀が離れ、それをライフルの代わりに掴みそのまま。

 

「────トランザムッッ!!」

 

 GN粒子全面解放。法外な加速力を振り抜く動作にのみ絞る形で、下から上へと狙いを定めて一閃。

 一瞬で崖上間で到達した機体から見下ろせば、そこには無惨に別れたゾンネゲルデがゆっくりと海へと落下していく。

 

「…………やっぱ嬉しくねぇというか、ただの練習なんだよなこれ」

 

 爆発の衝撃で海が飛沫を上げて水柱が上がる。

 ちなみにリュウはゾンネゲルデを墜とした事が無いためこの爆発範囲も全てデフォルトによる爆発エフェクトだ。更に付け加えるとディ=バインド・ファングの使用を許すと一撃がそのまま敗けへと繋がるため、ファング仕様可能状態のCPU相手でもリュウは一度も勝てていない。

 しかし、近接攻撃限定の設定でも勝利出来るようになったのは最近で、戦闘を始めた当初は下手な迎撃を何千回と破られてそのまま敗北の山を築き上げていた。

 

『ほぇ~~~~~~』

 

「しっかしアレだな、CPU相手にずっとやると変な癖が付いちまうからそこは気を付けねぇと。また都合聞いて空いてる時間にシゴいて貰うか」

 

『わはぁ~~~~~』

 

「……師匠(せんせい)なら俺がバインダーガンで牽制した時点で一旦距離を離す、あの人はどこまでも論理的に勝利を目指すからな。とすると、分かれ目は初めの俺側の逃げだ。あそこで師匠(せんせい)ならどういう行動するか、また今日は徹夜だな、ナナに言っておかねぇと」

 

『きらきらきらきら…………』

 

「ん?」

 

『わひゃあっっ!!』

 

 思考の中に聞こえる小動物のような声にようやく気付いて視線を入り口に送ると、1人の少女が肩を跳ねてドアの影に隠れた。

 

「中等部……、いや、初等部の生徒か? ごめんな、今この教室俺が借りてて」

 

「し、知っています。リュウ・タチバナさんですよね?」

 

 声の主は姿だけ見せず、ドアに掛けられた小さな手とウエストポーチに付けられた兎の耳がはみ出して返答をする。

 おっかなびっくり話すその声にどこか記憶の琴線が触れて、そこでようやく思い至った。

 

「君、もしかして昼に教室へ来た……」

 

「ひゃっ、お、覚えてて下さったのですか」

 

「ナナが連れてきた子だろ? 名前は確か……」

 

 ここでようやくゆっくりと顔がドアから覗き初めて、少しでも声を掛けてしまえばすぐに引っ込むような様子でこちらに声を掛けた。

 

「ア、アオカです。アオカ・オオゾラですっ……。ほぇ~~~……」

 

「リュウ・タチバナだよろしく。食って掛かったりしないから、そんな怖がらないで良いぞ」

 

「あ、ちちちち違うんです! 私が悪いんです、私! 緊張しがちなので!」

 

 よく分からない理論を叫んで声の主はようやく姿を現した。

 そういえばこの高等部になって校舎が離れてから下の生徒と話す機会が無かったなと考えていると、目の前の少女の視線が筐体へ向いている事に気付く。

 

「バトルしたいのか? 俺で良ければ練習に付き合うけど」

 

「ややっ!? 本当ですかっ! あっ……でも、私と戦ってもきっとつまらないです。私、今日も沢山負けて……」

 

「アオカ・オオゾラ。初等部3年生、使用機体は主に狙撃機でレギュレーションは400が多いと、ふむふむ」

 

「わわっ! 非公開設定にしておくの忘れていました! 見ないでください! 恥ずかし────」

 

「勝率12%」

 

「カハッ!!??!?」

 

「吐血!!?」

 

 慌てて駆け寄ると吐血ではなくリアクションだったようで、生まれたての小鹿のようにプルプルと脚を震わせながら立ち上がった。

 

「私、弱いんです。弱すぎて先生が「はいじゃあタッグを組みたい人でペアになってください」ってシチュエーションになるといつも私が余るんです」

 

 自分への卑下の仕方がユナみたいで面白い。

 涙目の少女に背を向けて筐体の前へと立ち、アウターギアでメニューを選択していく。バトル相手はアオカ・オオゾラ。

 

「俺で良ければ見るよ。好きなんだろガンプラが。じゃなきゃ低い勝率でそんなに沢山バトルしない」

 

 リュウが内心驚いたのは少女の戦闘回数だった。

 1日の平均戦闘回数は100を越えて、これは義務教育も平行して行っている初等部の生徒では中々実現が難しい回数だ。

 こういった人間は些細なきっかけや間違いを修正するだけで大きく伸びる事が多い。

 

「俺も、そうだったから」

 

「へ??」

 

「俺も昔は3割、いや2割だった。勝ち方なんて分からずに一方的にやられることが多かったけど、好きなガンプラで勝てたときの嬉しさが忘れられなくて続けてたんだ」

 

 正直、勝ち方について真剣に考えたのは師匠(せんせい)との特訓が始まってからで、それまでは教科書の延長上の戦略しか見えていなかった。基本を押さえた人間にはまず通じない戦法で、それをここ1ヶ月で痛感をした。

 

「俺も狙撃に関しては練習がしたかったんだ。一緒に上手くなろうぜ」

 

「ひゃっ、ひゃいっ!!」

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