ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章15話『心から』

 見渡す限りの草原の中央、白の布に滲んでいく黒い塗料のように青々とした緑が白銀に侵食されていく。芯まで凍り付いた草達はグラキエスから発せられている冷気の風を受けて脆く崩れていき、生命を感じさせない極寒の世界へと塗り替えられていた。

 

「ザンブラスターッ!」

 

 出方を見る為に右手の大型剣から放たれたビーム。直撃コースの軌道を取った粒子に対してグラキエスが取った行動は、あろうことかこちらへの跳躍だった。

 直進するビームに対して体当たりするかのようなグラキエスの行動、案の定直撃するもビームはグラキエスに触れるや否や拡散して後方の平原に穴を開けた。

 

 目を見開くも驚きに動きを止めている暇はない。

 

 グラキエスが迫っているということは明らかな攻撃の意思だ。リュウガと名乗った特進クラスの生徒はリュウに攻撃を当てる算段を立てており、恐らくその攻撃は常識の範疇から外れた規格外な戦法なのだろう。

 ザンブラスターで接近戦をしようにも、既に加速をしているグラキエス相手では力のぶつかり合いで敗北は必死。かといって逃げによる引き撃ちでダメージを与える事は先程ビームを無効化された事実で考えられない。

 

 だったら。

 

 駆け巡る戦術の思考から1つを選び抜く。トウドウ・サキとの修行の中にはこんな場面、星の数ほどに遭遇した……! 

 

『ハッ! 向かってくるか! 生意気ッ!』

 

 GNザンブラスター出力最大。前方推進力集中。

 Hi-sガンダムが駆けた。

 構えは脇構え、カウンターの型。

 直進するグラキエスは更に速度を上げて、その加速に判断が僅かに遅れる。

 

『コイツ……! 刀身が、GNフィールドを……!』

 

「Gガン系統の機体とまともに殴り合うなって散々叩き込まれたからな……!」

 

 脇構えは左半身を相手に晒け出すという諸刃の型。相手の攻撃は当然ガラ開きである左半身へと繰り出されるわけだが、その攻撃に対して右腰で溜めた反撃の刃が先手の攻撃を刈り取る。

 タイミングが合わなければ致命傷、文字通りのハイリスクハイリターン。

 グラキエスが放った正拳突き、いなしたと思ったその一撃は予想以上に重く横に流すため曲面状に展開したGNフィールドを正面から突き破った。

 

「左肩の装甲破損、けど距離は取れたっ」

 

『やるじゃねェか! 誰に習った今の小細工はよォ!』

 

 直進したグラキエスは慣性の法則に従ってそのまま空中へと飛んでいく。Gガン系列といった白兵戦を得意とする機体は造りが人体に近いことが多く、肉弾戦といった動作の前には必ず予備動作が発生する都合上僅かな隙が必ず生じる。

 リュウは機体を反転させてザンブラスターに展開させていたGNフィールドを解除、そのまま射出する為のビームへと変換しカウンターの射撃を狙った。

 

「正面がダメなら後ろから!」

 

 真昼の戦場が蒼の閃光で切り裂かれる。夜闇に流れる彗星のよう迸るビームの光は機体を反転させているグラキエスへと吸い込まれていく。

 ビームとグラキエスの間。

 そこへ突如として巨大な氷塊が出現しビームが直撃した。

 

「座標凍結……! そうか、防御にも転用出来るのか!」

 

 過去のグラキエスの戦闘データは殆ど試合時間が短く、それも座標凍結によって敵が成す術もなくやられていくような展開ばかりであり、ここから先はグラキエスがどんな手段でバトルを進めていくか見当が付かない。今の座標凍結ですら警告音(アラート)が追い付く暇もなく繰り出された埒外の魔法だ。

 ビームを受け急速的に蒸発していく氷塊の向こう、グラキエスが居た空中に再び巨大な氷塊が出現しそのまま炸裂した。

 空中に氷の足場を作って無理矢理方向転換したのかと思考する同時、立ち込める水蒸気の中から弾丸のよう飛び込んでくる蒼の機体。

 拳を構えた、グラキエスだ。

 

『良い判断だったなァ? 対Gガン系統への回答としては、まァ及第点だ』

 

 獰猛な笑みの気配。

 射撃の体勢から未だ回復出来ていないHi-sガンダムは猛追するグラキエスへの迎撃手段を持たない。

 それどころか。

 

「機体が……!? 制御を受け付かないっ!?」

 

『グラキエスが()()()()()()()()。そりゃ、そうなるだろうぜッ!!』

 

 グラキエスが発生させている冷気がHi-sガンダムの機器系統を凍結させたのか、操縦桿による回避も攻撃も入力を受け付けなかった。

 それを頭で理解する頃には機体間の距離は至近距離。

 

『テメェの瞬発力や対応力、もっと見せてみろやァ!!』

 

 Hi-sガンダムの後方に巨大な氷の壁が形成される。それは後方への回避を許さないというよりは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 拳を右腰で溜めたグラキエス、全体を覆う蒼の冷気が急速に右拳へと収束していく。

 

『────凍破ッッ!! 烈光拳ッッ!!』

 

「────────────────っっ」

 

 機体は、動いた。

 グラキエスが拳を繰り出す瞬間グラキエスを覆っていた冷気が一瞬弱まり、予め機体の粒子出力を上げておいたのが功を奏したのだろう、弾かれたように機体が動き大型剣を構えて防御の姿勢を取る事が出来た。

