萌煌学園は私服登校が高等部から許可されている制度が存在し、高等部が在籍する3号棟には放課後という事もあり多くの私服の生徒が行き来している。
バイトをする為に下校する生徒やバウトシステムでガンプラバトルを行う生徒、その他にも数多くの目的を持つ生徒が学園内で時間を過ごしている中、他愛のない世間話の中心に居るのが1人の生徒だ。
『ヤバくない? この前の』
『見た。北条院ネネと隣のクラスの、なんだっけ、地味な名無しだった』
『リュウ•タチバナだろ? 知らんかったわあんな奴居たの。どっちかと言えばつるんでる奴らの方が有名じゃん』
ここのところ教室で駄弁る生徒が増えた。その大体が先日のガンプラバトルを携帯で見たり、動画サイトに上がっている物を再生しながら世間話に花を咲かしている。
『つかアレじゃん? もうまとめサイトに上がってたけど、そのリュウ•タチバナって特進の生徒に勝ったんだろ?』
『は!!? 嘘!? マジでっ!? え、誰、誰』
『執行部の部長、あの青髪の。バトルは非公開何だけどバトルの戦績表スクショしたのが貼られてたわ』
『本当だー!! え、急にやるじゃん! リュウ•タチバナ! しかもよく見ると顔も結構良くない? 推せるかも〜!』
『分かるー! あと妹さんも超〜可愛くない!? 妹さんと一緒にファイター登録してんのもマジ兄妹愛!』
放課後はこうして更けていく。
学園内の他の場所でも概ね似たような内容の会話が広がっており、巡回中の警備員にも件の少年の名前が耳に入るのはそう遅くは無かった。
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「──がァッ! くそっ」
『28機目。纏めてかかってきてその程度ですの?』
宙域でビルド•エピオンが周囲を
傍らには大破した機体の残骸が漂っており、対してビルド•エピオンの真紅の装甲には擦り傷すら見えない完成したままの艶消し。
「お、覚えてろ! 負けた分際でお高く止まりやがって!」
「調子こけんのも今のうちだぞ!!」
負け犬の遠吠えと共にバウト•システムが切られ、廊下を複数の男子生徒達が走り去る。
放課後の夕暮れに北条院ネネは1人立ち、何事も無かったかのよう廊下を再び歩き始めた。
「あのバトルからこのような事が多過ぎまして困りましたわ……。ただでさえ有象無象に構っている時間は無いですのに」
ぶつぶつと呟きながら縦巻きのツインテールを指で弄び、年相応のふくれ顔で少しだけ歩きを強める。
今日は忌々しいながらも大事な日、
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「お、早かったな北条院ネネ!」
「この際だから指摘致しますけれど、その北条院ネネと呼ぶのやめて下さるかしら? 全力を出した相手にそうやって距離を取られると、少女心ながら傷付くと思わなくて?」
開口一番扉を開けた縦巻きツインテールの少女は何やら不機嫌な様子で腕を組む。
リュウにとって北条院ネネは出来る事ならあまり周囲に分かる程の関わりを持ちたくない立場の人間であり、それは北条院という名前が原因だ。
「じゃあ、北条院さん」
「却下ですわ」
「北条院様」
「却下ですわ!」
「北条院ネネ氏」
「あり得ませんわ! もっと、フランクに! ありますでしょもっと!」
「……、……。……ネネ?」
「ふふん」
ぴこりん、と縦巻きツインテールが揺れて少女が胸を張る。
ちなみに今の沈黙の間にかなりの葛藤があり、北条院の娘を下の名前で呼び捨て等本来有り得ない事だ。
「それでは、よいしょ。失礼致しますわ」
「なんでわざわざ隣に座ってくんだよ」
「だって貴方の隣にもナナさんがいらっしゃるじゃありませんこと?
