ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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7章7話『白い影』

「わぁ……!」

 

 無機質な白と燦々と煌く星々達。

 電脳世界(アウター)の中央、前線基地。分厚い耐熱対衝撃ガラスから覗ける宇宙を見てダイブしてきた少年達から感嘆の息が漏れる。

 

「見て見てネネちゃん! ナナちゃん! すぐ外にでっかいハロがいるよ!」

 

「セキュリティですわね。手を振ったらメインカメラが点灯いたしますわ」

 

「目が光りました」

 

「小さく手を振るナナちゃんも可愛い……!!」

 

 3人も例外ではなく、奥行きの見えない長い廊下を何だかんだ外の景色を眺めながら歩いている。

 ただ、蒼色の瞳だけは意識を集団の先頭へと向けていた。

 

『と、いうわけで!』

 

 パン! と手拍子が小気味良く響いて集団の意識が1つに集中する。

 彼等にとっては信頼と尊敬の象徴であり、電脳世界(アウター)にログインする際アバターすら介さず自身のありのままの美しさで仮想現実にダイブするそのあり様。

 

『ここからは自由行動! 本当はもう30分くらい施設の紹介をやらなければいけないのだけれど、自分達の足で施設や外を見て回りなさい! 先生が後で誤魔化しとくから安心して遊んでもいいわよ!』

 

『は〜い!!』

 

 萌煌学園最優の教員、トウドウ•サキ。

 少女の知る蛇を思わせる眼光は鳴りを潜め、ただただ柔らかい笑顔をナナ含め全員に振り撒いていた。

 

『ただ』

 

 笑顔が、増す。

 

『ここのブロックは今日私達の貸し切りだから思い切りはしゃいで良いのだけれど決して外のブロックへは行っては行けないわ。何故か分かる人はいるかしら〜?』

 

「はい! はい!」「先生知ってるよ僕!!」「わたしわたしわたし〜!!」

 

 最優の問いに、勢いよく思い切り手を伸ばし子犬の群れの様にぴょんぴょんと集団が跳ねる。

 後方の3人。ナナを含む3名はその様子を眺めていたのだが、蛇の視線がナナを捉えた。

 

『はい! ナナ•タチバナさん!』

 

「……!」

 

『どうぞ、答えて』

 

 今まで会話どころか声を掛けられたことすら無い相手に向けられる善意ではなく、過去に存在を懸けた戦闘を電脳世界(アウター)で繰り広げた記憶がまざまざと少女の脳裏を過ぎる。

 

「ナナちゃん……?」

 

「…………っ」

 

「トウドウ教員。(わたくし)が答えても? ナナさんは先生に声を掛けられた感動で声が出ない様子なので」

 

『ええ、どうぞ!』

 

「簡単な事。外には一般のダイブしてる人達がいるから、ですわ。他の理由は先生がお知りでしょうが」

 

『そういう事! なので皆んなはここのブロックからは出ない様にね! 分かった人は大きな返事を私に頂戴!』

 

『『は〜〜〜い!!』』

 

 ──────────────────―。

 

「で、貴方達はお友達と遊ばないのかしら」

 

「あいにくお友達と呼べる人間は2人しかおりませんの」

 

「ネネちゃんが今わたしたちのことお友達って言った……! ネネちゃんが今わたしたちのことお友達って言った……!!」

 

 見上げる側と導く側。

 教師と教え子という本来の立場とは裏腹、ネネが向ける眼差しはガンプラファイターのそれだった。

 

「先生、この社会科見学はあとどのくらいで終わりますこと?」

 

「2限分取ってあるからあと45分程ね」

 

「そう」

 

 小さく呟いた後、特徴的な縦のツインテールが大きく揺れる。低重力の中、跳躍した少女の頭頂がトウドウの高さを僅かに超えて、視線の高さが逆転する。

 

(わたくし)とガンプラバトルを」

 

「……」

 

