ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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6章38話『そして動き出す物語』

 私服登校制度の存在する萌煌学園でも生徒会役員は制服の着用を義務付けられ、それらを見に纏う者は文字通り学園の看板を背負う事を意味している。

 着用する制服はワッペンからベルトに至るまで全てが海外の高級ブランド会社のものであり、靴もシンプルな見た目でありながら牛革(カーフスキン)を使用した最上品だ。

 

 前を歩く生徒会長の足音だけが反響し、どのくらい歩いたのだろうか。不意に足が壁の前に止まった。

 

「着いたよ」

 

「着いたって……、真っ白な壁ですけど」

 

「そう見えるよね。でもこうやってデバイスをかざすとね」

 

「え!? なんだこれ!」

 

 リュウが壁を見渡していると目の前に黒の扉が突然出現した。

 元からあったとか、浮き出てきたではなく、瞬きを終えると目の前に現れたとかそういう感覚だ。

 

「じつはこの廊下は全て液晶画面なんだよ。凄いよね」

 

「凄いですけれど……、一体なんの為ですの?」

 

「さぁ! 分からない!」

 

「失礼を承知でたまに思うのですけれど、生徒会長。貴方少し抜けていましてよ」

 

「クラスのみんなからも良く言われるんだよね。さぁ入って入って」

 

 冗談を交えつつ促されるままに一同は扉の中へと足を運んでいった。

 

 ────────────────―。

 

「え、普通の教室?」

 

 開口一番コトハの口から出た言葉は肩透かしを食らったような少し間抜けな声だった。

 それもその筈だとリュウも目の前の光景を見て思う。

 教壇にホワイトボード、室内には見慣れた机に椅子。そして地下にも関わらずに窓が付いており外の景色は広大な草原とどこまでも続く蒼空。

 鼻腔に流れる空気までも爽やかな草木の香りで、肌に感じる風は本物と何ら遜色を感じない。

 正直、頭が混乱する。

 

「──元々は深海探査施設の技術だったが、酔狂な技術者が居てな。奴の設計を元に俺様が開発した物だ」

 

 教室の最後尾。窓側の机に肘を置く生徒が1人退屈そうな面持ちで口を開く。

 

「普通科3年コトハ•スズネ。同じく普通科3年リュウ•タチバナ。初等部3年ナナ•タチバナ。まァ妥当な面子じゃないか? 俺様の小間使いご苦労だったなナガト」

 

 目を引いたのは科学者然としたボサボサの伸びた黒の髪。()()()の制服の上には身の丈に合うギリギリの白衣を纏っており、丸メガネの奥の隈を伴った眼光がジロリとこちらを舐めた。

 

「それと、──あァ。先日無様に敗北を喫したお嬢様か。ここに呼ばれた事、そこのナガトに感謝するんだな」

 

「あ〜らあらあら? どこの誰かと思えば根暗の引きこもりじゃありませんこと? 屋敷にこもって人形遊びをしているナメクジさんがどうしてこんな所に? ──って、そうでした。ここも深い地下に位置するならナメクジさんが居ても仕方ありません事ね」

 

「やはり幼少期から紅茶でカフェインを摂取している個体は違うな。身体の発育のみならずオツムの方まで発育に異常があるとは。未熟体型め」

 

「何ですの。ぷっ……万年6席」

 

「……良いだろう。俺様の実験体に成れる事を許可する。光栄に思えよ、学園都市最高の科学者の覇道の礎になれるんだからな。ほら横たわれツルペタ」

 

「やるんですの!!?」

 

「ああやってやるさ!!」

 

 2人のやり取りに一同が面食らってそれを眺めている。

 額を突き合わせて怒鳴り合っている様子に生徒会長は苦笑しながら後ろ頭を掻いた。

 

「君達2人と一緒さ。幼馴染みなんだ、本当はとんでもなく仲良しなんだよ」

 

「「絶対有り得ない!!」」

 

「ほらね」

 

 顔を両者離すと丸メガネを直して咳払いをする。

 立ち上がった姿は中等部らしくまだ小さく、声を聞いた限りだとまだ声変わり前なのか若干高い。

 

「俺様は東征ハオ。特進クラス第6席。科学者をやっている──それにしても」

 

 ハオが白衣のポケットに手を入れながら入口に近付いて、リュウとナナの顔をゆっくりと見渡す。

 こうして近くで見るとハオの目元は隈こそあるが整った顔立ちであり、それが年齢とギャップがあって異様だった。

 

「な、なんだ? 俺とナナがなんかしたか?」

 

「ハッハッハ。何、そこの女を倒した人間の顔を間近で観察したかっただけだ。……ふむふむ、成程。おいリュウ•タチバナ、この後時間あるか?」

 

「へ? あるにはあるけど……」

 

「特製の精力剤をやろう。相当()()()()いる様子だぞ貴様」

 

「は?」

 

「貴様の年齢と生活している環境を考えるに無理もない。あぁ、効能の方は安心してくれ。死にはしないはずだ」

 

「ばッッッッ」

 

