山岳部を開拓され広がる学園都市は残暑に喘ぐ日本の中でも標高の影響でかなり過ごしやすい気温だ。設備によって管理される湿度も相俟って晴天の空模様にも関わらず汗をかくことは無く、それでもリュウの額には汗が一筋垂れていた。汗は汗でも冷や汗だが。
「なんだよこのメンツ」
「ふはは。
「アデルぅ〜足疲れたぁ〜。抱っこして〜」
「……」
「生徒会の業務で忙しかったからこういった外出は久しぶりだなぁ〜。あ、リュウ君喉乾いてないかい?」
丸眼鏡の位置を神経質に直しながら独り言を呟く東征ハオ、アデルにエルオーネ。そして生徒会長ナガト•シュン。個性的過ぎるメンバーが派遣された理由もトウドウから告げられずリュウは皺の消えない眉を揉む。
「ありがとうございます生徒会長」
「いつでもナガトと呼んでくれよ。……バラムで頼れるのは君くらいなんだから」
「あ〜」
なるほど、と。
耳元で囁くナガトの言葉にリュウは前を歩く3人の背中が視界に入る。
リュウ自身彼らとは親しい訳でもなく人となりは知らないが、社交的かと言われれば間違い無く首を横に振る。
「お兄さんお兄さん」
「え?」
「おんぶして」
「は? ……え、ちょっ!?」
突然目の前にエルオーネが居たと思えば、ジャングルジムを駆け上がる子供の如くリュウの背中に飛び乗った。
「お兄さんありがとう〜! アデルったらこーんなに可愛い女の子の言う事聞かないんだから嫌になっちゃうよね。んべ〜っ」
恐らく後ろであっかんべをしてる少女の行いに、それでも前を歩くアデルは関心を示す様子は無い。
徹底した無視。
「おやリュウ君と君達は知り合いなのかい?」
「そだよっ。大好き!!」
「はぁ!?」
「ハハハ、懐かれてるね」
首に手を回され左右に振られながらリュウは改めて少女とアデルと会った夜の事を思い出す。
正直、思い出したくはない。
学園都市を出る日、Linkの影響も多少あったが気分が最悪の中ガンプラバトルをした事を覚えてる。
「エルオーネちゃんはナナとは知り合いなのか?」
「エルって呼べ!」
「エ、エルちゃんはナナとは知り合いなのか?」
「ううん? こないだ会ったのが初めて」
きょとんとした表情でリュウを見る瞳に嘘の色は無い。詮索するにしてももしかしたら繊細な事情があるのかと一旦歩く事に専念する。
「おいナガト。教諭からの許可証は貴様が持っているんだろう? そろそろ着くぞ」
「ほんとだ。うわ〜でっかいなぁ……」
道を曲がるとビルが立ち並ぶ市街地、その中心部に聳える一際巨大な建造物が顔を覗かせた。
何十階建てか分からないほど圧巻の高さと大きさ、ビルの根元にはピラミッドを彷彿とさせる幾白もの階段と長大な道路。
「セキュリティに許可証を見せないと入れないんだよ。凄いよね」
隣のナガトが弾んだ声音で鞄から六角形の学生証を取り出し、道の中央に建てられた守衛の元へと歩いて行った。