ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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1章17話『極光』

 意識や思考は変わらず、五感も感じ取れる。覚醒した自分が感じたのはまず手に握る操縦棍の感触だ。

 流れるような目にも留まらぬ速度で指が上下し、端から見ればただ滅茶苦茶に弄っている動作。プロのガンプラファイターの手元動画を見た子供が真似をしてデタラメに操作しているかのような指の動きは全てが予定調和。

 

《誤差修正──完了、挙動修正──完了、敵機攻撃パターン想定────完了》

 

 饒舌に語る少女が踊るような指先でスロットを展開する。

 ───6番スロット、GNフェザー。

 

 バインダーに貯蔵された粒子を開放。原作では建造途中のメメントモリの照射を受け止めた広範囲を守るための武装を、あろうことか攻撃が来てるわけでもなく繰り出した。

 吹き荒れるプラフスキー粒子は尚も勢いを止めず、周囲一帯のデブリを吹き飛ばし、またデブリに巻き込まれ敵機も弾かれるように距離を離す。

 元々はこの武装、広範囲防御用での運用もさることながら敵への視覚的な威圧も兼ねており、デブリを力場でどかし周辺一切を立ち寄れぬ領域を築いたアイズガンダムは、下半身を損失しながらも神々しく、禍々しく、威圧的であった。

 

《加速による機体への負荷──問題なし》

 

 バインダーをフレキシブルに動かしハイスピードモードに以降、そのまま動作を挟まずの突貫に思わず目を瞑ろうとするが悲しいかな、もはや身体は自分のものでは無く、許される行動は情けない声を上げることのみ。

 

「とぅわぁぁああああ!早い早い早いって!!」

 

 前方300メートル。無数のデブリに赤い点が色付き、やがて白熱。迎撃のGNバスターライフル、バインダーライフルでの一斉掃射だ。バスターライフルは本体、バインダーライフルは回避先と念入り具合に置かれ命中は免れない。

 

「シールドで防御!」

 

《こちらの方が早いです》

 

 指が、手が、ピアニストの激奏を連想させる挙動で荒ぶり、機体は更に前進。先程は敵機が行ったマニューバを次はこちらが行い迎撃の魔手を全て掻い潜る。

 観測と機体状況を把握するため目を開けているが、光景としてはプロの戦闘を主観で体験しているようだ。違いを挙げるとすれば被弾し撃墜された場合待ち受けているのは現実での死。

 

「うおおぉぉぉおおッッ!!」

 

 気合一閃、モニターを睨み少しでもナナの負担を下げるため目まぐるしく走る光景を脳裏に焼き付ける。

 目の前で繰り広げられる戦闘はもはや自分の思考では理解できない攻防だった。

 ビームサーベル同士の鍔迫り合い、お互い最大出力での凌ぎは先にビームサーベルが根を上げ同時に破損。敵機の右回し蹴りを飛び越えることで回避し───。

 

《これなら攻撃は届きません》

 

「ズルくねぇかそれ!?」

 

 HGアイズガンダムの弱点である可動域の限界を突き、死角である真上を取る。

 5番スロット、バインダーライフルを両腰に構えての掃射が寸分違わず肩関節を針の穴に糸を通すが如く狙う、が敵機が目の前から軌跡を残して消えた。

 

 真紅の軌跡だった。

 

「トランザム……!」

 

《問題ありません》

 

「ありまくりだっての!早くこっちもやらねぇと殺されるぞ!」

 

《大丈夫です》

 

「ほら! 来てる来てる!」

 

《私を信じて下さい》

 

「あぁーもう! 信じる! やってくれ! 頼むぞ!」

 

《……はい!》

 

 どこか嬉しそうに少女が答えた。

 トランザムの速度を生かし1度戦闘領域ギリギリまで遠退いた敵機が爆発的な加速を以て猛然とこちらへ迫っている。

 少女の意思で指が動き、真紅に染まる敵機へ粒子を展開したGNシールドを遠心力いっぱいに投擲。それを案の定回避しビームサーベルを構え突進してくる。

 少女が何をしているのか間を置いて理解できた。GNバスターライフルの標準を回転するシールドに合わせ最大出力で照射、紅蓮の光線はシールドの動きに合わせ乱反射し、周囲のデブリを何度も焼き斬る。

 光線はこちらの損失した下半身部分を何度も通過するが、背後からの光線の乱反射に曝された敵機は遂に腰後部、GNバスターライフルを被弾。

 それでもバインダーで粒子を展開し防御をしてみせた敵機の挙動に恐怖を覚えた。そのまま勢いを回避に割かれた敵機は軌道を反らし、光線が届かない遥か遠くへ大きく旋回しながら下がる。

 

 ───遠方で紅々と輝くアイズガンダムは正しく魔性の星そのものに思えた。

 

