「アオカちゃんには今日、付け焼き刃の回避行動を覚えてもらう」
人差し指を立てたエイジさんが笑顔でそう告げた。
付け焼き刃の回避行動、これが果たしてどんな意味があるのか。先程行ったザクへの狙撃は残念だけどいつも通り外して、陣形についてもおかしな事を言われてほんとは頭の中がグルグルしている最中だ。
そんな少女の顔が固まって数秒、しゃがみ込んだエイジがアオカの視線と同じになりながら言葉を続ける。
「アオカちゃんが練習してる間、アウターギアで試合のリプレイを何個か見たんだけど。……アオカちゃん相当舐められてるね」
「うっ……! そ、その通りです」
「これは武器だよ。逆手に取らなきゃ勿体ない」
不思議な事を言うな、と思った。
弱い事の何処が武器なのだろう。わたしはネネちゃんのように突き抜けて強い訳じゃないし、他のチームメイトのようにそつなく何でも出来るわけでもない。
居るだけでチームの邪魔でCPUの機体の方がまだ仕事をしてくれるとさえ思う。
「この試合を見て」
少女が思考に耽る中、空中へ投影されたのは別の市街地での戦闘映像だ。戦場には定点カメラが複数設置してあるのかワイプが4つ端に表示されて戦況を細かに確認出来る。
「多分勝手に流しちゃいけないんだけど、……これヴィルフリートさんって人の戦闘映像」
「ヴィルフリート? ど、ドイツの英雄と同じ名前ですね?」
「いや、本人だね」
「えぇっ!?」
思わず声が出てしまった。
普段バトルの事は必要以上に見ないアオカでも、その人物が動画サイトやテレビで毎週のように取り上げられている事は知っている。
ドイツの英雄、軍神、軍略。軍人としてもガンプラファイターとしてもトップレベルのヴィルフリートの知名度はアオカでさえ知っている程だ。
「彼がこれから行う行動、これの真似事を覚えてもらう」
「ヴィ!? ヴィルフリートさんのですか!? むむむむ無理に決まってます! わたしなんかに出来っこないですっっ!」
「まーまー、物は試しって事で」
「ひえええええ!!」
…………………………
正面モニタに表示されたマップのナビには自身を示す青のフリップとアオカを追い掛ける赤の敵性フリップが3つ点滅しており、少女が進む先は間もなく袋小路だ。
『追いかけっこはもう終わりか? あぁ!?』
『僕にやらせてよ! さっきアイツの弾当たりそうになったんだから!』
『アンタたち、そういうのは先に倒したもん勝ちでしょ?』
オープンチャンネルで同級生達の会話が周囲に反響する。
ここは市街地の端、味方の初期位置とも離れたエリアとエリア外の境界線付近だ。
『……んとだ』
『あぁ!?』
突如としてアオカからもオープンチャンネルでの音声が聞こえ、その場の全員が思わず耳を傾ける。
今までの授業の戦闘において少女がオープンチャンネルで何かを話すことが無かったからだ。
『1200』
『は? 何だお前、俺たちにやられ過ぎて遂に頭でもイったか?』
少年たちは気付いていない。少女から聞こえる声が、操作ミスによって偶然オープンチャンネルへと切り替わった事に。この音声が全て少女から漏れる感嘆の独り言という事に。
『理解、しました……!!』
突如として少女が駆るジムコマンドが少年たちの後方に位置するビルを狙撃し、元々戦闘で破棄された市街地という事も相俟ってビルが倒壊する。
突然のビルの倒壊に少年たちは振り向き、しかし倒れてくる位置はやや離れ機体に影響は全く無い。
『何が、やりたいんだよテメェはよ!』
『もう付き合ってらんなくない? やるよ』
『さんせ〜。お先に〜』
痺れを切らした1機がビームサーベルを抜く。
狙撃機がこの距離でサーベルを抜かれるという事はそれだけで致命的であり、逃げ場がない以上最早助かる手立ては絶望的だ。
振りかぶられたビームサーベル、爛々と輝く粒子が次の瞬間にはアオカのジムコマンドをライフル共々両断する。
少なくともそう思っていた同級生の少女の思考は左右から瞬くマズルフラッシュの閃光の意味を把握する前に機体が爆散する。
『な──にぃ』
『って、わ! オープンチャンネルじゃないですか! ごめんなさいごめんなさい!』
爆発した機体のパーツが金属音と煙を立てながら周囲へと落ちて、戦場めいた風景に少女の垢抜けた声は良く通る。
『て、めぇ、誘いやがったな!?』
『ごごごごめんなさい! ここまで上手く行くとは思わなくて!!』
『むっかつく! 僕たちを欺いたって、雑魚の癖にそう言いたいの!?』
『まさか上手く行くとは思わなかったんです!! だって……!!』
リロードの音。
身を潜めたアオカの味方機がブルパップマシンガンのマガジンを変えるも、市街地の地形上反響したその音で場所が割れる事は無い。
『──―
『この、ふざけやがって……ッッ!!』
再び
少年らが行動を起こす前に、完全に射撃体勢へ移行したジムコマンド2機による過密な弾幕が瞬く間に機体を撃ち抜いた。