ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章32話『差し伸ばされた』

 瞬きをする間に複数聞こえる剣撃。

 軽い感触を覚える牽制の射撃音と時折眩く照射の粒子。

 そんな怒涛という表現すら生温い攻防にも関わらず、互いに傷を付ける事は無い。

 斬って避けて撃って、避けて斬って斬って。

 無傷など有り得ない至近距離戦闘が既に数分経過し、湧き上がる観客達とは逆に実況席でマイクを握る2人は言葉を喉に詰まらせていた。

 

『ど、どないなっとるんや―ッッ!? ありえへんであんな距離でどっちも被弾がゼロなんて……!?』

 

『エピオン側は恐らくゼロシステムかエピオンシステムである程度の補助が効いてるとして、Hi-sガンダム側はなんだ……? 積んであるのはトランザムじゃないのか?』

 

『エイジよく見てみぃ! 機体の周りに滞留してるあの蒼い粒子、ずっと消えへんで!』

 

『ステルスフィールドの際に散布したGN粒子……? いや、推測するにも曖昧過ぎる。機体の動きが変わったのは支援機による物なのは分かるんだが……』

 

『うおおおおお!! よく分からへんけどやるやんけリュウ―ッッ!! そのままやったれやァーッッ!!』

 

『『『うおおおおおおおおおおおお!!』』』

 

 実況席の困惑の声など既に誰も聞いておらず、周りの盛況が新たな盛況を呼ぶ事態と化している状況にマルヤマは乗っかる形で声を上げる。

 

「リュウ……、お前は、もう」

 

 その隣。マイクを置いたエイジは誰にも聞こえない呟きで顔を歪ませた。

 北条院ネネの動きを見れば分かる。あれは自分にとってもリュウにとっても格上の存在だった筈であり、そんな相手に対し互角以上に戦局を進めている幼馴染みの姿を見てエイジは知らぬ間に唇を噛みしめていた。

 置いていかれたと。

 何に対して、どのように。主語にあたる部分が見当たらないその言葉が少年の胸へ暗く主張していた。

 

 ──────────────―。

 

 北条院ネネによる未来視とは詰まるところ、幼少期より慣れ親しんだエピオンシステムの適応と膨大な戦闘経験が2つ合わさった事による超反応の融合だ。

()()ならば耐える事の出来ない情報量を全て処理してシステムを屈服させた彼女は、初等部の段階でエピオンシステム無しで予測された未来が視えるようになり、それが彼女自身の能力として発現している。

 人呼んで、後出しの絶対(エンカウンター)

 この能力に加えて持ち前の勝ち気な性格により敵を殲滅するのが北条院ネネというガンプラファイターだ。

 

(当たらない……!)

 

 ライザーソードは出力を絞り取り回しを更に向上させ、視界に映るあらゆる物には搭載されていない筈のエピオンシステムによる補助が視えている。

 

(当たらない! 当たらない……当たらない!)

 

 なのに、当たらない。

 Hi-sガンダムの動きを読んで剣を叩き込んでも、軌跡をなぞる際に真逆の位置へと移動する。

 反応という次元の話ではなく、明らかな読みによるもの。これは同じ未来視のような力だとネネは思考の端で分析を続ける。

 

(ならばこそ、弱点は(わたくし)と同じな筈……!)

 

 並のファイターだったのならここで敗北を覚悟するが、北条院ネネは勝つ事を諦めず、その眼差しへ更に勝利の光が灯る。

 ライザーソード、粒子納刀。続けて粒子出力連続解放。

 

「フラム──」

 

 一足離れた位置へとバックステップし、ネネは左手に携えたソードユニットの切っ先でHi-sガンダムを正面に捉える。

 武装スロット、EXスキル選択。

 

「──―ベルジュッッ!!」

 

 人間では視認すらままならない桜花色の閃光が奔る。

 その正体は刀身を形成するビームの発振の連続展開であり、刃を発振して収めて、再び発振して収めて。その繰り返しによる刺突は秒間にして17回。高圧圧縮されたライザーソードによるそれはパイルバンカーユニットの飽和攻撃に等しい破壊力を持つビルドエピオンのエンドアーツだ。

 刺突を1箇所では無く敵機を中心とした周囲を穿つという、この瞬間にアレンジを加えた昇華技。

 回避してくる事を前提に、点では無く面での制圧は、

 

「う、そ……!?」

 

 愕然と溢れた声は慄きによるものだった。

 あろうことか敵機は動かずに、中心を狙った一突きだけを見破って剣を勢い良く突き出した。

 その、同じくライザーソードによる刺突で刃が拮抗に持ち込まれるその状況に、北条院ネネは今度こそ思考が驚愕に染まり出力を上げることにしか判断を裂く事が出来ない。

 逃げ場の無い衝撃が互いを削り合い、それでも折れない粒子同士が水晶宙域を眩く照らした。

 

『勝負だぜ北条院……!』

 

「な、なにをっ!」

 

 突如掛かってきたオープンチャンネルによる音声通信へ、ネネは操縦桿を前のめりに押しながら応える。

 

『どっちのライザーソードが強ぇか、意地の張り合いって事だよ……!!』

 

 光の向こう。こちらを睨む敵機からくる印象は壮絶な攻防でありながら何処か暖かかった。

 退屈な日々の中、見た事のない遊びに誘われた日のような。北条院ネネの人生のなかにそんな出来事は一度もなかったというのに。

 変わり映えのしないモノクロの心が鮮烈に色付いていくのを彼女は歯を食いしばりながら自覚した。

 ──今、自分は楽しいのだと。

 

「ハッ、望むところですわ!」

 

 だって、あんなに楽しそうに言われたのなら。

 だって、あんなに誘われるような事を言われたのなら。

 

「北条院が跡取り娘、ここで負けるタマではなくてよ──ッッ!!」

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