ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章26話『少女へと迫る危険』

『食堂の新メニュー、プラ板珈琲もう飲んだか!?』

『飲んだ飲んだ! 180杯のうち1杯に砂糖じゃなくて本当のプラ板の粉が入ってるって噂のアレだろ! 当たりのプラ板を飲むとプラ板工作の神様がその日降りるって話だ!』

『砂糖の見た目も凝ってて見た目も感触も完全に切り出したプラ板なんだよな!』

『知ってるか? そのメニューに即発されてプラ食研究部の連中が食べれるプラ板の研究始めたらしいぞ』

『マジかよ〜! プラモのグルメに取り上げられるのも時間の問題じゃないのか!?』

『こうしちゃいられねぇ、早く当たりの珈琲飲んでフルスクラッチ1/60サイコインレを作るぞ!』

 

 ホームルームの終了とともに生徒達は駆け出していき高等部の在籍する校舎は瞬く間に熱狂へ包まれる。

 リュウはそんな生徒達を視界の端で見送り、頬杖をついて開いた窓から空を眺めていた。

 憂いを感じさせない、サッパリとした晴天の空模様。

 

「何考えてるのリュウ君?」

 

「あ──……、アオカの事だな。試合勝ったって連絡きたからさ」

 

「ん〜? その割には嬉しくなさそうだけど?」

 

「嬉しいよ。嬉しいけどあの手は次は使えない。アオカ自身の武器を手に入れないと今後勝ち続けるのは難しい」

 

 コトハがその髪色を連想させる桃の香りを仄かに纏ってリュウの机へと腰を掛ける。

 それでも視線を空から外さないまま思考に耽るリュウを見て、コトハが背負った学生鞄を身を捩ることでリュウの顔面へとぶつけた。

 

「なんだ急に!? どうした! 破壊衝動か!?」

 

「リュウ君、今日エイジ君にまるちゃんは?」

 

「アイツらなら確か食堂の新メニューを飲みに行ったな」

 

「ナナちゃんにアオカちゃんは?」

 

「今日は特に用事は無いな。明日は放課後感想戦するけど」

 

「じゃあトウドウ先生は?」

 

師匠(せんせい)なら今日ラーメン……用事があるから俺が呼び出される事は無いな」

 

「ふふふ〜ん」

 

「なんだ……?」

 

 今日トウドウ・サキとの指導が無いことにリュウが胸を撫で下ろしていると、コトハがその整った顔を笑顔で、もの凄い満面の笑みを浮かべたまま振り返る。

 悪寒を覚えて思わず視線を幼馴染へと向けると、そのままニコっと首を傾げた。

 

「ガンプラバトル、しよ?」

 

「却下」

 

「なんでさー!?」

 

「だってコトハも受けるんだろ、特進の試験。手の内は見せられねぇ」

 

「あっ」

 

「ごめん、本当にこれぐらいやらなきゃオレ駄目なんだ。汚ぇと思ってくれてもいい」

 

 申し訳なさそうに目を伏せるリュウ。

 先日見せたコトハの新機体、彼の機体のリプレイデータを既に何回も見返していながら自分の機体は晒さないという卑怯な手段を用いている。使える手は全て使え、仮初めの師匠(せんせい)から教わった、弱い自分が勝つための方法。

 罪悪感を覚えるその鳶色の髪に鼻が付くほどコトハの顔が近付いて、気配に気付いたまま少年は椅子ごと後ずさった。

 

「な、なんだよ。謝るけどバトルはしねぇぞ」

 

「ううん。嬉しいの」

 

 風が吹く。

 秋を想うような、僅かな涼しさを感じさせて。

 

「本気で私を見てくれてるんだ」

 

 とても大事な何かを包み込むように。

 しばらく頷きを繰り返してそっと幼馴染は顔を遠ざける。

 

「楽しみにしてるね、リュウ君。その時は、ちゃんと私を──―」

 

『あー、あー。マイクテスト、マイクテストですわ。おほん』

 

「「っ!?」」

 

 突如として耳を突く放送の音声。

 中等部か初等部の少女を思わせる声の高さに音量も相俟って、リュウとコトハはスピーカーへ意識を持っていかれる。

 

『え? 声が大きいですって? 失礼しましたごめんあそばせ。北条院たる者いついかなる時でも凛とした声音で話す事を是としていますの。あら、もう教員が放送室前に……、放送部のあなた、後で説明しておいて下さるかしら。謝礼はシリーズ別の積みプラ3メートル分で』

 

「北上院って、この前うちのクラスに来た……」

 

「凄いツインテールの子だよね。萌煌(ほうこう)東西南北の」

 

『本題に入りますわ。放課後の貴重な時間を割いてしまい申し訳ありません。今回放送させて頂いたのは、高等部に在籍していらっしゃるリュウ•タチバナさんに用があっての事で』

 

「はァッッ!?!?」

 

 驚きに思わず立ち上がった拍子で椅子が音を立てて倒れ、リュウは愕然とスピーカーから続く言葉を待つ。

 教室内からは疑問の声とひそひそ話が聞こえ、誰も彼もが視線をリュウへと注いでいた。

 

『本日、この後30分後。第一体育館にて(わたくし)とガンプラバトルで決闘を申し込ませて頂きます。万が一、前日のように断る事があれば貴方の妹であるナナさんの身の保障は出来ませんわ。それでは』

 

 ブツ、と放送が終わり教室はおろか学園で言葉を発する人間は誰ひとりとして居なかった。

 放送が入る事は珍しく無いものの、今回使用されたのは全校へ即座に通達する為の回線であり使われる事は殆ど無い。

 静寂が満ちる中、学園で最も初めに身体が動いたのはリュウ•タチバナだった。

 

「ちょ、リュウ君!?」

 

「ナナが危ないかも知れない……!」

 

 机の脇にぶら下げてある鞄をもぎ取るよう強引に手に取って、少年は即座に体育館へと駆け出した。

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