ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章34話『2人で初めて勝ち取ったそれは』

 星空を駆ける流星に、もしも音があるのならこんな風に聞こえるのだろう。

 星々の間を突き抜けて一瞬に凄絶を感じさせるその残響は、欠け落ちた破片の煌めきを連想させる。

 萌煌学園総合体育館に集まった1000人程の生徒全てが声を忘れて、目の前の光景に意識せずとも引き込まれた。

 学園都市最大のガンプラバトル育成機関、萌煌学園。そこへ在籍する歴戦の生徒達でさえも静寂に支配されるその異様。

 声を出す生徒は、居ない。

 

 ──ただ2人を除いて。

 

「リュウさん、勝ちました」

 

「あぁ。俺達の……勝ちだ!!」

 

『『わ』』

 

『『わあああぁぁぁぁあああああああッッ!!』』

 

 少年と少女の勝鬨に今まで黙っていた分の絶叫にも似た歓声が体育館へ響き渡る。

 

『ほ、報道部です!! 皆さん、信じられない事態が起きました!! 神童と名高い北条院ネネ選手が無名の生徒2人に敗れました!!』

 

『決着ゥゥ〜〜ッッ!! 最後何が起こったんだああぁぁあああッッ!!? 北条院ネネを破ったのは、この俺リョウタ•マルヤマのマブダチ!! リュウ•タチバナとその妹ナナ•タチバナだああぁぁああ〜〜ッッ!!』

 

『『わああああぁぁぁぁああああッッ!!』』

 

 歓声が窓ガラスを震わせて観客がまるで一つの生き物の様に立ち上がり感動に両手を上げている。

 中にはアウターギアを起動してバトルの熱そのままにガンプラバトルを始めようとする生徒まで居てリュウは自らの状況を少し遅れて理解した。

 

「ま、まずいナナ、多分早く出ないと人混みで大変な事になる!!」

 

「抜け道は……、ありません。それでもリュウさんと揉みくちゃになるのなら本望です」

 

「何言ってんだ馬鹿。……いやほんとヤバいぞ、この人の数で一斉に動いたら下手したら怪我人が……」

 

 リュウが危惧してる間にも既に至る所でバウトシステムの光が確認出来、誰かがバトルロイヤル形式で設定した為か戦域はこの体育館全体の様だ。

 

「離れんなよ」

 

「はい……!」

 

 隣の少女を安全のために取り敢えず抱き寄せる。

 周囲は既にパニックへ近い形でバトルの熱で叫んでおり、その最中気が付いた。

 リュウの目の前の筐体を挟んだ向こう、凛とした振る舞いをしながらも苦い顔で周囲を警戒するもう1人の少女を。

 

「北条院ネネッッ!!」

 

「──っ!」

 

「筐体に上がって、こっちに来い!」

 

 特徴的な縦巻きのツインテールを大きく揺らして、少女は一足で筐体の上へと飛び移る。

 流石の判断力の早さだなと、先程まで行っていた戦闘を思い出し身震いしていると筐体を駆ける勢いが止まらない事に気付いた。

 

「え、ちょっ!?」

 

「抱えてくださいまし! 行きますわよっ!」

 

「わぷっ!?」

 

 突如視界一杯に北条院ネネの顔が近付いて来て抱き締める形になり、転ばないよう衝撃に耐えながら顔を横へと避ける。

 

「ど、どういう状況だよこれ!?」

 

(わたくし)の護衛達は人混みに呑まれて行方がしれませんことよ。ですから貴方に抱き付いて状況が動くのを待ちますわ」

 

「近くに居るだけで良くない!?」

 

「推して知るべしですわ。貴方の背丈の半分程しか無い(わたくし)がこんな人の波に晒されたらそれこそ危ないですわ。ほら、もっと支えて。よいしょ」

 

「首が締まる!!」

 

 上半身を北条院ネネに抱き付かれていると、顔の真横から聞こえる息遣い。そしてふわりと香る知っているものとは違う別の少女の匂いに一瞬だけリュウの緊張が途切れる。

 その意識の抜け穴へ急激に寒気が襲ってきた。

 

「リュウさん」

 

「え、あ、はい」

 

「私も人混みに晒されると危険なので抱っこして下さい」

 

「ゴエェッッ!!?」

 

 ぴょん、と意図して体重が掛かる形で後ろの少女が背中へと抱き付いてきてリュウの体勢がまた大きく揺らぐ。

 

「あら、お兄様との向かい合わせを取ってしまい、ごめんあそばせ」

 

「今からでも遅くありませんので場所を交代して下さい。それと人は謝罪の際に舌を出したりしないと記憶しています」

 

「これは失礼。でも周りがこんな危険な状況ではそれも難しいですわ。だから、ほら、このように。せめて落ちない様身体を密着してあげるのがリュウ•タチバナさんの為になるのでは、無、く、て?」

 

「身体と声が近い!! 耳がソワソワするからやめてくれ!!」

 

「…………ふぅ〜」

 