「最優との対戦、夢にまで見た決闘でしてよ」

 

「本当に申し訳ないわ。今は応えられないの」

 

 それは潔ささえ感じる程に下げられた頭と共に告げられた。

 数秒の後、ゆっくりと上がる表情は真摯そのもので縦巻きの少女は足を床へとつけた。

 

「理由を教えてもらっても良いですか先生」

 

「貴女とのガンプラバトルは絶対に愉しすぎてしまう。他の事に意識を傾ける事が出来ないくらいに。それは今は出来ないの」

 

「なら、試合を預けてもよろしくて?」

 

「勿論。北条院ネネさん。その時が来たら全力で相手するわ」

 

 ぽんぽん、と頭に手を置かれ肩透かしされた少女はバツの悪そうな顔で外を見る。

 それと、同時だった。

 

『ナナ! 聞こえるか! 今すぐログアウトしろ!』

 

 転瞬。白銀の少女の意識が切り替わる。

 アウターギアを介した通話ではなく、”あの日”から行使できるようになった2人だけの意思疎通。

 日常では制限されているその行為をリュウ自ら破るということはそれだけで緊急事態だ。

 

「2人とも。わたしと一緒にログアウトしましょう」

 

「へ? ナナちゃん? どうしたの? お腹痛い?」

「それはどういう」

 

「理由を説明する時間がありません。お願いします……!」

 

 語尾が強まる少女を見て、2人もまた異常事態を悟る。顔を見合わせた後、視線でメニューバーを開きログアウトの選択画面へと移行。

 

「あ、あれ?」

 

「メンテナンス中。あら、タイミングが悪い事」

 

 意識を繋げている少年の青ざめる顔がまざまざと浮かんだ。

 その理由を詮索など必要無い。ナナは少年の声を待つだけだ。

 

師匠(せんせい)! アンタが予約したブロックならアンタの権限で全員ログアウトさせる事は出来ないか!?』

 

「開口一番どうしたのかしら。勿論そんなもの今試してるわ」

 

 突然の通信に困惑する事なく、トウドウは視線を滑らせ最短でその項目を選択する。

 それも、エラー。

 

「これは……」

 

師匠(せんせい)、ナナも一緒に居るんですね。俺達がそこへ行くまで持ち堪えて下さい!』

 

「了解。勝利条件と敗北条件は?」

 

『勝利条件は時間を稼ぐ事、俺が来るまで持ち堪えてください! 敗北条件は撃墜されない事! 墜ちたら戻れないです!』

 

 断言した。

 少年の言動とスケジュールを脳裏で照らす。今日はバラム本社で面会の筈。そこで例の件で何かあったか。

 

「了解。遅れたらまたご褒美よ」

 

 通信終了。

 トウドウの通信に3人は沈黙する。

 無理もないなと、トウドウは3人に退避を促そうと手を伸ばした。

 その手は、可愛い子供達の1人に受け止められる。

 

「先生、わたしはみんなを集めて安全なところに行きます。先生は先生のする事をやってください!」

 

「アオカさん……」

 

(わたくし)もその件を噛んでいる以上見過ごす事は出来ませんわ。邪魔は致しませんことよ」

 

 アバターの衣装が通常服からパイロットスーツに代わりネネは一歩前に出る。

 ナナもその隣へ足を踏み出し因縁の相手を見つめた。

 

「トウドウ•サキ。わたしがサポートします。機体の同調を」

 

「貴方……」

 

 少女の瞳と相対するその後方。

 宇宙が覗ける対衝撃ガラスに映る星が、一瞬大きく揺らぐ。

 これは、

 

「左右に避けなさいッッ!!」

 

 肉眼で視認して驚愕する近距離でのミラージュコロイド•ステルス。ここまで近付くまで全く気が付かなかった。

 反転色によって病的なまでに白に染まるブリッツガンダムのトリケロスが前線基地の一角へと振り下ろされた。

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