ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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7章8話『罪の上に』

「1ヶ月もしないうちに、世界が滅びる……?」

 

 その荒唐無稽な内容にその場の多くの人間が次の言葉を出せない。普段から一蹴するような言葉でも状況と人物と、そして織田院の目の奥に窺える底知れない感情が少なくともリュウにとって重大な事柄だと否応にも理解出来た。

 

「ハッ、電脳世界(アウター)が消滅する可能性については知っているが、何? 世界が滅びるとは大きく出たな? 根拠を聞かせて貰おうか」

 

 そんな中、明らかに嘲笑を込めた物言いと顔付きでハオが前に出た。大きな丸眼鏡の位置を直しながら丈の合わない白衣で腕を組む。

 

「どこから話すかの。……小童、そちたちが持っているアウターギアが何で作られているか知っているかの」

 

「外装及びフレームは合成強化プラスチック、軽量チタン。内部には大量の並列処理されている半導体」

 

「そうでおじゃ。比率としては半導体の方が圧倒的と言っていいほどアウターギアの内部に搭載されているでおじゃ」

 

「それが、世界が滅びる事にどう関係があると言うんだ?」

 

「急くでない。過去に提唱されたムーアの法則という論があっての、そこの顛末は知っているでおじゃ?」

 

「……何十年も前にインテル社の創業者ゴードン・ムーア氏が論じた半導体技術の進化予測の指標で「半導体の集積率は18カ月ごとに2倍になる」と定義された法則だな? 大規模集積回路で使用される半導体の最小単位「トランジスタ」の数が18カ月ごとに2倍に増えてコストは半分に削減されるというとんでもない理論。懐かしいな」

 

「リュウ君、僕には2人が何を話してるかさっぱりだよ」

 

「俺もです生徒会長。ガンダム•トランジスタのところまでは理解出来ました」

 

「うるさい馬鹿ども! 半導体は記録とか色々出来る媒体だとでも覚えておけ!!」

 

 指を指されて両名は肩を落とす。

 隣を見ると初めから聞いてないと顔に書いてある少女と紫髪の青年が腕を組んで顔を伏せていた。

 

「で、そのムーアの法則とやらがどうした? あれは半導体の集積率に物理的限界が存在する事が判明して使い物になっていない」

 

「それが、実際はなっとったのじゃ」

 

「…………何?」

 

「語弊があるの。20年前ムーアの法則はプラフスキー粒子の出現によって絵空事ではなくなった。それどころか集積率は何乗倍にも膨れ上がった」

 

「初耳だ。そして有り得ない。お言葉だが博士、半導体以上の媒体となると再現不可能な哺乳類の脳くらいしか無いが、あれか? 実際は生物の脳以上に半導体の集積に成功したと?」

 

「そうじゃ。勿論世間には公表しとらん。日本とアメリカのごく一部の科学者だけが知る重大な事実じゃった」

 

 遠い目をする博士は彼方を見ているようで、それが記憶を辿っていると横顔で理解出来た。

 

「話が逸れたの。で、世界が滅びるわけじゃ」

 

「そこが結びつかん!! 今の話も納得していないが、だとしてもどうして世界が滅びるだの馬鹿な事が言えるんだ!」

 

電脳世界(アウター)はの、並列処理された超密度の半導体を包するアウターギアを人間の脳と同調させ、更にそれらを同時に起動させることで構築される究極の演算装置の通称じゃ。じゃが、ここ数ヶ月前からかの、意図的に内部データへアクセスを試みた者がおっての、システムの権利を僅か一部奪われたのじゃ」

 

 待て。

 

「初めて知った事実だが、まさか初の有人試験では無いだろうな? それもそうとして、学園都市に居住してきた人間全員がモルモットだと?」

 

 待て。待て。

 

「否、人体実験なぞとうの昔に終えておるのじゃ。麻呂が言いたいのはつまり──」

 

 鼻腔の奥に血の匂いが充満した。

 何かが切れたのだとリュウの脳裏を過るが、そんなもの考えている余裕は無かった。

 気が付いたら手が出ていた。織田院の豪華絢爛な襟を掴み、布越しでも自らの爪で掌を抉る。

 

「なっ!? なんでおじゃ!? 一体どうして……!?」

 

「テメェが……!」

 

「なッ!? なんじゃ!? ちょ、待っ!?」

 

「テメェがナナを……!! この野郎……ッッ!!」

 

「ぎゃーッッ!! 下ろすでおじゃ!! ぎ、息が苦しいでおじゃ!!」

 

「リュウ君!? 手を離すんだ! どうしたんだ一体!」

 

 生徒会長から羽交締めにされようやく手を離す。視界が赤く歪み、今この瞬間にもまた飛び掛かってしまいそうな衝動に駆られる。

 ──目の前のこの男がナナに実験を施した人物なのだ。

 

「びっくりしたたも〜……。──そち、今ナナと言ったか?」

 

「言った。言ったさ」

 

「ふむ」

 

 襟元を正し、思案するように天井を見る。

 その仕草すら今では神経を逆撫でられる錯覚を感じ自制に集中した。

 

「そちの話は後で個別にするでおじゃ。約束なのじゃ」

 

「……、手を上げてすみませんでした。ハオも話を中断してごめん」

 

 そう言うしか無かった、と同時に場をかき乱した罪悪感がようやく遅れてやってきた。

 ハオは丸眼鏡を直しながら鼻を鳴らして博士と再び対峙する。

 

「にーさんにーさん」

 

「え?」

 

「大好き〜」

 

「は?」

 

 何故かエルが腕を絡ませてきて、そのまま話が続けられた。

 

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