 リュウの顔がパッと赤くなって身を両腕で隠しながら後ずさる。

 一体な、何を言ってるのか……。

 

「馬っ鹿じゃねぇのお前!! なにコイツ! 何言ってんのお前!!」

 

「リュウ君、溜まってるって何?」

 

「知りません!! 知りませんもそうだけどっ……! 東征ハオ……? 東征って言ったか?」

 

 東征ハオはくつくつと袖で口を隠して喉奥で笑い、ひとしきり笑うと涙を拭って悪戯好きそうな表情をリュウに向ける。

 

「あァ。俺様の名前は東征ハオだが? そこの北上院と同じ旧体制の名だが気にしないでくれ」

 

「フン! 萌煌東西南北と言われる事に何も思わないですけれど、(わたくし)があなたと同じ分類だと思われるのが癪でしてよ」

 

「──では、挨拶はこのくらいにしておくか。ナガト、作戦の内容はどこまで伝えてある?」

 

「何も伝えていないよ。僕は口下手だからね」

 

「よろしい。貴様ら適当に席につけ。実のところあまり時間が残されていなくてな」

 

 時間……? 

 教壇に立つ東征に疑問を持ったままとりあえず席へと座る。

 

「すまないが今から言う内容は他言無用だ。──間もなく電脳世界(アウター)は消滅する。それも原因不明の勢力によってだ」

 

電脳世界(アウター)が……?」

 

「この映像を見て欲しい」

 

 東征の言葉と共に室内の灯りが落ちて、辺り一面が映像へと切り替わる。

 というか椅子と机以外全て映像だったのかとリュウは驚いた。

 

「先週あたりから出現したCPU制御のガンプラの噂を聞いたことがあるか無いかはこの際どうでも良い。貴様らは現実のバウトシステムをメインにガンプラバトルをやっているようだからな、1から説明してやろう」

 

 映像にはアウターを構成する宇宙空間と中央に位置する中央基地が映されている。

 現在βテスト中であるアウターの中心、アウターギアによってダイブしたプレイヤーが初めに訪れる拠点だ。

 

「アウターはまだβテスト中であり、世界最高の意識フルダイブ型バーチャル空間には変わりないがそのセキュリティに問題があってな。アウター内のサーバーデータは全てこの中央基地内部に存在している──あぁ、ちなみに今の情報を外部に流すだけであらゆる機関から追われる羽目になるからくれぐれも漏洩はしない方が良いぞ」

 

 喉奥で笑い、再び視線が映像へと向かう。

 淡々とした口調だがそれが逆に情報が素直に受け取れる。

 

「本来中央基地外縁部にCPU制御のモビルスーツ含め敵機と呼ばれる機体はポップしない上に近付く事も出来ない。無論近付くというアルゴリズムも本来存在しないが、これを見ろ」

 

 映像が再び切り替わる。

 中央基地外縁部、そこからやや離れた座標に数機の機体。

 

「黒色……? ちょっと違うね、茶色みたいな」

 

「反転色ですわね。色合いを逆にすれば良く見るトリコロールカラーになりますわ」

 

「そうだ。徹底改修やミキシング、ウェザリングを施された機体達は本来CPUとしてデータは存在しないが、そんな機体達がプログラムに反して中央基地へと侵略を行っている現状だ」

 

 丸メガネの位置を直して東征が続ける。

 

「無論中央基地のセキュリティはこの俺様を以てしても攻略は不可能だ。ハッキングも不可能でアウターに存在する全ダイバーのガンプラを総動員しても破壊は無理だろう。それでも」

 

 反転色の機体にピントが合う。

 施された加工も工作も類似点の一切が見当たらず、ただ色合いだけ統一された機体達。

 

「未知の挙動を示す機体達が中央基地へ侵略を行っているという行為自体が危険そのものだ。学園都市の演算装置もつい先程予測結果の1つを弾き出してな、その結果が電脳空間の消滅及び、学園都市の事実上の崩壊の様だ」

 

「事実上の崩壊……?」

 

「続きは次回話す。現在電脳空間を開発した会社が選んだ迎撃チームで24時間警戒をしていて、当初こそ危なかったが今は侵攻の波は抑えられている──さて、ここからが本題だ」

 

 画面が切り替わる。

 学園都市の街並みが映し出され、一際高いビルは学園都市最大の建築物。

 

「貴様らには学園都市及び煌萌学園の先鋭として電脳空間(アウター)を造った企業バラムと共に反転色の機体達の究明を行ってもらう」

 

「私はリュウ君と特進の試験受けるのが優先! 急にそんな事言われても……」

 

「俺は受けるぞ」

 

「リュウ君!?」

 

電脳空間(アウター)に原因不明の謎があるってんなら俺は協力する。勿論ナナもだ」

 

「リュウ•タチバナ。貴様が1番反対する事を想定していたのだが……。貴様はプロになるために特進を目指しているんだろう? 仮にその試験を棒に振ることになっても良いというのか?」

 

