ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章27話『俺を信じる人のために』

 萌煌学園は山岳地帯を切り拓かれて設立された世界有数のガンプラバトルに特化した育成機関であり、初等部中等部高等部を内包したその施設は巨大遊園地と同等かそれ以上の敷地を有している。その為校舎は3つに別れており、それらに付随する食堂や図書館の他と同様、体育館も3つ存在し更にそれらとは別に総合体育館が学園の敷地内に設けられている。

 

「ご丁寧にアウターギアにまでバトルの申請が来てるな、本当にやる気って事かよ」

 

 リュウ達高等部が在籍する3号棟を出てそれぞれの校舎の中央、一際大きなドーム状の建物が北条院ネネに指定された総合体育館だった。

 放課後ながら体育館への道には多くの生徒が足を運んでいる様子で、走りながら会話へ耳を傾けるとリュウの想像通りの内容であり眉を(ひそ)める。

 ずばり『北条院と無名の生徒がガンプラバトルを行う』という内容は生徒達にとって一大イベントのようで、どの会話も北上院の使用する機体や彼女の戦績についての話題で持ちきりだ。

 

『わっ! なんだよ!』

『ちょっと〜、割り込まないでよね! 今からネネ様のガンプラバトルが始まるんだから!』

 

「すみませんすみません!」

 

 俗人とは滅多にガンプラバトルを行わない北条院ネネのガンプラバトルを見ようと体育館の入り口は既に人で溢れており、なんとかリュウはここ最近トウドウ・サキから指導されている体捌きを駆使して身体を集団へと捩じ込む。

 

『1階はもう駄目だ! 2階から見学するぞ!』

『ガンプラバトル実況部です〜! 皆さま少しおしゃがみ下さい! ドローンを会場内へ飛ばします!』

『実況部に先陣を切らせるな! ガンプラバトル報道部は2階の窓からドローンを侵入させろ! 普段やっているファンネルの操作練習はこの時の為だ!!』

 

「失礼しますっ! ぐぬぬぬ……! ぐぬぬぬ……! 思い出せリュウ・タチバナ、資金が尽きかけた時の、スーパー安売りセールでの攻防をぉ〜〜……!! ──ぷぁっっ!!」

 

 行きも帰るも出来ない集団の中をなんとか抜けて顔を上げると、

 そこには不可侵の空間が在った。

 ガンプラバトル用の筐体を中心として半径10メートル程か、2人しか行わないバトルの見物としては広過ぎるそのスペースに少女が椅子へ腰を掛けている。

 

「ご機嫌よう、リュウ・タチバナさん。早速でありませけれどお返事を聞かせて貰える事は出来て?」

 

 音を立てずティーカップを置いて少女は、尊大と可憐さを持ち合わせた微笑を浮かべる。

 揺れる、特徴的なツインテール。表情に違わず余裕に満ちた細かな所作。

 旧体制の名を許されている名家でありガンプラバトル界において重要な立ち位置に付いている北上院、その1人娘。

 ──―北条院ネネ。

 

「ナナはどこだ」

 

「あら失礼。(わたくし)とした事が逸ってしまいました。ナナさんならあちらに」

 

 ネネが手のひらを軽く叩くと周りを囲っていた集団の一角がザァっと割かれ、ネネと同じよう椅子に座ったナナが少し戸惑った様子でこちらを伺っていた。

 目に入ったのはナナの前に広がる数々のスイーツ。ショートケーキやホットケーキ等様々な種類の洋菓子が並べられ、どれも一級品であることが見て取れる。

 

「……どういう状況?」

 

「あら、見て分かりませんこと? リュウさんがバトルをお断りになったら彼女、ナナさんをあらゆる手段を取って懐柔致します」

 

「ハッ」

 

 少年の鼻から思わず笑いが漏れる。

 ナナとは深い信頼関係であることをリュウは自覚しており、たかが茶菓子程度でその絆が薄れるなんて事はあり得ない。

 

「俺も今大事な時期にあってな、悪いけど北上院ネネさんとガンプラバトルしている時間は無いんだ。ナナ、帰るぞ」

 

「はわわわ……! 見て下さいリュウさん……! こんな美味しそうな見た目のケーキ、私の記憶にはありません……!!」

 

「ナナさぁーんッッ!!?」

 

 完全に目がショートケーキの上に乗っかっている苺を映し、空色の大きな瞳が爛々と輝いていた。

 

(不味い)

 

 師匠(トウドウ・サキ)と交わした約束が蘇る。

 無用なバトルは特進の試験まで避けろ、他の生徒に手の内を決して明かすな。

 勝算の低い試験を生き残る為にリュウが取れる数少ない手段であり、その約束に従いながらリュウは学園へ登校している。

 それを破るのか、この面前の前で。

 

「さぁ、お返事の準備はよろしくて?」

 

 だったら、負けよう。

 とっとと負けて、自分は弱いです、と道化を演じて本命の試験に臨む。それが今後の為であり、学園で影響力の大きい北条院とバトルする上で最適の解答だ。

 

「──バトルを、受ける」

 

「っっ!! やっとその気になられたのかしら! よろしくてよ! さぁ、ナナさんを解放してあげて!」

 

 その言葉を受けナナを囲んでいた黒服達が丁寧に椅子を引きこちらへ促す。白銀の少女はリュウの表情を見上げると、やがて心の内を察したかのように微笑んだ。

 

「リュウさんの望むままに」

 

「俺は」

 

 少女の手がリュウの掌へと添えられる。

 小さな手だ。

 あの夜握りしめた、けれであの時より暖かく優しい手。

 

 ピ、と。

 リュウのアウターギアが起動して1通のメッセージを伝える。

 視線でカーソルを動かしメールを開くと、

 

 ──題名『応援しています』。

 ネネちゃんはとっても強くて、けどリュウさんにも負けてもらいたくありません。

 リュウさん達のお陰でわたしは初めてクラスで勝つことが出来ました。

 だから、どっちを応援したらいいかわからないですけど。

 ──頑張って下さい。

 

 添えられた少女の手を握って返す。

 やがてリュウが見渡すと、2階の端で彼女(アオカ)が満面の笑顔でこちらに手を振っていた。

 

「ナナ」

 

「はい」

 

「──―勝つぞ」

 

 展開されたアウターギアからの信号を受け、筐体から発せられたプラフスキー粒子が緑の燐光を伴って漂う。粒子が操縦席(コンソール)を形成する都合上、闇夜の暗さと粒子の煌めきが周囲に混在するなか対面する少女の顔に年相応の挑戦的な笑みが浮かび上がる。

 

「考えが変わったようですけれど、後悔はなくて? 特進クラス編入試験を受けるリュウ・タチバナさん?」

 

「こっちの事情を知っていたんなら少し性格が悪いな北条院。悪いけど後先の事を考えるのはやめだ」

 

「貴方がそう来る事は″読めて″いましてよ。予定された未来ではあるけれど、貴方に感謝を」

 

「……?」

 

「失礼、勝負の前に最早これ以上の言葉は無用ですわね。それでは」

 

「あぁ。──リュウ・タチバナ、Hi-sガンダム」

 

「北上院が後継(あとつぎ)。──北条院ネネ、ガンダムビルドエピオン」

 

「「バウトシステムッ! スタンバイッッ!!」」

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