ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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7章4話『白面髷』

 すっごい綺麗でお洒落な喫茶店みたいだな、と。リュウが抱いたのはそんなぼんやりとした感想だった。

 白を基調とした広い廊下の窓際には木目のタイルと丸テーブルが置かれ、研究服を着た職員達が珈琲を飲んだりPCを開いたり雑談に興じたり、各々自由な時間を過ごしているように見える。

 大手IT会社や証券会社の仕事スタイルを昔テレビで見た事があるが、ほぼ変わらずのイメージ通りであり先頭を歩くユミ•サクラも職員達と気さくな挨拶を交わしていた。

 

「兄さん兄さん。喉乾いたんだけどなんか無い?」

 

「なんだ急に。……しかもさっき全部飲んじゃったしなぁ」

 

「うへぇ〜喉乾いた〜」

 

「あら、私とした事が気が利かなかったわね。ここの飲み物は全て無料よ。何が飲みたい?」

 

「お姉さんありがとう〜! じゃあね、え!? いっぱいある! 迷う!!」

 

 会話を聞いていたユミがしゃがみ込んでエルと視線を合わせる。そして何やらアウターギアで操作したかと思うと飲み物のメニューがリュウの視界にも表示された。

 

「あなた達も好きなの飲んで頂戴。この天気の中、学園から歩いて来ているものね。……若いって良いわね」

 

 やがて自走する小さなドラム缶みたいなロボが一行の前に止まりゆっくりと平頭が開いて、ハロが乗っかっていた。

 

『ゴチュウモンヲドウゾ』

 

「わたしタピオカキラキラミルクティー!」

「僕は烏龍茶で」

「俺様はゼクノヴァZONE、2缶!」

「…………水」

「俺は冷やし坦々麺」

 

「「………………」」

 

「え!? 暑い中歩いたから塩分補給するのは普通じゃね!?」

 

「……私が自販機ハロ君1号を開発しておいて何だけど、初めてそれ注文している人間見たわ」

 

 微妙な空気が流れるも束の間、直ぐにハロがその大きな胴体からそれぞれの飲み物を格納されたサブアームで器用に渡して回り、最後のリュウに渡されたのは良くある缶タイプの物ではなくて。

 

「いや坦々麺そのまま来たわ」

 

 そのまんまの容器とツルツルの坦々麺だった。

 

 ──────────────────。

 

「着いたわ。遠くて悪かったわね」

 

 何回エレベーターを降りて何回上がったのか分からないほど中を移動して、テーブルに座る研究者達から「坦々麺……」「ほんとだ……初めて見た……」「坦々麺みたいな顔……」と後ろ指差されながらようやく一行はひとつの部屋の前に辿り着いた。

 

「月光の間?」

 

「中は和室よ。博士は和室でしか研究しないの」

 

 リュウの一人ごちた台詞にユミ•サクラが隣で返す。

 部屋の前には旅館に良くあるその部屋の名前が記載された木の札が立てられており、ここだけ何故か廊下がミシミシと音が鳴る日本造りとなっている。

 

「博士。萌煌学園の方達がお見えに」

 

 返事は無く、代わりに1つ大きなため息と共に黄土色の目を眇める。

 

「入って良いわよ」

 

「居るんですか?」

 

「良いわよ。どうせ気付かないから」

 

 ユミの言葉に疑問を覚えつつ月光の間に足を踏み込む。

 襖を開けると靴を脱ぐスペースがあり、光沢のある木の廊下が出迎えた。

 

「ニッポンの家じゃん!」

 

 すっかりリュウの背を陣取ったエルが飛び降りて珍しそうに月光の間を見渡した。

 確かに名のある古い日本家屋といった印象で、額縁や壺やメッキ塗装の施された武者ガンダムが正座をして一同を出迎える。

 

「僕の実家にもあるなぁ武者ガン」

 

「確かに俺様の家にもあったな。熊の木彫りの如くどの家にも置いてあると聞いたが本当のようだな」

 

「俺の家にもありました。なんなんでしょうねアレ」

 

 そんな事を呟きつつ進むと大きな襖がまた現れる。

 白と金で彩られた、一目で分かる絢爛な造り。物音は微かに聞こえるが何をしているかは分からない。

 

「博士、失礼します」

 

「「……っ」」

 

 年老いた男性が居た。

 畳の並ぶ現実な造りの室内、その隅に設けられた1人分の卓。

 盆栽を愛でる眼差しのよう、老人は微笑みさえ浮かべながら。

 

「出来たのじゃ……」

 

「博士。ユミです。萌煌学園の方々がお見えになりました」

 

「遂に出来たのじゃ〜ッ!!」

 

「……」

 

「麻呂の麻呂だけの麻呂によるガンプラ!! デカールの位置も配色もブラックライトによる各種センサー類の発光表現!! 加えて徹底改修したプロポーションに麻呂がスクラッチした追加装備!! 誰かに見したいでおじゃる! 誰かに見したいでおじゃる!!」

 

 ガンプラを作っていた。

 老人は(まげ)を施した頭部に汗を浮かべて手にしたガンプラを掲げている。

 カバカーリーだ。それも、遠目で分かる徹底された作り込みの。

 

「博士。織田院博士。ユミです。萌煌学園の方々がお見えになられました」

 

「おぉサクラ! 見てたもうこのカバカーリーを! 凄いであろう!? 良いであろう!?」

 

 子供のように破顔する織田院と呼ばれた老人がひとしきり興奮の言葉を述べた後に、その屈託のない笑顔をようやく一同に向けた。

 

「初めまして織田院博士。萌煌学園生徒会長ナガトシュンです。かの天才にお会いできて光栄です」

 

「ナガト、このガンプラはカッコ良いか!?」

 

「とてもカッコいいです」

 

「なら、そちのフリーダムと麻呂のカバカーリーどちらがカッコ良いか?」

 

「え」

 

 硬直する生徒会長の顔。誤作動を起こした機械のようにいつもの笑みが止まり、口は半開きのままだ。

 

「麻呂のカバカーリーとそちのフリーダム、どちらがカッコ良いか!?」

 

「勿論それは」

 

 その場の誰もが思った。

 あの生徒会長の事だから絶対言うだろう。

 だからこそ訪れる目の前の老人が癇癪を起こす未来が。

 

「僕のフリーダムです」

 

「おじゃ!?」

 

「僕のフリーダムの方がカッコ良いです」

 

「お、おじゃ……。おじゃ……」

 

「「……」」

 

「おじゃ──ッッ!!」

 

 沸騰したヤカンが如く老人の顔が真っ赤に染まり結った髷がどういう仕組みか天を衝く。

 するとプラフスキー粒子が床から揺らぎ出て、室内が瞬く間に緑光で満たされる。

 

「全員そこへ直れぃ!! 麻呂のカバカーリーに賛同をしなかった誅罰を喰らえぃ!!」

 

 バウトシステムの画面がリュウを含めた全員へと表示。バトル形式1VS6。

 織田院博士のカバカーリーがどれだけ強くあろうと、この人数差では絶対に勝てない。

 謝りの横槍でも入れようかとリュウが思案するも、勝負は有無を言わさない間髪で始められた。

 

 

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