「おひゃあ──ッッ!? ナナさん!? 何やってるんですか!?」

 

 ぷにぷにと耳への違和感を気力で耐えつつ、取り敢えず落としたら冗談では済まないのでそれぞれ2人の背中へと手を回して周囲の状況を再び観察した。

 

「いやしかし、本当にとんでもねぇ状況だな。怪我人出るんじゃねぇか……?」

 

 誰構わずバトルを吹っかける生徒や、出口へ向かう生徒、そしてバトルロイヤルで空間へと投影されたステージやガンプラが視界を行き交う。

 これでは動いた方が危険だと、リュウはその場で事態が過ぎるのを待った。

 視線誘導でアウターギアを起動しバトルロイヤルの戦域を見ると200人以上がガンプラバトルに参加していると情報が投影される。

 このバトルが続くまで身動きが出来ないのかと、少女達の背中へ回した両手が攣りそうになっているその最中──。

 

『何やってんだ、テメェら』

 

 バトルロイヤルに参加している機体が全て動きを止める。

 推進の為のバーニアはそのままに、時間を切り取られたその姿の数々をリュウは知っている。

 ──凍りだ。

 1機を中心に、凍てつく冷気が戦域に参加していた機体の殆どを地面から生えた氷柱へと閉じ込めた。

 

『万が一保健室に運ばれる生徒が1人でも出てみろ、オメェら全員執行部に出頭だぞ?』

 

 氷が砕ける。

 伴って機体もバラバラに砕けて、爆発もせずにプラフスキー粒子へと還っていき、生徒達の視線がギギギ、と遠い体育館の入り口へと向いた。

 

『生徒会執行部だコラ。なんの騒ぎだ、あァ?』

 

『生徒会執行部だ! 逃げろ!』『俺あいつらにバレたら大変なんだって!』『執行部に連れてかれたら学園全体の掃除を命令されるって噂よ!』

『に、逃げろぉぉおお──!!』

 

 窓から裏口から。

 生徒達が一目散に外へと脱走して、10秒もしないうちに体育館に集まっていた生徒達の数が半分未満へと減った。

 その中心、幼女を2人前後に抱えたリュウとリュウガの視線が合う。

 

「あ、ありがとうございました。割とマジで危ないところで」

 

「危ないのはテメェの頭だろ。未成年淫行と公然猥褻未遂で執行部すっ飛ばして警察だオメェ」

 

「海より深いワケッッ!! ほら、降りろお前ら! 誤解されっから!」

 

「北条院ネネさん、貴女が先に降りてください」

 

「嫌ですわ。リュウ•タチバナさんったら反応がいちいち可愛らしくて、ほら、こことか触ると」

 

「なっはっはっはっはッッ!! やめろやめろやめろ!!」

 

「この様に。とても愛らしいじゃありませんこと? 長く反応を見たいので貴方が先にお降りになって?」

 

「どっちも、降りろほら!!」

 

「む」

「あら」

 

 コアラを降ろすのもこんな感覚なのかなと、ゆっくりと床へと2人を座らせて両手をぷらぷらさせる。

 するとリュウより頭1つ高い三白眼がずい、と近付いた。

 

「リュウテメェこら」

 

「な、なんでしょうか」

 

「やるじゃねェか」

 

 胸へと軽く拳を突かれる。

 

「見てたんですか?」

 

「あぁ教室から中継でな。そしたら体育館が危ないってアオカから連絡きたからよ、ダッシュで来たわ」

 

「わたしが呼んだんです!」

 

 いつの間にかリュウガの横で薄い胸を張っているおさげの少女。

 その頭を撫でながらリュウはしゃがみ込んで視線を合わせる。

 

「ありがとなアオカちゃん」

 

「へぇっ!? な、なにがですか」

 

「あのメール見てちゃんとやろうって思ったんだ。アオカちゃんのおかげだよ」

 

 北条院ネネという有名人と戦うことによる後々の面倒を天秤に掛けて、一度はリュウは本気でガンプラバトルをやろうとは考えなかった。

 特進クラスへの試験を前に手の内を晒す事を危惧していたが、その考えを解いたのがアオカという少女だった。

 

「君にカッコ悪いところ見したくなかったんだ。それで吹っ切れた。そんで、めちゃくちゃ楽しかった」

 

「えへへ……、嬉しいですぅ」

 

 わしゃわしゃと撫でて居るとリュウの頭にも掌が添えられる。ナナにしては大きくて間違いなく北条院ネネでもない。何やらゴツゴツしたその感触は格闘技の選手のような硬さで。

 

「この前も思ったんだがよ」

 

「痛い! 痛い痛い! 引っ張ってる引っ張ってる!」

 

「俺を前に妹をナンパたぁいい度胸だなオイ?」

 

「ナンパじゃないだろ!? ほんとにただ感謝してて!」

 

『歯ァ食いしばれ。……凍破ッッ!! 裂光拳―ッッ!!』

 

「ビグザムッッ!!?」

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