ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章31話『わたしに与えられた名前なのだから』

 リュウ・タチバナの思考はかつてない程に冷えていた。

 眼前に迫る疾風の如き双頭の竜も、自機の周囲に殺到する刃の連続も、それらは最早視認が叶わず防御は意味すら成さない。

 それでも少年は知っている。その攻撃による致命的な被害も、()()()()()()()()

 

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 敗北の予感のなか、少年の表情へ不敵に笑みが浮かんだ。

 少年が両手を翳しているその真ん中の空いている空間。白銀の少女が背中から語りかける姿を見て覚悟を決める。

 

「GNッッ、フィールド──!!」

 

 GNザンブラスターを中心にHi−sガンダムへGN粒子が展開されソードビットが突き刺さる。

 ソードビットは実体剣であり、GNフィールドにとって実体剣は天敵そのものだ。防壁は数瞬先に突破され、法外な速度で衝突をするビルドエピオンによって機体を粉々にされる未来が見えるが、その刹那の猶予が攻略の鍵だ。

 

『生半可な防壁ごと、木っ端微塵に砕けなさいッ!!』

 

「ここ、だァ──ッッ!!」

 

 破壊的な威力が近付くスローモーションの中、リュウは機体の腕を伸ばした。

 右側の頭部へ噛まれないように頭頂部をしっかりと掴んで、そのまま。

 

『な、なな、な、!?!』

 

「うおおぉ、おお!? はっえぇ……!!」

 

 加速するビルドエピオンへと捕まり水晶宙域を彗星の速さで横断した。

 

『ど、どうなっているんですの〜〜!? えぇい! 離れなさいっ! このっ! ど、どうしてこの速度で捕まって機体が千切れないんですの!?!?』

 

「対策してるって気付かなかったか!? お前がガンプラバトルをしそうな気配を漂わせていたあの日から、俺は毎日お前の戦闘リプレイを片っ端から再生したんだよ!」

 

『対策してどうこう出来る技ではありませんことよ!? ビルドエピオンの変形時の速度は触れるだけで機体が粉々になる殺人的速度であって、掴まろうものなら四肢から機体が持っていかれる筈!!』

 

 北条院ネネは驚愕を年相応に叫んで機体を振るが、Hi-sガンダムの腕はビルドエピオンを掴んだままだ。風圧に揺れながらも肩が外れる予兆は全くない。

 しかしその隙間にネネは鋭い金属色をサブカメラで捉えた。それは銅にも似た色で、ガンプラを弄る人間であれば最も身近な金属色。

 

『ま、まさか、軸に仕込んだその色は』

 

「……ソードビットと本体の強襲、それがビルドエピオンが持つ必勝のパターン。それが防がれる試合を探したのは気が遠かったぜ。──その通りだ、今のHi-sガンダムの肩にはッッ!」

 

『──複数の真鍮線による軸の強化!! ……良くもこの短期間でその対策を見抜きましたわね!』

 

「うおおぉっっ!?」

 

 突如機体が回転し今度こそ弾き飛ばされる。

 ビルドエピオンによってかなりの距離を運ばれたが、それでも水晶宙域のエリアは余裕がありエリアオーバーを一瞬懸念したがその心配は無かった。

 再び相対する2機、攻撃をする雰囲気も漂ってはいない。

 

(わたくし)の試合を見た、と。先程そう口にされましたわね?』

 

「そうだ。弱いなりに考えた勝ち筋だよ。映像の中のお前と何回も何百回も戦って、ようやく出した解答が今の回避だ」

 

『卑怯とは言わなくてよ。むしろ逆であり尊敬に値しますわ。……なればこそ、こちらも敬意を持って返礼しなければいけませんわね』

 

 通信の終わり。不意に射出されたビットが左腕部のビームガンとヒートロッドへ装着され。

 その瞬間、発振された粒子の奔流に周囲の水晶が大きく震え出した。

 

「ライザーソード……」

 

 これもリュウは知っている。

 全ての防壁を溶断する魔剣。通常数kmの刀身を振り回しやすい長さへ超圧縮された粒子の刀身は万物を切り裂く威力を誇る。

 それでも振り回すのと取り回すのでは意味が違う。ライザーソードはいわば高出力のブースターを刀身から発生させている状態であり、反対方向への推進制御が成されなければそのまま機体がどこかへ飛んでいってしまう。切れ味を増せば増すだけその制御に割くエネルギーが増えて、結局攻撃を当てるのが至難となりえる。

 現にリュウは前機であるHi-ガンダムのライザーソードを、確実な場面で敵機を仕留められる近距離の奥の手として運用していた。

 

『──参りますわ』

 