「わたしは対面でも構いません」
「あら、……結構、鍛えてますのね。前腕に上腕二頭筋、それに、胸筋も凄い……。見ただけでは分かりませんがこうして触ってみると殿方らしいとても逞しい肉体をお持ちで……」
「ずもももももも……!」
「うおっ!? ナナから見たことないくらい不機嫌なオーラが!?」
察してネネから距離を取り、リュウと両者の間に均等な空間が生まれる。
ここを取り敢えずの境界線と定めて、今日の本題である先日の戦闘のリプレイ映像をアウターギアを通して机に投影した。
「それで、どうやって
「その前に教えてくれ。なんで俺やナナに噛み付いたんだ? こっちに非があったら謝りたい」
リュウは北条院ネネと相対し目を伏せた。
自覚しないところで失礼な事をしたのなら罪悪感もあるし、何よりモヤモヤしたままでは正直話すのも億劫なところがある。
リュウ自身、自分が空気を読めるタイプでは無いので本心から頭を下げた。
「だって、転校生の上に容姿も綺麗でガンプラバトルも上手かったんですもの。授業態度も優秀。何より名前が似てるのが1番気に障りました事よ」
「一方的な妬みじゃねぇか!? 俺の反省を返せ!!」
謝り損だった。
「それで鼻を明かしてやろうと思って今回の舞台を整えたわけだったのですけれど、明かされたのはこちらでしたわね。お陰で先程も有象無象からバトルを申し込まれましてよ。……そのせいで少し遅れてしまいましたわ」
「え? 予定時間より全然早かったけど」
「コホン。とにかく、入学以来敗北した事が無かったこの
「良いけど、1つだけ条件がある」
「あら、何かしら?」
ネネは整った顔を傾げ、特徴的なツインテールを揺らす。こちらを覗く真紅の瞳。
「他言無用で頼む」
「北条院の名に誓って。一切誰にも漏らしませんわ」
眼差しは真摯だった。リュウより幼いながらもリュウ以上の修羅場を潜り抜けた歴戦のファイター。その紅蓮に燃える瞳が揺らぐ事なくリュウの双眸を捉えている。
「……、まず戦闘開始から既にこっちの戦術は始まって居たんだけど、ナナをまず別行動にすることが最初の難所だった」
「確か……GNアウター、でしたわよね? 本体と接続したあの機体」
「そうだ。まずナナに戦場の座標データを取ってもらう必要があるから、俺の仕事は時間稼ぎ。適当に会話を繋いで長引かせるのが目的だ」
「やっぱ聞いてて腹が立ちますわね」
「座標データをファングに打ち込んで量子ゲートを開く。そして、標的が俺達の指定した場所に位置していたなら、──特進クラスや世界の相手でも関係ない。どんな機体でも終わらせることが出来る」
過去に対戦した強者やこれから戦うであろう猛者相手にどうしたら勝てるか。
培った技量や戦略だけでは無く、土壇場をひっくり返す必殺技を放つ為にHis-ガンダムは作られたと言っても過言では無い。
「……
「そのフラムベルジュを土壇場でアレンジしたじゃねぇか。アレこそネネにとっては今後のバトルに支障をきたす大事な情報だろ。卑怯な真似はしたくなったんだよ」
幼いながらも芯の通った瞳を正面にリュウは答えた。
相手が相応の切り札を見せたのならこちらも返さなければ筋が通らない。過去の自分が犯したような過ちは2度とやりたくはなかった。
「ありゃお礼だ。この次は通用しねぇな。ハッハッハ」
「……。次は負けませんことよ」
「おう、臨むところだ。何回でも負けてやるよ」
小生意気な笑みを同じ笑みで返す。
少し間が空いてアウターギアによる立体映像を進めようと空間に指を伸ばした、その時だった。
「あ? 通話だ」
着信はコトハ。急な連絡に、横の2人へ視線で謝罪して通話へと応じる。
「コトハ? どうした?」
『あ、もしもしリュウ君? 急いで生徒会室に来て欲しいんだけど』
「生徒会室!?」
ネネとのバトルの事か!? あの騒ぎで怪我人が出たりして、その事での聴取か!?
そんな事を考えてると少年の額にどっと冷や汗が吹き出して、隣のネネへそろりと視線へ送るとリュウとは逆にどこ吹く風な表情を返してきた。
「
「そりゃそうだけどよ……」
『北条院ちゃんも居るんだ! 丁度良かった! リュウ君ナナちゃん北条院ちゃん3人で今から生徒会室に来て! じゃね!』
唐突に通話が切られる。
声音からして焦り半分、好奇心が半分のようなあまり聞いたことのない声なのが気掛かりだ。
「2人とも、行こう」
「はい」「ええ」