ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章21話『もう、』

 薄暮に染まった校舎からはまだ、多くのガンプラバトルが行われておりエフェクトの音声や熱狂が遠く聞こえる。

 

「エイジさん今日はありがとうございましたっ!」

 

「こちらこそ。明日のバトル応援してるよ」

 

 ぺこりと兎のポーチを揺らしてアオカは頭を下げた。先程までの集中が未だ抜けていないのか額にはうっすらと汗が浮かんでいる。

 

「リュウさんにナナちゃんもありがとうございました! ナナちゃん、また明日ね!」

 

「はい。また明日」

 

 そう言って手を振るとおさげの少女は校門から出て行った。

 ナナとの調整中、悟られない程度に向こうの様子を見ていたが思わず感心の溜息が出たのを覚えている。

 確かにあの戦法ならアオカは輝けるだろう。

 明日の報告に期待しつつリュウは次の用事へと身体を向けた。

 

「……リュウ、俺も着いていくぞ」

 

「エイジ……?」

 

「顔に書いてあるぞ。「今からヤバいところに行ってくる」って」

 

「ハハ、敵わねぇな。……じゃあ来てくれ、正直頼もしい」

 

 結局アレから連絡が取れないままで、学園都市に戻ってきてから毎日足を運んでいる場所。

 あの人物が今どういう状況なのか、リュウとナナは把握していなかった。

 

 ────────────―。

 

 山岳地帯を切り拓かれて建てられた学園都市、その最も標高が高い場所に位置するここ萌煌学園は校舎の裏はすぐに手付かずの自然が広がっており、ここはまさにその境界線と言ったところだ。

 

 入り口から少し遠のいた所で足を止め、リュウは人影を周囲に探す。

 研究棟、入り口。

 やはりいつもと変わらず人の気配は無く地下へ続く空間がどうなっているのか様子も伺うことが出来ない。

 

「研究棟か、来るのは初めてだが人の気配が無いな。いつもこうなのか?」

 

 エイジが研究棟への入り口をぐるりと回って、そのやたら高設備な出入り口を見て口にした。

 自動ドアの前に設置されてある認証機器。萌煌学園の生徒が所持しているデバイスをかざす事で入ることが出来るこの設備はセキュリティレベルが存在しており、リュウのデバイスでは侵入することが出来ない。

 

「いつもこんな感じだな。前は俺のデバイスでも入れたんだけど、今はもう入れなくなってる」

 

 誰が調整したのかは言うまでも無く、あの冷えた理知的な瞳がすぐさま脳裏を横切った。

 そしていつものようにデバイスをかざす、そしていつものようにエラーの文字が吐き出される。

 

「リュウさん……」

 

「分かってる、こんな方法じゃ入れない。何か別な手段を考えないと」

 

「違います、誰かが、来ます」

 

「えっ?」

 

 疑問符と靴が草を踏む音は同時だった。

 サク、と接地面積の小さな靴での音。それはリュウやエイジが履いているような靴では無く女性のヒールで踏んだ音に似ていて。

 

「────リホ•サツキなら居ないわよ」

 

「……っ、師匠(せんせい)

 

 一陣の風が吹き抜け木々がざわめく。

 夕焼けに逆光するトウドウ•サキが微かに笑みを浮かべながらこちらを見据えていた。

 

「サツキ先生の場所知っているんですか」

 

「知らないわ? けど、居ないということは知っている。長期出張中よ彼女。教師の会議にも出てないわ」

 

 言いながらトウドウは歩みを進めリュウ達と同じく認証端末の前に立ち、教員が持つ最高レベルのデバイスをかざす。

 

「え!? エラー……?」

 

「見られたくないものが、あるのかしらね」

 

 エイジの驚愕にトウドウが言葉を続ける。

 

「貴方達、今のは見なかった事。そして誰にも言わない事。良いわね」

 

「別に誰にも言うつもりは無いけど……、師匠(せんせい)のデバイスでも入れないってそんなにおかしい事なんですか?」

 

 トウドウの瞳を訝しげに覗くと返ってきたのは大きな溜め息。そのまま豊満な肉体を閉じ込めているスーツに手を入れて1つのカードを取り出して見せた。

 

