ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章17話「香る月」

「おかえりなさいリュウさん」

 

「あぁただいま。少し遅くなっちまったな」

 

 リュウが帰る頃には普段の帰宅時間を1時間ほど超えている時間帯で、すっかりナナに連絡する事を忘れていたせいかテーブルの上には既に多くの料理が並び尽くされていた。

 それでも食欲を刺激するにはオーバーキルな香りであり、自身が空腹だった事を身体が思い出して腹が鳴る。

 

「ナナごめん! 急な用事でバタバタしてて連絡すんの忘れてた!」

 

「トウドウ•サキ……先生との修行だったなら仕方ありません。今料理をレンジでチンするので座って待っていて下さい」

 

「あ、その、今日は師匠(せんせい)ではなくて」

 

「エイジさんとでしたか? ……ふふ、確かにこうして見ると普段より眉間にしわが寄っていますね」

 

 柔に微笑んだナナが座っているリュウに顔を近付ける。

 すると大変後ろめたい気持ちが込み上げてきて、リュウは思わず顔を逸らした。

 

「今日は、その、エイジとでも無かったんだ」

 

「? ではどなたと……?」

 

「アオカちゃんと……」

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「アオカさんと、何を」

 

「あのその、1人で機体の調整してたら部室にアオカちゃんが来て、成り行きで練習に付き合って……。でもあれだ! その後アオカちゃんのお兄さんが来てバトルに!」

 

「途中まで2人きりだった、という事ですね」

 

「はい」

 

「そうですか。ん、温めが終わったので取ってきます」

 

 詰め寄り方に反してサッと離れるナナ。

 何故か胸を撫で下ろしていると食事の準備の音ではない何かが聞こえてくる。

 耳を澄ますとキッチンで支度をしているナナからだ。

 

「カンナさんへ。カンナさんが言われた通り学園へ行くようになってからリュウさんは他の女性との交流が増えまして、今日遂に身体に女性の体臭を付けて帰宅されました。相手は私と同じクラスの女の子です。『もぐ』という行為に移るのはいつにしますか?」

 

「ナナさぁ────んッッ!!? 何を携帯に打っているのかなぁ────ッッ!!?」

 

「リュウさんはお料理が運ばれるまで座っていて下さい。今入力していたのはカンナさんへの定時連絡です気にしないで下さい」

 

「最後の一文を聞いて気にしない男なんていねぇよ!!」

 

 ──────────

 

 

 夕飯を終えてガンプラのメンテも済ませて残りは寝るだけとなった時間。

 外では時折寝ぼけた蝉が一瞬鳴いたりしていて、そんな間抜けな蝉を意識の片隅で聞きながらリュウはリュウガとのバトルを思い出していた。

 目を閉じれば身震いのするグラキエスの威容、そしてリュウガが繰り出す卓越したマニューバ。今朝に見た生徒会長の駆るフリーダムと劣らない蒼白の機体は意識しただけで身体が泡栗立つ。

 

 決して戦略が通用しない相手では無かった。まずその事実にリュウは自身のバトルの腕が上がっている事に喜びを感じて、それでいて本気になったグラキエスに手も足も出なかった事が何よりも悔しかった。

 掌が握られて爪が皮膚に食い込んでギリ、と音が鳴る。

 

「勝ちてぇ……」

 

「どうかしましたかリュウさん」

 

 すると鈴のような声が傍から聞こえてきた。

 月夜に映える銀の少女。ナナが薄いタオルケットを抱えて言いながら身体を横にした。

 

「今日、また負けたんだ」

 

「ん。そうですか」

 

「初めは良い感じだったんだけど、向こうが本気を出したら子供みたいにあしらわれてさ。それがすげぇ悔しい」

 

 勝負では勝っていたのに勝利を譲ったリュウガ。その意図は測りかねるがガンプラバトルとしての腕前の差は歴然であり、少なくともリュウにとっては敗北にあたる結果だ。

 

 そうやって胸を焦がしながら壁に向かって話すリュウの背中に小さな手が添えられる。

 悔しさに身を焦がすリュウよりも熱い掌、ナナの手が少年の鼓動を確かめるよう静かに時間が流れる。

 

「ナナ……」

 

「今日までお待たせしてすみませんでした。()()の方、完成しました」

 

「機体って、そうか。俺達一緒にまた戦えるのか!」

 

 身体を反転させて気持ちに任せたまま少女の手を取る。

 

「やっと、リュウさんの力になる事が出来ます。私、嬉しいです」

 

「俺だって嬉しいよ! ありがとな! このっ!」

 

「……えへへ」

 

 髪の毛をわしゃわしゃしているとナナがピクリと動き、やがて銀の髪をリュウの胸へと擦り付けてきた。

 

「なにやってんだ」

 

「……アオカさんの匂いがするので上書きを試みています」

 

「え、風呂入ったんだけどな。気のせいだろ」

 

「嫌なんです。リュウさんの身体から他の人の匂いがするのが」

 

「そうですか」

 

 猫か。

 取り敢えず気の済むまでやらせておこうと思いリュウは天井を見上げる。

 1人で寝るには大きなベッド、その隅っこがリュウの領域なのだが少女は決まって隅っこまで付いてくるのだ。

 世間体で今の自分を見るのならば間違いなくアウトな現場だろう。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「ははっ、寝るの早過ぎだろ」

 

 抱えたままのタオルケットを少女から取ってそれを掛ける。

 そしてベッドの反対側まで逃げて、ようやくリュウは睡眠の為に目を閉じるのであった。

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