 遠目からバインダーをアタックモードへ変形。放つ気なのだろう、切り札であるアルヴァアロンキャノンを。

 トランザムによる粒子全面解放の恩恵を受けた一撃はモビルスーツの枠を越えた威力だろうと容易に想像が出来、電脳空間にも関わらず冷や汗が頬を伝う錯覚を覚えた。

 俺が何かを言う前にナナはバインダーをハイスピードからアタックモードへ変更。その行為に思わず声が出る。

 

「俺が何を言おうとしてるか分かってるな?」

 

《分かっています》

 

「だったら問題ねぇ……やっちまえッッ!ナナァ!」

 

《はいっ……!》

 

 トランザム状態でのアルヴァアロンキャノンを通常のアルヴァアロンキャノンで相殺することは不可能だ。

 だがもう疑うのはやめた、少女がそれを決めたなら俺はその結果を見届けなければならない、観測者として。手を取った人間として。

 

 ───先に放たれたのは向こうの閃光だ。

 

 大いなる光が軌道上に漂う全てのデータをアウターから消滅させ、迫る。

 その大きさは初撃とは比べ物にならず、もはや回避は確実に間に合わない。迎え撃つ他に助かる道は潰えた。

 

「ぶちかませぇッッ!!」

 

 2基のバインダーが力場を形成しコックピットが震える。

 続いてGNバスターライフルの照射を加えてアルヴァアロンキャノンは放たれた。姿勢制御の為の下半身は既に無く、背部GNドライブで辛うじて体勢を維持している状態だ。

 

 粒子同士が衝突し、完全に相対する方向からのエネルギーは遂に逃げ場をなくし球状の光となって両者の間で拮抗する。

 

 ───それでも押し負けているのはこちらだ。

 

 見る見る内に粒子が勢い負けし、球体が近付く。出力を上げようにも既に計器が赤く点滅し限界を物語る。

 あと数秒でこちらの機体は飲み込まれ、何かを感じる間もなくデータとして消滅してしまうのだろう。

 死が、恐怖が背後で手招いている。死神が嘲笑っている。

 

 ───だけど、手が、腕が、身体は……少女は尚も抗い戦っている!

 

 球体は目の前まで迫り、既に飲み込まれかけていると言っても過言ではない。

 だが今だ、遂に来た。

 観測を続けてから逃してたまるかと心で数えていたあの時間。

 

「今だぁぁああ!! ナナァーッ!!」

 

《はいッ! トランザム!》

 

『─────はああぁぁぁぁあああああッッ!!』

 

 2人は叫んだ。

 プラフスキー粒子全面解放。

 眼前で輝いていた明星はバインダーとGNバスターライフルから送られた膨大な粒子の供給で押し戻される。

 先のナナの攻撃で敵機のバスターライフルを破壊した成果もあり威力は完全にこちらが上だ。粒子の波は敵機を覆うよう超大な奔流となって襲い掛かる。

 火力負けしたと判断したのか、敵機は照射をやめトランザムでの高機動で無理矢理回避しようと試みる、が。

 

 ───トランザムはガンプラバトルの鉄則として20秒間のみと絶対のタイムリミットが敷かれており、それを過ぎるとオーバーロードを起こし各種性能がダウンしてしまう。

 

 機体色が蒼白色へと戻った敵機は逃げること構わず粒子に呑み込まれ、爆発さえ発生せずに存在を消した。

 それでも進む極太の極光は遥か遥か遠く、やがて小さな粒になるまで彼方へと流れていった。

 

「うぉぉぉおおおおお!! 勝った! 勝ったぞナナ! すげぇぞお前! はははは!」

 

 どうだ見たか、やってやったぞ俺の馬鹿野郎。

 勢いよくヘルメットを脱ぎ、反射する自分を見ようと視線を向ける。

 

「はは──……、は?」

 

 目の色が違う。

 ついでに言うと髪の色も違う。

 瞳は薄蒼、髪は白と少女を連想させる色合い。一瞬誰だか分からなかったが世の中舐めているような大嫌いな顔付きは間違いなく俺だ。

 

「ナナさん、あの、俺の外見変化してるんですけど、何か知りませんか?」

 

 角度を変えても自分の色彩に変化はない。戦闘前は俺自身の顔だったことを考え、ようやくこれがLinkしている状態なのだと理解した。

 すると髪、瞳が元に戻る。Linkが解錠されたのだと思ったが、俺は今さっき自分の意思でヘルメットを脱いだ。その時はまだLink状態だったはずだ。

 

 ───嫌な予感がよぎる。

 

「ナナッ!? おいナナッ!?」

 

 意識の片隅に小さく感じていたナナの存在を感知できず、返事もない。

 ふと異変に気付く。

 視界が白味を帯び何事かと身体へ目をやると、自分を構成していた物質……データなのだろうか、煌めく粒子となって身体の末端から消えて行く。ログアウトが始まったのだろうとどこか冷静な自分が告げた。

 少女は救われたのか、消える意識の中そんな疑問を抱きながら───

 

 ───リュウ・タチバナはアウターから存在を消した。

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