 大振りの袈裟斬りだ。

 その軌跡に粒子の無駄は見当たらず、逆方向への推進も完璧といえる精度を見せ付ける。

 それでも大振りな軌道の為に半端な回避をしようものなら全身を巻き込まれかねない為リュウは機体を大きく翻して後退した。

 2撃目は袈裟斬りの慣性のままに回転し、横一文字を両断するだろう、と。

 リュウはそこへ反撃の刃を叩き込むべく、上昇しサイドスカートを両基下へと向けた。

 Hi-sガンダムのサイドスカートはガ系の物のミキシングであり、ビームサーベルが1つずつ収納してある。その所謂(いわゆる)暗器のような運用でビルドエピオンへ刀身を発振した、その直後に。

 

「っっ!?」

 

 極大な粒子を纏ったままヒートロッドが上へと曲がり、サーベルの粒子を掻き消した。

 読まれた、と唇を噛んで後退の為にブーストを挟むと白桃色の粒子がそのまま蛇のように回避先へと回り込む。

 

「ど、うなって、!!?」

 

 刃が機体後部を焼いて、それでもサイドスカートへ増設された推進機によって強引に上昇し致命傷を回避した。

 後部スラスター及び脚部スラスターの熱異常、機体全推力8%ダウン。

 正面モニタへ表示された黄色の警告を手で払うように消してそのまま距離を取る。

 

『北条院に産まれた(わたくし)は生後間も無くして高貴ある責任(ノブレス・オブリージュ)を果たすためガンダム・エピオンへ乗っていました』

 

 煌々たる刃を携えたまま、それを抑える事は無い。

 展開する以上粒子は消費され続け、それでも収めない刃はこのライザーソードで決着を付ける意思表示だろうと、リュウは冷や汗を頬へ伝わせながら思考する。

 

『「粒子に適応した」、『母親の胎内で実験を行った』。世間では様々な憶測が飛び交っていますが違います。(わたくし)は、エピオンに乗ることで自身へと獲得したのです』

 

 ビルドエピオンが(いたずら)に刃をその場で振るった。

 運悪く漂っていた水晶が溶断され、斬り飛ばされた先で他の水晶と衝突し、その破片が更にまた違う水晶へと突き刺さり。

 連続した衝撃の後、周辺の水晶は全て破片と化していた。

 

『未来視を。運命から勝利を手繰る、──システムエピオンを』

 

 言葉が出なかった。

 そして、ようやく北条院ネネが試合前に言っていた言葉の意味が理解出来た。

『貴方がそう来る事は″読めて″いましてよ。予定された未来ではあるけれど、貴方に感謝を』

 彼女が発していたのは比喩でも何でも無くて、本当に未来が見えているのだと。

 

 ──故に、少年は慄然した。

 見合う2機の間へ突如ビームによる射撃が割り込んで、ビルドエピオンの注意がそちらへと向く。

 

「GN! ステルスフィールドッ!」

 

 ここしかないと思考が弾かれ、武装スロットを展開しながらザンブラスターを翳すとジャミング作用を施す蒼の粒子が周辺を覆い尽くす。そこへダメ押しとばかりに先程破片となった水晶達を機体へ備わるファングによる射撃で粉砕し噴煙と粒子が入り乱れた。

 視界が不良の中、高速で接近する機体の予感を感じる。

 リュウは居場所が分からないが、少女なら分かるという確信が在った。

 

「お待たせしたしたリュウさん。水晶宙域全域の座標パターンの計測完了しました」

 

『今のは支援機による攻撃……? まさか、今までずっと戦域に隠れていたとでも!?』

 

 計器が効かないビルドエピオンが左右を見渡すが、死角となる真上へとリュウは機体を走らせた。

 程なくして視界に捉えられるであろう状況で、それでもこの隙を作れたことは千載一遇のチャンスだろう。

 

「初実戦がこんな慌ただしくてごめんなナナ」

 

「いえ、その、謝らないで下さい。わたしとても嬉しいんです。やっとリュウさんと一緒に戦えるんだと思うと、ここが熱くて」

 

 白銀の少女がくるりとこちらを向いた。

 自らの掌を胸へと当て、喜びを潜めた顔でリュウを窺うように。

 

「リュウさん。指示を」

 

「……北条院ネネも奥の手を出してきたみてぇだ。こっちも初めから全力で行くぞ」

 

「了解。──GNアウターユニット機能に問題無し。Hi-sガンダムとのドッキング開始します」

 

 MGエクシアが持つGNシールドを転用し支援機へと作り替えた機体。GNファングを3基搭載し、シールドの両脇からコンデンサと推進器を生やした機影は同じ役割を持つオーライザーを彷彿とさせる風貌だ。

 

「ドッキング完了。……脚部パーツUC判定、機体データからトランザムシステムを削除、合わせて特殊システム1件該当。発動タイミングを搭乗者へ譲渡します。リュウさん、いつでも」

 

 北条院ネネが未来視を口にした瞬間は何の巡り合わせかと衝撃を受けた。

 彼女が直感にも等しい超反応だとしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「行くぞナナ──」

 

『──ナイトロシステム、起動ッッ!!』

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