「忘れたなんて言わないで欲しいのだけれど、私は学年主任と特進クラスの主任を務めているの。初等部中等部の主任ならいざ知らず、私はこの学園で最も高い入室権限を与えられているのよ、つまり」

 

 蛇の眼が端末へ絡みつく。

 

「有り得ないのよ、こんな事は。……一体いつから」

 

師匠(せんせい)……」

 

「今日はもう帰りなさい。初等部の生徒の下校時間は過ぎているわ」

 

 横目でナナを捕らえながらトウドウ•サキは去っていった。

 その日、3人はその場で解散する事となる。

 

 ──────────────。

 

「リュウさん、お風呂が沸きました」

 

「あいよーん」

 

 言われるがまま脱衣所へ。

 結局あの後どこにも寄らないまま寮へ帰り、考えに耽っていた。

 即ち、リホ•サツキがどこへ行ったのか。

 ナナを学園へ入学させた真意と、リュウへ行った実験とはどのような内容だったのか。

 聞きたい事は山程あるのに、どこへ行ったのか行方知れずなのは心に靄を発生させるに容易であり、極め付けはトウドウ•サキでも知らないという事実。

 一体何がサツキの周りで起きているのか、リュウは思考を巡らせるが答えは出てこない。

 

「実験、に関係あるんだろうな」

 

 実験と呼称する以上そこには目的と指示をした人間が存在する。

 リホ•サツキは実験においてどのような存在だったのか、思考は無限に脳内を巡る。

 シャワーの音が思考のざわめきに共鳴するように、ノイズにも似た水の音が浴室に反響した。

 

師匠(せんせい)、サツキ先生とは知り合いだったのかな」

 

 悲しい瞳をしていた。

 蛇のように物事を獲物としてとらえている不気味さを持ちながら、その奥には悲しみに似た色がリュウには見て取れて、それが少し意外だった。

 

「お湯加減どうですか?」

 

「……まだシャワーだ」

 

 そもそも何故トウドウ•サキはあの場に現れたのか。

 疑問が疑問を呼んで、リュウの耳には全ての音が曖昧に聞こえている。

 

「良ければお背中洗いましょうか?」

 

「あぁ頼む」

 

 ガラガラガラ。

 慎ましく開かれた脱衣所への扉。

 流石に水音とは違う物音にリュウは横目をやると、そのまま湯船へと飛び込んだ。

 

「ナナさんんんん!?!? な、なにをしている!?」

 

「お背中をお流ししようかと」

 

「何でだよ!? 今までそんな気配も無かったでしょ!!」

 

「実はカンナさんから前々から勧められていたのです。『裸の付き合いをすると距離が縮まるわよ! 手始めは背中を流す事!』と」

 

「何を吹き込んでんのアイツ!?」

 

「あと『考え事してる時なんでも適当に流すからその時がチャンスよ』と」

 

「待って俺のこと知り過ぎ!?」

 

「それでは失礼します」

 

「ままま待て待て待て!!」

 

 目の前に現れたのは白銀の少女。

 タオルが身体に巻かれており、少女専用のボディタオルを既に手にしていた。

 石鹸で泡をモコモコさせ準備万端と言わんばかりの様子にリュウはどうにか反論する。

 

「お、おかしいだろ! こんなの、誰かに見られたらどうすんだよ!」

 

「今は誰も居ませんよ」

 

「初等部の女の子と一緒にお風呂なんて世間一般で言うところのアウト!! 法律的にもアウトなの!!」

 

「その前に私はリュウさんの妹という設定の筈です。小学生の妹が兄とお風呂に入るのは世間では常識の範疇です」

 

「そもそも!! 恥ずかしく無いのかよそんな格好で男の前に出て!!」

 

「リュウさんの前なら、恥ずかしさなんてありません」

 

「あ、あぅあぅ……!!」

 

 にじりにじりと歩みを進める少女。気付けば湯船の際まで追いやられており、ナナの顔が徐々に近づいてくる。

 微かに笑みを浮かべている表情にリュウは戦慄を覚えずにはいられなかった。

 

「誰の入れ知恵だ今の問答!! 黒幕がいんだろ絶対!!」

 

「リュウさんのお母さんです」

 

「あのクソババァ!!」

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