 その言葉にリュウは今一度自身の気持ちを振り返る。

 銀髪の少女ナナとあの夜に出会い、ガンプラの記憶を無くして、ぐちゃぐちゃになるくらい生き方が分からなくなって。

 支えてくれる人達を知って、応援する奴らが居てくれて、そんな彼らに恩返しする為プロになる。

 そこは譲れない、それでも隣の少女に関係する事なら話は別だ。

 ナナに関する事はまだ殆ど知らなくて、()()()が残した言葉もずっと気掛かりだった。

 

『答えは電脳世界(アウター)にある! そこでもう一度俺に会え、そのときに全てを教える!!』

 

 この謎を残したままナナと一緒にプロに成るなんて、それは考えられない。

 

「答えは変わらねぇよ。俺は協力する」

 

「そうか……ククっ、そうか……」

 

 リュウの言葉に東征は邪悪な笑みを浮かべて、その視線の先には生徒会長が立っていた。

 

「賭けはナガト、貴様の勝ちだ。……俺様はてっきりリュウ•タチバナはリアリストだと思っていたんだがな」

 

「トウドウ先生が気に掛ける生徒だからね。そこに僕は賭けてみた」

 

「え? え?」

 

 状況が理解出来ないで居ると生徒会長と東征が入れ替わり、普段と変わらない柔和な笑みのまま話を続ける。

 

「特進クラスへの編入試験は延期だよ。しかもこの作戦に参加すれば内申点や成績も特別に考慮する。これは特進クラスの全員が学園に認めさせた特例だ」

 

「そうなんだー! はいはーい! じゃあ私も受ける!」

 

「ありがとうコトハさん。……それで北条院ネネさんはどうする?」

 

 返答を促されたネネが立ち上がる。

 自信に満ち溢れたその佇まいを見て、全員がその答えに確信を持つ。

 

「先輩が二つ返事で参加を表明したんですもの。若輩である(わたくし)が断れるわけなくてよ」

 

「ありがとう。それじゃ現在この場に居る6名に加えてあと4人。計10名の部隊編成で作戦を行う。部隊編成と名打ってあるけど僕達は学生の身分だ。やっぱり引率の先生が居ないとね」

 

 生徒会長の視線が教室の後方へと向く。

 すると廊下から扉が現れたように突如として壁に扉が出現して扉がゆっくりと開かれた。

 

「予測された未来の1つではあるがどうやら学園都市の危機らしい。現在時間が取れる最大戦力の教員を呼ばせてもらった」

 

『──よろしくね。改めて紹介の必要は無いかしら。高等部学年主任及び特進クラス担任のトウドウ•サキよ』

 

『──しくよろ〜! 同じく特進の副担任やってるテンドウっす! 仲良くやろうぜ!』

 

 壮々たる人員だった。

 普段稽古を付けてもらっている師匠(せんせい)に加えて、コトハと生徒会長のバトルを止めたテンドウ先生。

 このメンバーが加わるのであれば解決出来ない問題なんて存在しないだろう。

 

「あれ? あと1人が来ない……?」

 

 生徒会長が扉の向こうを気にしている。

 あと1人……? このメンバーに加えてもう1人居るのだろうか。

 

『──すまない。連れが遅れてしまってね。引率である私が謝罪しよう』

 

 暗闇から聞こえたのは重い足音だ。

 普段聞く事のない重圧な靴の音は決して普段聞く事のない戦闘用の──軍靴。

 襟を正すついでに羽織り直したレザーの軍服がたなびいて()の存在を強調させる。

 

「ヴィルフリート•アナーシュタインだ。今回特別講師として萌煌学園に招かれた。どうか、よろしく頼む」

 

 教室がざわつく。

 一礼するその男を知らない人間はこの場どころか世界中居らず、ガンプラバトル世界大会において8位の座に君臨する現役の軍人。

 人呼んで、ドイツの軍神。

 

「おやリュウ君? 久し振りだね、元気だったか」

 

「は、はいっ! おかげさまで!」

 

「大分鍛えたようだね、姿を見れば分かるよ」

 

「ありがとうございますっっ」

 

 今でも緊張で身が強張り、あまりの存在感に視線を逸らすと横に立っている生徒会長含めメンバーから驚愕の視線を送られていた。

 なんでヴィルフリートと顔見知りなのか、という。

 

「さて、君達も入ってくると良い。友人になるかも知れないんだ」

 

「ヴィルフリートさんで最後では無いんですか?」

 

「部下が2人居る。彼らの面倒は私が見るから部隊の人数としてカウントしなくて良い。ほら、入ってきなさい」

 

『──違うんだってヴィルっち! アデルが道に迷ってたの! わたしは遅れたんじゃないんだって』

 

『……』

 

 扉から現れた2人に一同は沈黙をする。

 彼らを知らない人間の沈黙が殆どであり、ややあってヴィルフリートの横へ付く2人だったが。

 

「……」

 

「おま、え」

 

 リュウは知っていた。

 学園都市を去るあの夜、公園でガンプラバトルを行ったあの2人。

 ナナを知っている様子だったオレンジに輝く髪の少女と、長身の紫の男。

 男の冷めた瞳とリュウの目線が交錯し、沈黙がその場を支配した。

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