辺り一面の平原だった。晴天の空と遠くに覗く湖、青々とした草原が広がるエリアが大部分を覆う
出撃ゲートは地表からやや上空で開かれて、落ちていく世界の中リュウはその自然に一瞬意識を奪われる。
それは自然の美しさを再現したフィールドの作りに感動したからではなく、このフィールドが今からどう蹂躙されるのかを想像したからだ。触れがたい美が抗いようのない暴力によって壊されていく光景、そこに生じる一種の背徳感はリュウも嫌いではない。
無論、自らも壊されたい等とは露にも思わず、リュウはHi-sガンダムの機体を地面へと着地させた。
シナンジュ・スタインの脚を利用したビルドパーツの脚部、GN粒子搭載機ではまず聞くことの出来ない重みのある着地音が戦場に響く。
同時に索敵センサーが敵影を捉えた。敵機の位置は正面ど真ん中やや遠く、動きもせず此方の出方を待っていた様子。
『初めに言っとくが、気張んねェと即死すんぞ?』
「やってみろ。アンタの機体は有名過ぎる、対策wikiも散々読んだからな」
操縦桿が前に倒され機体──グラキエスとの距離が縮まる。
白と銀の基調にグラデーションとして彩られた蒼は凍てついた氷を彷彿とさせ、元の機体となるゴッド・ガンダムとは対照的なカラーリングは同時にグラキエスがどういった機体かの証明だ。
突如、
敵機もその場から動いた様子もなく遠隔武装の影も見えない。それでも背筋に感じた悪寒は間違いでは無く、半ば無意識に横へ倒した操縦桿によって機体は回転しながら体勢を建て直す。
慌てて元の位置を見れば
『避けたか。お勉強の成果が出て良かったなァ!』
「くぅ────ッッ!?」
再び鳴った
設定完了と同じタイミングでHi-sガンダムの機体を
グラキエスが行った攻撃は、一定範囲内の任意の対象を凍結させる座標攻撃。
予備動作無しで行われるこの座標凍結は機動力が高くない機体に対して非常に有効であり、レギュレーション600帯までならこの攻撃だけで戦闘が終了するグラキエスの十八番だ。
蓄えていた知識を体験に基づいた見識にしている中、3度目の
武装スロット1、GNザンブラスター。
アルケーガンダムの持つGNバスターソードと他パーツによるスクラッチで作られた大型の実体剣、GNコンデンサを内蔵した剣の刃が2つに分かれ、間から覗く青色の閃光。
放たれたそれは正確にグラキエスの位置へと突き刺さった。
『ハッ! 良い一撃じゃねぇか!』
「iフィールド……! いや、ナノラミネートアーマーか、もしくはその両方か」
グラキエスは高密度に凝縮されたビームを掌で弾き、機体に損傷は見られない。
だったら、
「座標凍結は次の座標凍結まで2秒のインターバルがある。ここなら、アンタの攻撃は届かずに俺の攻撃は届くッッ!」
GNザンブラスターを天に掲げて分かれたままの刀身の間にビームの刃が定着する。放出されたままの粒子の刃は蒼く輝いて周囲を冷たく照らしつけた。
ダブルオーガンダムが度々使用するワイドカッター、そのギミックからヒントを得たHi-sガンダムの新武装だ。
『凍れッッ!』
「遅いッッ!」
機体に氷の粒子が定着するも、それらさえ掻き消して粒子の刃がグラキエスへと迫る。
先程撃ったビームは牽制であり、威力は油断を誘うための最低の設定。対してワイドカッターは最高出力による物で、あわよくばこの攻撃で倒されて欲しい。
────などと言う思考はビームの刃がグラキエスの前で静止した光景を見て凍てついた。
「ビームが、止まった…………?」
『
ビームの刃は掌に触れて止まり、そのまま指で掴んでビームがひび割れていく。
ガシャン! と音を立てて割れて落ちた粒子は淡く消えて、自然と視線がグラキエスへと導かれた。
『学園の雑魚共相手じゃ弱すぎるからどうしたもんかと考えていたんだが、ちょっとテメェ付き合えや』
グラキエスの背部スタビライザーが変形する。
同時に
6枚の羽のように開いたスタビライザーからは蒼の冷気となった粒子が放出され、見る見るうちに足元の草原が凍り白の世界へ変わり果てる。
その様子を見て、グラキエスの二つ名を思い出した。二つ名とは世界で活躍した機体にのみ与えられる称号であり、その機体を端的に表すものとなっている。ゴッド・ガンダムに搭載されたハイパーモード、それをグラキエスが持つ凍結能力に特化させたオリジナルのシステム。周囲の風景を強制的に書き換えるそのシステムを発現した状態の二つ名は……!
「────″氷界のグラキエス″……ッッ!!」