 ただ、防御の姿勢を取っただけ。その行為が果たして防御の意味を成し得たか。

 後方に展開された氷の壁は文字通りの木っ端微塵と化し、衝撃はHi-sガンダム1機へと全て打ち込まれた。

 そして氷の壁でさえ受け止めきれなかった規格外の攻撃に、Hi-sガンダムは直線上の軌道で吹き飛んでエリア外を告げる不可視の壁へと激突し落下する。

 

 コンソールは継続戦闘不能を告げる(レッド)を示し、機体状態に至っては人の形を保っているだけで四肢が意味を成さない、かろうじて人の形をしているという奇跡的な状態だ。

 無論GNザンブラスターは全壊し、拳を受けた時点でバラバラに粉砕されている。

 満身創痍となったHi-sガンダムの元へ音も立てずグラキエスが着地した。

 

『俺から吹っ掛けた喧嘩だったが、まァ楽しめたぜ』

 

 グラキエスが近い、必然Hi-sガンダムが凍結されていき、GN粒子を機体表面に纏う事など出来なくなった影響で氷がHi-sガンダムを柱状に覆う。

 1歩グラキエスが歩み寄った。

 

『さっきは妹の事になって頭に血が上ってた。テメェ名前はなんて言うんだ』

 

「…………」

 

『っとと、あれか。システムもイカれたか。しゃあねェ、このままバトル終わらせてから聞くか』

 

「…………、だ」

 

『あ? 聞こえんじゃねェか。久し振りに学園の生徒で楽しめたんだよ。テメェの名前教えろ』

 

「リュウ、だ」

 

 操縦桿へと操作を入力。

 武装スロットEX。TRANS-AM。

 スクラップ寸前となったHi-sガンダムだが辛うじて太陽炉は生きていた。

 機体を隙間無く埋めていた氷へ、TRANS-AMによって放出されたGN粒子が氷を押し退けようと力が加わる。

 太陽炉が途中で壊れるかもしれない。それでも打てる手があるなら泥臭く打て。

 自分より強い人間がいるならば、ソイツよりも多く弱いなりに手を打てと。嫌みったらしい師匠(せんせい)から教わったから。

 氷に、大きな亀裂が入る。

 

「俺の名前はリュウ・タチバナッッ!! アンタと同じ特進クラスに入ろうとしてる只の生徒だッッ!!」

 

『……!』

 

 機能ほぼ全損(システムオールレッド)

 しかしそれは機体の話であり、Hi-sガンダムから離れた遠隔誘導攻撃端末はなんの影響も受けていない。

 グラキエスから一撃を貰った際、射出しておいた4基のファングは全て無傷だ。

 突貫。ファングの先端にビームの刃を最大限展開し頭上からグラキエスを襲う。初めからダメージを与えられる等とは思っていないそれは要は目眩ましであり、ファンネルミサイルと同じ運用をされたファングは自爆を厭わない突進力でグラキエスの背部ユニットで爆散する。

 グラキエスは無傷、2基3基の直撃を受けてそれでも微動だにしないグラキエスはリュウの全ての攻撃を受けきろうとしているのか、はたまた別の事を考えているのか。

 4基目の最後のファングが直撃して水蒸気の煙が立ち込める中、Hi-sガンダムはグラキエスの背後を取る。移動の衝撃で四肢が抜け落ちて達磨の状態、往生際も悪くグラキエスを背後からタックルした。

 全推力を集中させたTRANS-AM。狙いは敵機のエリアアウト、それでもグラキエスは動かない。

 

『テメェ、どうして特進クラスに入りてェんだ』

 

「俺はッ、最低な事をした! 取り返しの付かない事の連続だった! それでも! 俺を必要としてくれる奴らがいて、応援してくれる人達もいてっ! ……確かめたいんだ! 俺はこの世界でやっていけるかをッッ!!」

 

『……嘘は、無ェな?』

 

「あるもんかッッ!!」

 

 少女の手を取ったあの夜。

 少年の助けを見捨てた出発の朝。

 親友を裏切った、あの時。

 

「もう俺はァ!! 嘘は付かないんだぁぁ────ッッ!!」

 

『うし分かった。これから気張れやタチバナ。選別にくれてやるよ』

 

「え…………??」

 

『俺に勝ったって箔は何かと役立つぜ』

 

 バゴンッッ!! とグラキエスはHi-sガンダムに押されながらもそれを感じさせない動きで右手を振りかぶり、一撃でエリアアウトを防いでいる不可視の壁を叩き壊す。

 そしてそのまま1歩、また1歩と悠然として歩いていった。

 

 Winner、リュウ・タチバナ。と戦場の中央に文字が出て、正面モニタにも勝者の文字。

 意味が分からずにグラキエスへタックルしながら、リュウは愕然と現実を理解しようと試みた。

 勝ったんだ。勝ってしまったんだ。

 特進クラスの生徒に、第4席に。

 

 生徒会執行部部長兼特進クラス第4席リュウガ・オオゾラ対、普通科3年リュウ・タチバナ。

 勝者、リュウ・タチバナ。

 

 この一報は学園へと瞬く間に広まり、後に到来する出来事で大きな意味をもたらす結果となる事を、少年はまだ知らない。

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